「肩の痛み」の原因、見逃してはいけない病気、対処方法を解説します。
肩の痛みは腰痛、膝痛に次いで多く、日常生活を過ごす上でとても困る症状です。肩関節は鎖骨、上腕骨、肩甲骨から構成されていて(図参照)、可動域がとても大きい関節であることが特徴です。そのため痛みの原因も多いのですが、肩だけでなく頚椎や心臓が痛みの原因であることもあるので、注意する必要があります。この記事では肩の痛みから考えられる病気、重症な病気を見つけるために見逃してはいけない症状やそれぞれの治療、対処方法について解説していきます。
肩の痛みの症状から考えられる病気、見逃してはいけない病気
肩周辺の痛みで考えられるものの1つに頚椎の病気があります。頚椎の椎間板ヘルニアや神経根症という神経由来の痛みでは首回りや肩甲骨付近など肩よりも上の部分に痛みを生じることが多いのです。痛みも重苦しい感じ、びりびりするなど多彩な症状で肩を動かしても悪化しないことが特徴です。
次に肩関節が痛みの原因である病気として、肩関節周囲炎(凍結肩、五十肩)、腱板断裂、石灰性腱炎、変形性肩関節症などがあります。肩の痛みは怪我などの明らかな原因がなく発症する場合が多いのですが、突然痛みが出現し、肩の腫れなどがあるときは石灰性腱炎という病気が考えられます。徐々に痛みが出現し、肩関節が固くなっている時には肩関節周囲炎や変形性関節症の可能性があります。一方、可動域は悪くないものの、肩が上がらない、上げづらいなどの筋力が低下している症状がある場合には腱板断裂という病気かもしれません。
その他に見逃してはいけない病気として虚血性心疾患という心筋梗塞、狭心症などの重症な病気があります。特に胸や左肩、腕に響くような痛みがある時や、冷や汗を伴う場合には心臓から来ている痛みを考える必要があるので早めの対処が必要です。
肩の痛みを起こす病気について
肩関節は図のように鎖骨、肩甲骨、上腕骨からなっています。肩甲骨には肩峰や烏口突起という構造があり、筋肉や靭帯などが付着しています。腱板は棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋という4つの筋肉が上腕骨に付着する部分の総称です。腱板の上には滑液包という腱板の保護や肩関節の動きをなめらかにする袋の構造があります。肩の痛みの原因にはこれらの構造に原因がある場合が多く、代表的なものについてそれぞれ解説していきます。
1. 五十肩(肩関節周囲炎)
肩関節周囲炎(凍結肩)は自然に生じる肩の痛みと、徐々に進行する可動域の制限を特徴とする病気です。50歳前後に多いことから五十肩とも言われています。原因は不明ですが、関節内に炎症が起こり、それによって関節包という関節を包んでいる組織が縮んだ状態と考えられています。
症状:特に原因なく肩の痛みが現れ、腕を上げられないなど可動域が悪くなります。夜に痛みが悪化する夜間痛が出ることや糖尿病の人に多いことも特徴です。
1. 炎症期
発症した最初の段階です。初めの症状として痛みが現れ、動作時の痛みのため自分の力で肩を動かすことができなくなります。安静時、夜間にも痛みを起こし、肩関節の可動域が制限された状態が徐々に進行していき、拘縮期となります。この時期に無理な運動療法は行わず、痛みを緩和させる治療を受けることが必要です。
2. 拘縮期
拘縮が起こり、肩関節のあらゆる方向で可動域が悪くなるのですが、痛みは軽快していくのが特徴です。この時期から可動域を改善させるリハビリを行います。
3. 回復期
拘縮が徐々にとれて、肩関節の可動域が改善していく段階です。
治療:痛みや可動域は平均12ヶ月程度で自然によくなることが多い良性の病気ですが、軽度の障害を残すことは稀ではありません。そのため炎症期での疼痛軽減、拘縮期での可動域改善など各時期に応じた治療を行う必要があります。
炎症期では痛みが強いので、安静にして無理な動作は行わないようにしましょう。薬物療法は鎮痛薬の内服や外用剤の使用をします。整形外科を受診した際には関節内や肩峰下滑液包という関節の周囲への注射や神経ブロック注射などを行うことがあります。
拘縮期では温熱療法や、ストレッチと振り子運動という体幹を前屈して上肢を振り子のように動かす運動を行います。ストレッチは痛みが我慢できる範囲で1回5〜10分間を1日数回程度行いますが、発症から数ヶ月経過して症状が残っている場合は病院でリハビリテーションを行う場合もあります。また炎症期と同様に関節内注射を行う場合があります。可動域の改善が乏しい時にはブロック麻酔や全身麻酔下にマニピュレーションという徒手的に肩を動かすことによって縮んだ関節包を剥がして肩の動きを改善させる方法があります。さらに関節鏡を使って関節包を剥がす手術があり、なかなかよくならない場合は医師に相談することが必要です。
2. 腱板断裂
肩関節には肩の関節を安定させる働きをもった4つの筋腱があり、この腱が上腕骨側で切れてしまうのが腱板断裂です。加齢によって腱板が変性することが1つの原因であるため、50歳以上の中高年に多い疾患です。多くは外傷で発症するのですが、高齢になってくると外傷なく起こしてしまうこともある病気です。
