「膝の痛み」から考えられる病気や変形性膝関節症、腱付着部炎について解説します。

膝関節の構造について

 膝関節は骨、軟骨、靱帯、筋肉、腱などから構成されており、曲げ伸ばしなどを行う蝶番(ちょうつがい)関節としての役割のほかにねじれの動きも担っています。歩いたり走ったりすると膝には体重の3~5倍の負担がかかり、大きな可動域をもっているためアスリートやスポーツ愛好家の怪我も多く、中高年者に発生する変形性関節症の割合が多い関節です。
 膝関節は、3つの骨からできています。脛骨(すねの骨)の上に大腿骨(太ももの骨)が乗り、更に大腿骨の前面には膝蓋骨(膝のお皿)があります。膝蓋骨は、太もも前面の筋肉(大腿四頭筋)と脛骨とをつなぐ膝蓋腱(しつがいけん)の間にあり、膝を伸ばす際に筋肉の収縮をうまく脛骨に伝えるための滑車の役割を果たしています。大腿骨と脛骨、膝蓋骨の表面は軟骨で覆われており、関節の動きをスムーズにしています。また半月板という軟骨と似た成分の組織が関節の中にあり負担を和らげるクッションの働きをしています。
 靭帯は大きく4つ存在します。膝の内側、外側にある側副靱帯は、膝を両側から支えて安定化に役立ちます。関節の内部にある前・後十字靭帯の2つの靱帯は前後方向の安定性を高める機能を持っています。

膝関節の痛みの考え方について

膝関節の痛みの考え方について

 ここから、痛みの部位、特徴から考えられる病気について解説していきます。まず痛みが安静にしていても痛くて、夜にも痛むのか、もしくは運動時にのみ痛いのかという点から考えます。一般的に、安静にしていても痛い場合には下表のような関節リウマチ、化膿性(細菌など)関節炎、特発性骨壊死、結晶誘発性関節炎(痛風や偽痛風)、骨腫瘍などが考えられます。早めに治療を開始することで、病気のコントロールが改善し、痛みが長引くことが防げますから、早めに病院を受診して診断、治療を受けるようにしましょう。
 運動時の痛みには変形性関節症や半月板・靭帯損傷、腱・靭帯付着部炎、関節遊離体、脆弱性骨折などが考えられます。

安静時痛運動時痛
関節リウマチ
結核性関節炎
特発性骨壊死
偽痛風
痛風
化膿性関節炎
骨腫瘍(原発性、転移性)
変形性関節症
関節リウマチ
半月板、靭帯損傷
関節遊離体
腱・靭帯付着部炎
脆弱性骨折

 次に痛みの部位から考えられる病気について解説します。関節が全体的に腫れている場合には関節リウマチや感染、痛風や偽痛風、骨腫瘍、関節水腫といった病気が考えられます。膝の内側の痛みの場合には変形性関節症が最も多く、次に靭帯や腱の付着部の炎症が考えられます。膝の外側の痛みの場合には半月板や靭帯の付着部炎が考えられます。膝の前面の場合には膝蓋腱や大腿四頭筋付着部の炎症、滑液包炎、膝蓋下脂肪体炎、小児であればオスグッド病という良性の骨の疾患などが考えられます。以下で膝痛を起こす代表的な病気について解説していきます。

1. 変形性膝関節症

変形性膝関節症

まずは代表的な病気である変形性膝関節症について治療法を含めて解説します。
 概要:変形性膝関節症は軟骨がすり減ってしまうことによって、骨同士が直接接触し、痛みを引き起こす病気です。内側に起こることが圧倒的に多く、半月板が内側に飛び出したり、骨棘という過剰な骨ができていく過程を伴います。進行するにつれて骨の変形が進行していくためO脚となっていってしまいます。
 原因:男女比は1:4程度と女性に多くみられ、高齢者になるほど確率は高くなります。原因は関節軟骨の老化によることが多く、肥満や遺伝的要素も関与しています。また骨折、靱帯や半月板損傷などのケガ、化膿性関節炎などの感染の後遺症としても発症することがあります。
 症状:はじめの頃は立ち上がりや、歩きはじめのときなどの動作の開始時のみに痛みがあり、休めば痛みがとれます。また膝に水がたまることもあります。病気が進行していくと正座や階段の昇降が困難となり、末期になると、安静時にも痛みがとれず、変形が目立ち、膝が完全には伸びないため歩行が困難になります。
 診断と治療法:診断は病気の経過や触診、単純X線写真で関節のすき間が少なくなっていることや、骨棘があることなどで行います。ただし、変形性関節症に紛れて別の病気が隠れていることもあるので、必要であればCTやMRI検査を行う場合もあります。治療法は保存治療(手術しない方法)と手術治療があり、それぞれについて解説していきます。

