在宅医療について ~一般的な知識をつけましょう~
現在、日本の人口を多く占める団塊の世代は、2025年に75歳を迎えます。
すでに日本の人口は、4人に1人が65歳以上の割合を占めており、今後さらに高齢化社会が加速すると言えるでしょう。
日本は社会全体として、病院で治療や療養をする風習があります。
日本政府は、今後の高齢化社会の対策として、在宅医療を推進しています。
今後の医療の在り方として、在宅医療も選択肢のひとつです。
そこで今回は、在宅医療について詳しく説明していきます。
在宅医療とは何か
在宅医療について知るために、対象者や在宅医療を支援する環境などについてお話していきます。
在宅医療とは
在宅診療は、通院が困難な患者さんに対して、自宅や老人ホーム、高齢者住宅などに訪問をして、継続的に診療を行うことです。
在宅医療の対象者
病気や障害に関わらず、通院が困難な患者さんは、在宅医療を受けることが可能です。
「訪問診療」と「往診」の違い
医師が患者さんの自宅などに訪問をして診療する方法は「訪問診療」と「往診」に分かれます。
2つの診療の違いについてお話します。
【 訪問診療 】
予め計画をしていた日に診療を行うことをいいます。
隔週で月2回の訪問診療を受けるケースが多いです。
【 往診 】
患者さんの容体に変化があったときなど、定期的な診療ではなく、緊急時に診療を受けることをいいます。
※ 24時間365日体制の「往診」をしているクリニックもあれば、「訪問診療」のみ対応しているクリニックもあります。医師からの診療を希望する際には、この2つの診療の違いを考慮しましょう。「訪問診療」のみ利用している場合は、緊急時に受診する医療機関を検討する必要があります。
在宅療養支援診療所とは
他の病院や診療所等と連携を図りつつ、往診・訪問診療等で在宅療養をする患者さんを24時間365日体制でサポートをしている特別な診療所です。
【 在宅療養支援診療所の基準 】
- ・24時間365日、連絡を受けたら往診ができる体制を確保
- ・緊急時は連携している医療機関での受診や入院が可能
- ・在宅療養についての診療記録の管理が徹底
- ・地域の介護・福祉サービス事業所と連携
このような施設基準を満たしている必要があります。
※ 訪問診療や往診を希望している場合は、自宅近隣に「在宅療養支援診療所」があるか確認してみましょう。
在宅医療に携わる医療サービス
在宅で医療を受けるには、医師による訪問診療だけではなく、様々な医療職から患者さんの状態に合わせた医療サービスの提供を選択することが可能です。
医療サービスは、医師からの指示のもと計画が立案され、適切なケアの提供をしています。
下記の表には、在宅医療サービスについて、簡潔に明記します。
サービス名称 | 訪問に行く職種 | サービス内容 |
---|---|---|
訪問診療 | 医師 | 通院が困難な方に対して、自宅などで診療を行う。 |
訪問看護 |
看護師 准看護師 保健師 |
訪問看護の計画に基づき、自宅などに訪問をして、医療的な処置やケアを行う。 |
訪問リハビリテーション |
理学療法士 作業療法士 言語聴覚士 |
訪問リハビリテーションの計画に基づき、在宅患者さんに必要なリハビリテーションを行う。 自宅などの生活様式や患者さんの状態に合わせたリハビリテーションの実施をする。 |
訪問薬剤指導 | 薬剤師 | 薬剤師が自宅などを訪問して、薬の飲み方や飲み合わせ等の確認・管理・説明等を行う。 |
訪問栄養指導 | 管理栄養士 | 管理栄養士が自宅などを訪問して、病状や食事の状況、栄養状態や生活の習慣に適した食事等の栄養管理の指導を行う。 |
訪問歯科診療 | 歯科医師 | 歯科医師が自宅などを訪問して、歯科診療を行う。 |
訪問歯科衛生指導 | 歯科衛生士 |
歯科衛生士が自宅などを訪問して、歯科衛生指導を行う。 歯磨きの指導や食事摂取のためのケアについても指導を行う。 |
サービス名称 | 訪問診療 |
---|---|
訪問に行く職種 | 医師 |