症状:肩関節周囲炎ほどには関節の可動域制限が強くなく、夜間や動作時の痛みがあるのが特徴です。また腕が上がらない、腕は上げられるが、下ろす時に痛い、力が入りにくいといった症状も見られることがあります。
治療:安静時痛や夜間痛に対してはまず痛みのコントロールを行います。鎮痛薬の内服や、肩への局所麻酔薬、ステロイド注射などが行われます。またリハビリテーションも有効です。多くの人が肩甲骨の可動性が低下しているため、残っている腱板の機能を高めるためのリハビリテーションを行います。しかし、これらの治療で断裂した腱板がくっつくことはありません。そのため、筋力の低下が残存し、改善させたい場合には手術治療の選択肢もあります。現在手術は様々な方法があります。関節鏡を使って腱板を縫合する方法や、肩の外側を切って直接腱板を観察して縫合する方法があります。さらに断裂した筋肉が萎縮してしまっていて直接縫合ができない場合には他の部分の筋膜をパッチとして移行する方法もありますし、複数の腱板が切れていて修復できない高齢者では人工肩関節という方法があります。術式の選択には患者さんの考えや、術前の状態をしっかり調べる必要があります。
3. 石灰性腱炎
石灰性腱炎とは40~50歳代の女性に多くみられる病気です。肩の腱板に沈着したリン酸カルシウム結晶によって急に炎症が生じる事によって起こります。診断は症状や診察、レントゲンでの石灰沈着で行いますが、エコーを使って石灰を確認することもあります。ただし、石灰があれば全員に痛みが出るわけではないので、診断は診察を受けて総合的に判断していただく必要があります。
症状:夜間などに突然生じる激烈な肩関節の痛みで始まる事が多いです。痛みで睡眠が妨げられ、関節を動かすことが出来なくなってしまいます。痛みがでてから1~4週間は強い症状があり、その後1〜6ヶ月程度痛みが続く亜急性型、長い人は6ヶ月以上痛みが続く慢性型となる場合があります。
治療:痛みが強い時期は、激痛を早く取るために、肩に針を刺して沈着した石灰を破り、ミルク状の石灰を吸引する方法がよく行われています。その後、三角巾やアームスリングなどで安静にしながら、消炎鎮痛剤の内服をします。またステロイドや局所麻酔剤の注射なども有効です。ほとんどの方は保存治療でよくなりますが、亜急性型、慢性型では、沈着した石灰が固くなり、時々強い痛みが再発することもあります。また石灰が肩の運動時に周囲と接触し、炎症が消失せず痛みが続くこともあります。そのため痛みが強いときや、肩の運動に支障があるときは、手術で摘出することもあります。その他の治療として痛みが強いときにはクーリングなど冷やしていただき、痛みが落ちついてきた時には温熱療法(ホットパック、入浴など)や運動療法(拘縮予防や筋肉の強化)などのリハビリテーションは効果があります。
4. 変形性肩関節症
変形性関節症とは関節表面を覆う軟骨が機械的刺激などによって変性・磨耗を生じ、関節周囲を取り囲む滑膜の炎症などの影響も加わり、関節の変化が起こってしまう病気です。原因が明らかにないものから、外傷(骨折や腱板の損傷などを含みます)、関節リウマチなどの炎症を起こす病気が原因となることもあります。一度変化した軟骨が再生されることはないため、徐々に関節の変形が進行していきます。肩関節では肩甲上腕関節という関節の軟骨が変性していき、腱板の断裂なども組み合わさることで上腕骨が上に移動していきます。最終的に上腕骨が肩峰にぶつかってしまい、痛みが悪化する原因となります。
症状:動作時や、夜間の痛みと、可動域の制限などの機能の障害があります。肩関節は人体の中でも最も大きな可動域を持っているので、関節が変化してしまうと動きが悪くなってしまうのです。肩が上げられない、髪を洗えない、結べない、背中に手が回らないといった症状が出てきてしまいます。
治療:保存治療と手術治療があり、治療の内容は患者さんの希望や痛み、機能の障害の程度によって選択されます。まずは保存治療から解説していきます。保存治療の内容は大きく3つあります。
1つ目が日常生活の動作を変えることです。肩関節は体重がかかる部分ではないため、動作時の痛みを避けるように日常生活を変えることが有効です。具体的には作業を行うときには脇をしめて行うようにし、腕を挙げて行う作業では痛くない方の腕を主に使うようにします。腰や膝の痛みで杖の使用が必要なときには痛くない方の腕を使うようにして、難しければシルバーカーの使用をお勧めします。夜間の痛みがでることも多いのですが、寝る際に肘の後ろに枕やタオルを敷いて肩の位置を調整することで痛みが緩和されることもあります。難しい場合には装具を装着して安静を保つときもあります。
2つ目がリハビリテーションです。機能の障害が一番困るときには、関節可動域訓練などを中心としたリハビリテーションが有効です。関節の拘縮を和らげて、肩骨骨や胸郭の運動を促すことができるため効果がありますが、逆に痛みがでてしまうこともあるので無理な運動は禁物です。
