危険な頭痛とは?頭が痛いときに考える事

頭痛はよくある症状です。アイスクリームやかき氷を食べたときに起こる頭痛もありますし、夕方になると頭が痛くなる人もいます。天気が悪くなると痛みを感じるという人もいるでしょう。日本では人口のおよそ4人に1人は頭痛を患っていると言われ、よくある症状と言えます。

一方で、頭痛は非常に危険な命に関わる病気のサインでもあります。どのような頭痛が危険なのか、この記事で解説していきましょう。

目 次

第1章:頭痛はどのようにして感じる?

頭痛と言っても、非常に様々な原因でおこります。先に述べたように、アイスクリームによる痛みもありますし、肩こりによって頭も痛くなると言う人もいます。怖いものでは脳出血による痛みもあります。
では、頭痛はどのようにして感じるのでしょうか。
まず意外に思われるかもしれませんが、脳自体は痛みを感じません。脳の中には色々な機能を持った細胞と、細胞同士を繋ぐ神経のネットワークがありますが、いずれも痛みを感じるセンサーを持っていないのです。
このことを利用して、意識下開頭手術という手術もあります。皮膚や骨は痛みを感じるので頭を開けるまではしっかり麻酔をかけて痛みを感じないようにして脳を出します。その後、麻酔をさまして意識がある状態で、脳の手術をしていくのです。脳は非常に狭い場所に色々な機能が詰まっていますから、脳のそれぞれの部分がどのような役割をしているのか、目が覚めた状態で確認しながら手術をしていきます。この手術は、例えば指を動かすような非常に精密な作業を担当する部位のすぐ近くに腫瘍ができた場合に行われます。手術中に指を動かしてもらいながら腫瘍と指を動かす正常な脳の部分の境目を確定し、腫瘍だけを摘出するような手術を行うのです。この手術で分かるように、脳自体は触っても、切っても痛みを感じないのです。
話がそれましたが、では、一体頭痛はどのような原因で起こるのでしょうか。
まずは頭の解剖を見ていきましょう。

頭痛はどのようにして感じる?

頭は断面で見ると、上の図の様な構造をしています。表面から順に皮膚、皮下組織や筋肉、骨、硬膜、くも膜、くも膜下腔、脳となっています。
硬膜とくも膜は別々の膜ですが、間には液体や気体があるわけではなく、普通はひっついています。二つの膜を合わせて髄膜ということもあります。
また、図には示していませんが、軟膜という膜も存在します。軟膜は脳の表面に張り付いている膜で、顕微鏡で見ると確認できる程度の膜です。手術をしたり、解剖をしたりしたときにも脳から剥がすことができない膜ですから、ほとんど気にすることはありません。 くも膜と脳の間にはくも膜下腔という空間が存在しています。ここの空間は、脳脊髄液という液がためられており、脳は脳脊髄液の中に浮いている事になります。ちょうどスーパーで売っている豆腐が水の中に浮いているような状態です。それにより、外部から衝撃がかかっても脳脊髄液が衝撃を吸収し、脳にはほとんどダメージが来ないようになっています。

さて、これらの組織のうち、痛みを感じるのは皮膚や筋肉、骨、硬膜です。あとは脳の中の痛みを感じる神経自体が直接刺激を受けることで痛みを感じることがあります。ですので、頭痛がある場合はこれらのうちどこかに原因があって痛みを感じているという事になります。
痛みを感じる組織には、それぞれ痛みを感じるセンサーが備わっています。そのセンサーが一定以上の強さの刺激を感じると痛みがあると判断し、信号を発します。すると神経がその信号を脳へと伝え、痛みがあると感じるのです。

第2章:頭痛の分類

頭痛を見るときには、頭痛の診療ガイドラインというガイドラインを参考に診療を行います。現在2021年版が発行されており、これに従って診断を進めていきます(ガイドラインはあくまで多くの人に適応されうるという内容をまとめたものであって、個々の状態によって診断や治療方針が変わることがありますから、ガイドラインが絶対という訳ではありません)。
このガイドラインでは、頭痛をまず一次性頭痛と二次性頭痛、その他の頭痛に分類しています。その背景には、2018年に、国際頭痛分類第3版(ICHD-3と略されます)が発表され、それに従って分類をしたという事があります。この分類をすることで、頭痛の原因をしっかりと診断し、治療を行えるようにする事と、原因があるのにもかかわらず原因の治療をせずに漫然と痛み止めを使うことで、痛み止めがだんだん効かなくなり頭痛がひどくなってしまうような状況を避ける事ができるようになります。
では、それぞれの頭痛はどのような特徴があり、どのような病気が当てはまるのでしょうか。