サービス内容 | 通院が困難な方に対して、自宅などで診療を行う。 |
サービス名称 | 訪問看護 |
---|---|
訪問に行く職種 |
看護師 准看護師 保健師 |
サービス内容 | 訪問看護の計画に基づき、自宅などに訪問をして、医療的な処置やケアを行う。 |
サービス名称 | 訪問リハビリテーション |
---|---|
訪問に行く職種 |
理学療法士 作業療法士 言語聴覚士 |
サービス内容 |
訪問リハビリテーションの計画に基づき、在宅患者さんに必要なリハビリテーションを行う。 自宅などの生活様式や患者さんの状態に合わせたリハビリテーションの実施をする。 |
サービス名称 | 訪問薬剤指導 |
---|---|
訪問に行く職種 | 薬剤師 |
サービス内容 | 薬剤師が自宅などを訪問して、薬の飲み方や飲み合わせ等の確認・管理・説明等を行う。 |
サービス名称 | 訪問栄養指導 |
---|---|
訪問に行く職種 | 管理栄養士 |
サービス内容 | 管理栄養士が自宅などを訪問して、病状や食事の状況、栄養状態や生活の習慣に適した食事等の栄養管理の指導を行う。 |
サービス名称 | 訪問歯科診療 |
---|---|
訪問に行く職種 | 歯科医師 |
サービス内容 | 歯科医師が自宅などを訪問して、歯科診療を行う。 |
サービス名称 | 訪問歯科衛生指導 |
---|---|
訪問に行く職種 | 歯科衛生士 |
サービス内容 |
歯科衛生士が自宅などを訪問して、歯科衛生指導を行う。 歯磨きの指導や食事摂取のためのケアについても指導を行う。 |
:主治医の指示のもと、サービスが提供されるものです。
:歯科医師の指示のもと、サービスが提供されるものです。
在宅医療サービスについて詳しく解説
在宅で医療を受けるうえで利用する可能性がある「訪問看護」「訪問リハビリテーション」「訪問薬剤指導」「訪問栄養指導」について、上記の表よりも詳しくお話していきます。
【 訪問看護 】
訪問診療は月に2回程度の診療ですが、訪問看護では患者さんの状態に合わせて利用回数を調整できます。
24時間365日対応している訪問看護ステーションの場合は、緊急時の対応も可能です。
訪問看護師は、患者さんの主治医やケアマネジャーとの連携役なので、何かあったときは相談してみましょう。
【 訪問リハビリテーション 】
高齢者は、転倒しやすく運動量の低下が認知症になりやすいといわれています。そのため、在宅での活動量の低下を防ぐために、訪問リハビリテーションの利用が増えつつあります。
今までの言語聴覚士は、嚥下機能の訓練として利用されている患者さんが多くいました。
近年では、言語聴覚士によるリハビリは、認知症の予防や転倒予防に繋がると注目されています。
【 訪問薬剤指導 】
在宅での療養生活は、服薬管理が困難な患者さんもいます。
誤った薬の保管方法や患者さんの状態変化に伴う薬の錠剤が服用できなくなることなどが挙げられます。
薬剤師の観点から薬の変更依頼や管理、服用方法などの指導を受けることが可能です。
【 訪問栄養指導 】
患者さんの治療食に合わせた栄養指導を行います。その他、噛めない・飲み込めないことから栄養低下の患者さんに対して言語聴覚士と連携した栄養指導をすることも可能です。
現在は、訪問栄養指導による診療報酬が低いため、利用者が少ないのが現状です。
今後は、高齢者の栄養指導の需要が増加すると考えられており、期待が高まる訪問指導といえます。
病院医療と在宅医療の相違点
病院医療と在宅医療は、目的が異なります。
自分や家族などが療養生活を送る際に、病院と在宅での医療の違いについて、参考にして頂きたいです。
病院医療の目的
病院は「治す医療」の提供をしています。
高度な検査機器や医療設備のもと、医師や看護師などの専門職から治療を受けることが可能です。
治療を目的とした入院生活なので、病院の規則や治療の制限などが生じます。
在宅医療の目的
在宅医療は、患者さんの要望や意向を尊重する「患者さん中心医療」といえます。
在宅という環境の中で、患者さんの思い、考え、生き方、意志決定を尊重しながら療養生活を送ることが可能です。