3つ目がお薬による治療です。病院では鎮痛薬の内服や、湿布などの外用剤、注射などの方法があります。注射は関節の外に注射する方法と関節の中に注射する方法があり、注射の薬もヒアルロン酸という潤滑をよくするものから痛みをとることを目的とした局所麻酔薬、炎症を抑えるステロイドなど複数の種類があります。
これらの保存治療でよくならない場合には手術治療が勧められる場合が多いです。壊れた軟骨を修復することはできないため、関節鏡の手術で治すことはできず、人工関節に置き換える手術が一般的です。人工関節の手術とは変化した軟骨を骨ごと一部分切除して金属に置き換えるのですが、現在では人工関節もいくつかの種類があり、成績が非常に良くなっています。
予防・改善のためにできること
では肩関節の痛みを予防することや改善させるためにできることは何でしょうか。ご自分でできる対策について解説していきます。
1. 肩周辺の症状「肩こり」の対策
肩こりは病名ではないのですが、肩こりに悩まれる方は多くいらっしゃいますのでこちらで解説します。肩こりは首から肩甲骨にかけての緊張感や重苦しい 「張る」ような症状を指し、姿勢やパソコン作業などと関連があるとされています。頭痛、不眠、眼精疲労などの様々な症状を伴ってしまいます。対策として、同じ姿勢を長く続けないことや首・肩を温めて筋肉の血行を良くすること、机・椅子の環境改善、肩・肩甲帯の筋力強化、ストレッチ、可動域訓練が有効です。温熱や低周波などの物理療法、お薬では筋弛緩剤や鎮痛薬、神経ブロックなどが行われることもあります。
2. 振り子運動
次に肩関節周囲炎や腱板断裂、変形性肩関節症、腕の骨折などの全てで使える振り子運動について解説します。前かがみの姿勢で腕の力を抜いて体幹を揺り動かし、遠心力を使って腕を振り子のように前後・左右、円を描くように動かします。身体をしっかりと前かがみにすることで、肩の可動域を改善させる効果があります。慣れてきたら1kg〜2kg程度の重りを持って行います。頭上の物を取るには約120°の可動域が必要と言われていますので、振り子運動を行い、日常生活に支障をきたさないような可動域を獲得することが重要です。
3. 肩甲骨の運動、チューブを用いた肩周囲の筋力強化
腕を上に上げるには腕だけでなく、肩甲骨の動きも重要になってきます。肩甲骨と胸郭の間は肩甲胸郭関節と言われていて肩関節の可動域に非常に重要と考えられています。そのため肩甲骨を動かすことが可動域の向上に有効なのです。肩甲骨の運動は肩甲骨の挙上、内転・外転運動や時計回し運動を行います。肩周囲の筋力強化は腱板を形成する棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋のエクササイズを行います。チューブなどを用いて抵抗をかけながら行うと効果的です。肩の外転・内外旋運動や、前方への押し出し、後方への引き込み運動を行います。
まとめ
肩の痛みの症状、原因となる疾患や、それぞれの治療、対処方法について解説していきました。肩関節は可動域が大きく、日常生活を過ごす上で重要な部分なので、痛みがあるときにはとても心配になると思います。今回の記事を参考にしていただいて、痛みがでた時には、早めに対処するようにしていきましょう。
(三浦 隆徳)
- 日本整形外科学会 “五十肩 (肩関節周囲炎)”(2022-12-21)
[ https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/frozen_shoulder.html ] - 日本整形外科学会 “肩腱板断裂”(2022-12-21)
[ https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/rotator_cuff_tear.html ] - 日本整形外科学会 ”石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)”(2022-12-22)
[ https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/calcific_tendinitis.html ] - 日本整形外科学会 “変形性関節症”(2022-12-23)
[ https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/osteoarthritis.html ] - 松村昇. 変形性肩関節症(人工肩関節置換術). MB Orthop. 2017; 30(2): 1-7.
- 千田益生、堅山佳美、兼田大輔. 肩関節疾患のリハビリテーション. Jpn J Rehabil Med. 2016; 53: 928-933.
- 石黒隆. 上腕骨近位端骨折に対する保存的治療-下垂位での早期運動療法について-. MB Orthop. 2010; 23(11) : 21-29.