一次性頭痛
一次性頭痛は、いわゆる“頭痛もちさんの頭痛”です。特に脳に原因がみつからない頭痛です。普段からだったり、あるいは特定の状況で頭痛が出てきたり、出てこなかったりします。これらの頭痛は言い換えれば、命には関わらない怖くない頭痛とされますが、その痛みは我慢できないほど強いこともあり、生活の質を落とします。ですから、脳に異常が無いからとりあえず痛み止めを飲めば良い、という訳ではなくしっかりと一次性頭痛の中でもどの頭痛なのかをはっきりさせて、治療を行う必要があるのです。
ガイドラインでは一次性頭痛には片頭痛、緊張型頭痛(筋緊張性頭痛)、三叉神経痛、その他の一次性頭痛疾患が挙げられています。群発頭痛という頭痛もこの一次性頭痛には含まれます。

二次性頭痛
二次性頭痛は、脳の機能異常では無く、脳やその周辺の組織に何らかの異常がおこり発症する頭痛です。例えば出血や感染、外傷などの異常事態によって起こって来ます。もちろん、命に関わることが多い頭痛ですから、早期に発見し治療する必要があります。
二次性頭痛に含まれる頭痛には、頭部外傷、血管障害による頭痛(脳出血やくも膜下出血など)、非血管性頭蓋内疾患による頭痛(脳腫瘍など)、感染症による頭痛などがあります。

その他の頭痛
脳神経の有痛性病変や顔面病変、その他の病変が挙げられていますが、特殊な内容ですからこの記事では取り扱いしません。

第3章:色々な頭痛

頭痛の原因がある程度分かって、分類も分かったところでそれぞれの頭痛について解説していきましょう。

片頭痛
一次性頭痛の代表格です。若い女性に多い頭痛で、人口の約10%程度に見られるとされています。「片」頭痛の名の通り、片側に起こる事が多いですが、両側性の場合もあります。主に前頭部に痛みを感じる事が多いです。
痛みは脈拍に一致してズキンズキンと痛みます。1ヶ月に1回程度の頻度で起こる事が多く、発作が起こると一日程度痛みが起こります。
痛みの原因ははっきり分からない場合も多いですが、一部は頭の中の血管が、周囲の神経を圧迫することが原因であるとも言われています。ですから血管の拍動に合わせてズキンズキンとした痛みを感じるのです。
また片頭痛は母親からの遺伝がある場合が多く、親子で悩んでいることも少なくありません。
また、片頭痛の特徴として、前駆症状があります。約30%の人に見られるのですが、軽い頭痛が起こったり、目の前がチカチカしたりといった症状が起こった後に痛みがやってきます。
ストレスや月経周期、睡眠不足などによって起こる事が多い一方、安静や頭の冷却、睡眠などで軽減します。
片頭痛は長年痛み止めを飲むだけの治療が行われていましたが、最近では片頭痛に特化した治療薬も出てきています。片頭痛らしいと思った場合には薬局で痛み止めを買って対処するだけではなく、医療機関を受診すると良いでしょう。

緊張型頭痛
筋緊張性頭痛とも呼ばれる頭痛です。「筋」がつくことから分かるとおり、筋肉が原因の頭痛です。一般には、肩こりからくる頭痛とも言われています。
肩こりはそもそも、僧帽筋が凝り固まることで起こります。僧帽筋とは、背中にある筋肉で、縦に長い菱形の様な形をしています。菱形の上の頂点が頭蓋骨に、両側の頂点が肩甲骨に、下が腰の脊椎に付着していて、体幹を整える動きや肩の運動を支える働きをしています。長い時間書き物をしていたりタイピングをずっとしていたりすると、知らず知らずのうちにこの筋肉に力が入り、だんだんとこわばってきてしまいます。