保存治療
― 筋力訓練、日常生活の注意点
 膝関節の負担を減らすために、太ももの筋力をつけること、過度な負荷を避けることが重要です。具体的にふとももの筋肉を鍛える方法として、寝ている状態から脚を上げる運動や椅子に座った状態で膝を伸ばす訓練があります。スクワットも効果的ですが、膝が痛い場合には関節への負担が少ない初めの2つの方法がよいでしょう。負担を避ける方法として正座を避ける、洋式トイレを利用する、減量や杖を使用するという方法があります。正座などの深い屈曲動作は膝関節への負担が大きいため、できるだけ避けた方がよいと言われています。また膝関節は体重を受け止める関節であるため、BMIが25以上ある場合には減量することをお勧めします。減量を目的とした運動ではサイクリングや水泳が膝への負担が少なく勧められます。

― 薬物治療
 薬物治療は痛みに対する症状緩和が主体となります。アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が、経口薬で使用可能です。また様々な貼付薬(湿布)・塗布薬が販売されているため用法用量を守って使用するようにしましょう。

― 注射
 関節の外と内部に注射する場合があり、内部に注射した日はお風呂は控えるようにしましょう。注射には様々な薬剤が用いられるので、順番に解説していきます。
 ヒアルロン酸:変形性膝関節症に対して、広く使用されています。ヒアルロン酸は関節内に存在し、関節の滑らかな動きをサポートする成分です。注射することにより軟骨の保護や関節の潤滑の他、炎症を抑える作用もあるため、ひざの痛みの緩和が期待できます。注射自体はすぐに終了し、次回の注射までは1週間以上あける必要があります。また痛みが強い場合には局所麻酔剤を混合させる場合もあります。
 ステロイド注射:副腎皮質ステロイドという薬剤を関節内に注射投与する方法です。ステロイドは炎症や痛みを抑える力が強く、強い炎症がある場合に非常に効果の高い薬剤です。単回で使用する程度は問題ありませんが、ステロイドは軟骨や骨をもろくしてしまう副作用があり、感染症の危険性も高まってしまうため複数回の投与は避けたほうがよいとされています。
 多血小板血漿(PRP)療法:患者さん自身の血液から抽出した「多血小板血漿(PRP)」を、注射する再生医療の1つです。近年取り入れられた方法で保険診療はまだ不可能であるため、自費診療で行われています。効果については様々報告されているため、詳細については医療機関に問い合わせをしていただいた方が確実です。

手術治療
 痛みは保存治療で軽減させることが可能ですが、摩耗した軟骨、脚の変形や関節の可動域は元に戻りません。そのため、痛みが悪化して歩行などの日常生活に支障がある場合には、手術治療が検討されます。手術は関節鏡、膝周囲骨切り術、人工関節置換術などがありますので、それらについて解説していきます。

【1】関節鏡:主に中程度の進行具合の方が対象となります。関節鏡によって関節の中をよく洗い、傷んだ半月板を処置することによって痛みの軽減を図ります。利点は入院日数が少ないことや、傷が小さいことです。症状の軽減効果が確実ではないことや長続きしないことが欠点ですので、関節鏡のみの手術は減少傾向にあります。

【2】膝周囲骨切り術:人工関節を使わない関節を温存する手術方法で近年普及してきています。変形性関節症では通常O脚となりますが、一部の患者さんではX脚となる方もいます。O脚では膝の内側に、X脚であれば膝の外側に過度に負担がかかっている状態であり、さらに軟骨の摩耗と関節の変形が進行してしまいます。膝周囲骨切り術は、O脚またはX脚を矯正して、偏った負担を減らす事により痛みを取る手術です。脚のゆがみを矯正しますので、見た目も脚がまっすぐになります。骨切りする場所は患者さんの状態で決定され、脛骨や大腿骨の片方、もしくは両方骨切りされる場合もあります。骨切り後は専用のプレートとネジで固定するので術後早期からリハビリテーションが可能です。また関節鏡で傷んだ半月板を処置する場合が多いのも特徴です。高度の変形や、膝関節の可動域が悪い方には一般的に適用できない手術方法ですが、術後も制限のない日常生活を送れます。