緊張型頭痛

肩こりは僧帽筋の肩の辺りの症状ですが、僧帽筋は後頭部で頭蓋骨にも付着していますから、こわばった筋肉によって後頭部の辺りが引っ張られて痛みを感じます。また、僧帽筋だけではなく他の筋肉も体を支える為に収縮している事が多く、後頭部に付着する筋肉の様々が痛みを発することになります。
緊張型頭痛の特徴としては、肩こりが先行することももちろんですが、肩を動かすと筋肉の引っ張りがとれて症状が軽快するということがあります。特に腕を後ろに回したり、肩を持ち上げたりする運動で改善することが多く、元の体制に戻るとまた痛みが出てきます。
時間的にも仕事をし続けた後の夕方に強くなる事が多くなります。
対処法としては普段から肩こりが起こりにくいよう、正しい姿勢で仕事・作業を行うことが予防になります。症状が出てきた場合には入浴や運動をすることで肩の筋肉をリラックスさせ、緊張を取ります。鎮痛薬も有効です。

三叉神経痛
三叉神経とは、顔面の感覚を伝える神経です。脳から出た後、すぐに3つに分かれ、額・目の下から口の上まで・口の下と、顔面を3カ所に分かれて感覚を伝える仕事を担当します。
三叉神経痛は、三叉神経の根元のところで血管が圧迫することで、圧迫された領域の神経が、“痛みがある”と伝えてしまい、痛みを感じる病気です。神経が刺激されて痛みを感じるので、痛み止めはあまり効果がありません。特殊な薬剤を使用する場合や、血管の圧迫が明らかな場合は手術でその圧迫を解除するような治療を行う場合もあります。

脳出血
二次性頭痛です。脳の中を走る血管が突然切れることで出血し、脳の中に血の塊ができます。先ほど説明した通り脳自体は痛みを感じませんが、脳の中に血腫ができて周囲の脳が圧迫され、圧力が上がります。脳の圧が上がると、それを痛みとして感じるのです。ですから、脳出血と言ってもごくちいさなものでは痛みがない場合も稀ながらあります。
脳出血の場合は、出血した場所とサイズによって、様々な症状が併発します。例えば体を動かす神経の近くで出血すれば麻痺が起こりますし、しゃべるための中枢の近くで出血を起こせばろれつが回らなくなります。出血が多く、意識を保つ為の脳の重要な部位が圧迫されてしまうと、意識を失います。
一部の脳出血では手術を行いますが、脳の非常に重要な部分に近い場所での出血や、少量の出血の場合は手術によるリスクが高かったり、手術をしても回復が見込めなかったりする場合があり、手術を行わないという選択肢もよくあります。手術を行わない場合は血腫が自然に吸収されるのを待ちながら、脳の機能がこれ以上落ちないようにリハビリを行います。
いずれにしても早期に診断と治療を行う必要がありますから、「突然」の頭痛、さらに麻痺やろれつが回らないといった症状が伴えば、すぐに受診が必要です。

くも膜下出血
有名人でもくも膜下出血を起こした人が多くいるため、この病名を聞いたことがある人も多いでしょう。
くも膜下出血は、くも膜下腔に起こる出血です。一部、頭の外傷で起こす場合もありますが、多くの場合はくも膜下腔を通る血管が破綻することで出血が起こります。 とはいえ、普通の脳血管はそう簡単には破綻しません。しかし、先天的に脳の血管が弱いなど、様々な理由で動脈にこぶのようなものができることがあり、これを動脈瘤と呼びます。動脈瘤は壁が薄かったり弱かったりするため、突然破裂して出血します。

くも膜下出血

出血を起こすと、くも膜下腔に血液が広がり、頭蓋骨の中の圧が急激に上昇します。すると、脳の圧が上昇しますから、出血をしたと同時に突然の痛みを感じます。「突然バットで殴られたような」と表現することも多くあります。
治療は、やはり血液が吸収されるのを待ちますが、一度破裂した動脈瘤はかさぶたができているだけの状態になりますから、少し血圧が上がったり刺激があったりするだけですぐにまた破れて出血してしまいます。一度出血して既に圧力が上がっているところに再度出血して圧が上がりますから、ほとんどの場合意識を保つ脳の重要な部分も高圧でやられてしまい、取り返しのつかないほどの重症になってしまいます。
ですので、くも膜下出血を起こした場合や、脳ドックなどでまだ破裂していない動脈瘤を見つけた場合は破裂・再破裂を予防するために手術が行われます。
手術には頭を開けて動脈瘤の根元をクリップで挟み、血液が動脈瘤に流れ込まなくするクリッピング術と、足の付け根や手の根元などから動脈にカテーテルと呼ばれる細い管を入れて動脈瘤のところまで通し、動脈瘤の中に金属の細いコイルを入れることで血液を流れ込まなくするコイル塞栓術などが行われます。動脈瘤の場所や形状など、様々な要素を考慮した上でどちらの治療を行うかを決めます。

脳炎・髄膜炎による頭痛
脳は周りを骨、皮膚などで包まれており、なかなか病原体が入ってくることはありません。しかし、全身の他の場所に感染がおこり、それが血液の流れに乗って脳までやってきて、脳や髄膜で増殖を始めることがあります。
すると、体の免疫が反応し、感染症に対処するため脳や髄膜で炎症を起こします。炎症が起こるとその場所の体積が増大するため、やはり圧が上がり、頭痛を感じます。
脳の炎症を脳炎、髄膜の炎症を髄膜炎と言います。多くの場合、脳炎を起こすとすぐ近くにある髄膜にも炎症が広がり、髄膜炎を併発します。
髄膜で炎症が起こるとそれ自体が痛みになりますし、髄膜が引き延ばされるような動きが起こると更に痛みが強くなります。ですから、脳炎や髄膜炎が起こると、寝た状態から頭を持ち上げようとすると後頭部の髄膜が引き延ばされ強い痛みを感じます。これを医学用語で項部硬直と言います。脳炎や髄膜炎の治療は難しいものです。細菌の感染が原因であれば進行が非常に早く、あっという間に重症になってしまいます。ウイルスの感染が原因であれば、根本的な治療薬がないことも多く、多くは全身状態を管理するだけで、後は自分自身の回復力を待つ事になります。

第4章:頭痛への対処法

頭痛と言えば、「頭痛に早く効果が出ます!」などのうたい文句で治療薬が市販されています。しかし、頭痛があるからすぐに痛み止めを飲めばいいというのは危険な考え方です。
特に危険なのは、やはり突然起こった頭痛です。そして、今までに起こったことがない頭痛というのも、何らかの異常がある、二次性頭痛を疑います。すぐに診断、治療をしなければなりませんから、これらのキーワードに当てはまる頭痛を感じたときはすぐに病院を受診しましょう。
普段から頭痛を感じている人でも、また同じような頭痛と思って痛み止めを漫然と飲むのはよくありません。というのも、前述の頭痛の診療ガイドラインにも明記されているのですが、「薬物乱用頭痛」という頭痛があるのです。
この頭痛は2004年から頭痛分類に明記されるようになったのですが、一次性頭痛に対して痛み止めを使い続けることで新しいタイプの頭痛が出現する事があり、この頭痛がそのように名付けられています。
ですので、痛いからとりあえず痛み止めを飲んでおこう、というのももちろん、痛みが来そうだから先に痛み止めを飲んでおこう、というのも薬剤の飲み過ぎにつながりますからよくありません。
やはり頭痛がある場合は、いったんは医師を受診して頭痛の診断を受けて種類を明確にした後、それぞれに適した治療を受けるべきなのです。
完全に痛みがなくならないことも少なくはありませんが、うまく頭痛と付き合う方法を見つけられるでしょう。

(あねふろ)

参考文献
  • 頭痛の診療ガイドライン 2021
    [ https://www.jhsnet.net/pdf/guideline_2021.pdf ]
  • 横浜栄共済病院 健康コラム 頭痛について1
    [ https://www.yokohamasakae.jp/column/20200223.html ]
  • 病気がみえる Vol.7 脳・神経 Medic media社