【3】人工関節置換術:傷んだ軟骨を骨ごと切除して金属に置き換える手術方法です。失われた軟骨の代わりに特殊なプラスチックを挿入します。膝関節を全体的に置き換える手術と、内側もしくは外側だけの片方のみを置き換える方法があります。膝の痛みが取れることと、O脚などの変形を治すことが可能です。膝の曲がりは手術前の角度に影響を受けますが、一般的には120°程度で正座はできません。全置換術は長期間にわたり安定した成績があり、片側の置換術では身体への負担が少なく、術後の回復が早いのですが、適用できる患者さんが限られますので、手術方法は医師と相談するようにしましょう。

2. 腱、靭帯付着部炎

 次にスポーツ愛好家に多いオーバーユース(使いすぎ)による腱、靭帯付着部炎の病気について解説していきます。
(1)大腿四頭筋付着部炎、(2)膝蓋腱付着部炎:ジャンパー膝とも言われており、大腿四頭筋や膝蓋腱が膝蓋骨に付着している部分に炎症を起こし痛みを発症します。多くは、バレーボールやバスケットボールなどジャンプ動作を長時間繰り返したり、サッカーのキック動作やダッシュなど走る動作を繰り返したりするなど、膝を使いすぎることにより起こる症状です。ジャンプ、ダッシュによる筋肉の強力な収縮により腱に大きなストレスがかかり、微小な損傷が発生することが原因と考えられています。成長期の青少年の場合にはオスグッド病という脛骨側の腱付着部の障害を起こすことが多いです。
(3)腸脛靭帯炎、(4)腸脛靭帯付着部炎:腸脛靭帯は骨盤付近の大腿筋膜張筋と大臀筋の付着部から太ももの外側を通り、脛骨の前外側に付着する長い腱組織です。腸脛靭帯炎はランナー膝とも言われており、大腿骨が膝関節に近い部分では両側に広がる構造をしているため、ランニングなどの膝の曲げ伸ばしの際に骨の出っ張りと靭帯の摩擦が繰り返し起こることで腱に微小な炎症が生じて痛みが発生します。また腸脛靭帯の付着部も同様に炎症を起こすことがあり、その場合には脛骨の外側に痛みを生じます。
(5)鵞足炎:鵞足とは脛骨の内側にある筋腱付着部のことをいいます。縫工筋、薄筋、半腱様筋の3つが付着しており、外見がガチョウの足に似ていることから鵞足と名前がつけられました。付着部に伸長ストレスが繰り返しかかることで、鵞足に炎症を起こし痛みが生じます。変形性膝関節症の痛みと紛らわしいのですが、膝関節よりも若干下に痛みのポイントがあることが特徴です。

腱、靭帯付着部炎の治療

腱、靭帯付着部炎の治療:治療の原則は多くが消炎鎮痛薬の投与、負荷の調整、ストレッチなどの保存治療ですが、効果が乏しい場合は理学療法や装具治療、局所麻酔薬やステロイドの局所注射が検討されます。さらに最近では体外衝撃波治療やPRP治療も有効であり、これらの保存治療が無効なときには外科的治療を要することもあります。
 初期においては炎症を軽減させるためにスポーツ活動を減らしたり、休止を検討してください。さらに痛みの部位のアイシング、消炎鎮痛薬の内服や湿布が有効です。また負荷を減らすためにテーピングや足底版などの装具治療も効果的です。大腿四頭筋の柔軟性の低下は付着部炎の危険因子であるため大腿前面のストレッチを取り入れるようにしましょう。これらで効果がない場合の治療として組織再生目的に体外衝撃波治療やPRP治療が注目されています。体外衝撃波は装置で発生させた衝撃を病変にあてることで早期の痛みの緩和と、血管を誘導することによる組織修復が期待できます。PRPも組織の修復に効果がありますが、まだ研究段階でもあるため使用可能かどうか医師と相談することが望ましいです。保存治療で効果がない場合は病変を郭清(きれいにすること)や切除する手術治療もあります。それぞれの患者さんの病態、希望により治療が選択されますので、十分に医師と相談することが必要です。

まとめ

 今回は膝関節の痛みの原因と、代表的な疾患について解説していきました。今回の記事を参考にしていただいて、痛みがでた時には、早めに対処するようにしていきましょう。

(三浦 隆徳)

参考文献
  • 日本整形外科学会. ”変形性膝関節症”(2023-01-15)
    [ https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/knee_osteoarthritis.html ]
  • 兵頭康次郎, 金森章浩. 膝関節周囲の腱付着部炎の診かた. MB Orthop. 2020; 33(9): 35–40.