※「在宅医療」を希望する際には目的を明確にしましょう。
- ・回復なのか
- ・療養
- ・看取りまで
なかには、療養生活を在宅で希望するが、看取りは病院を希望する患者さんもいます。
在宅医療は、患者さんが望む医療の提供を受けることが可能です。
患者さんと家族を含め、医療スタッフと療養生活についての情報共有をしましょう。
ちなみに、日本で在宅医療が始まったのは、1986年で歴史が浅いです。
日本は、病気や怪我をすると病院で治療をする意識が高く、在宅で療養をする認識が低いです。
自宅で看取りをするケースも他国と比較すると割合が少なく、最期は病院で迎える方が多くみられます。
在宅医療を希望する場合
在宅医療を始める前の注意点や、開始時の手続きの方法についてお話していきます。
本人と家族の意志確認
在宅での療養生活は、家族のサポート力が不可欠です。
在宅医療を開始する前には、必ず、患者さんと家族の意向を確認してから始めましょう。
患者さんが自宅で生活することを望んでも、家族の協力が得られないと実現ができません。患者さんのみ在宅医療を希望している場合は、実現が困難です。
入院生活から退院後、在宅で療養生活を送るも、家族の負担があり継続できない、もしくは病状が悪化するケースもみられます。
自宅での介護は、疲労感や分からないことに対する不安などが生じます。入院生活では、常に専門の医療スタッフが常駐していますが、在宅では異なります。
また、家族が体調を崩して、在宅での療養生活が困難となることもあります。
在宅での療養生活は、家族の時間的・経済的なゆとりや介護力も必要です。
在宅での療養生活を継続する際には、身近な医療関係者と相談しながら進めていきましょう。
在宅医療に必要な条件
前項目の本人と家族の意志確認を含め、在宅医療に必要な条件についてお話します。
- 1. 本人と家族どちらも在宅療養を希望している。
- 2. 本人と家族ともに、在宅医療の目的が明確である。
- 3. 患者さんは、高齢者のみの世帯ではなく、その他にサポートする家族がいる。
- 4. 同居している家族だけでなく、自宅近隣にサポートしてくれる親族がいる。
- 5. 日中、患者さんのみとなる生活ではない。
- 6. 患者さんの病状が安定している。
- 7. 複雑な処置や頻回な処置がない。
- 8. 比較的、介護度が低く(要支援1~要介護1程度)、自分で身の回りのことができる。
在宅医療は、家族の介護力が求められます。
しかし、介護をしている家族も経済力が必要なので仕事をし、時間的なゆとりがなければ疲労が蓄積されます。
在宅医療をしている方の大半は、「デイサービス」「ショートステイ」を利用されています。日中は、デイサービスに患者さんを預け、家族は仕事をするもしくは息抜きなどをしているケースが多いです。
デイサービス以外の日は、家族が日中様子を見ています。
急な用事が出来たときや家族の息抜きなども兼ねてショートサービスを利用している家族もいます。
介護は、いつまで続くか分からず先がみえません。
利用できるサービスを使いながら、患者さんも家族も生活していきましょう。
※ デイサービスとは
介護保険サービス「通所介護」の通称です。
利用者は自宅で生活しながら日帰りで施設に通い、体操や食事、入浴、レクリエーションなどのサービスを受けられます。送迎付きのケースが多いです。
※ ショートステイとは
在宅介護中の高齢者の心身の状況や病状に合わせて、介護する方の介護負担軽減や一時的に介護ができない場合の介護をする目的で、短期間施設に入所し、日常生活全般の介護を受けることができるサービスのことです。
在宅医療を開始する手続き
在宅医療を始めるための手続きを順番に説明します。
1. 在宅主治医を選択
- ・現在かかっている医師に相談して、在宅主治医を紹介してもらいましょう。
- ・入院中の方は、病院の地域医療連携室を訪ね「医療ソーシャルワーカー」に相談しましょう。
自宅近隣の訪問診療をしているクリニックなどを探すことが可能です。
2. 介護保険申請の準備
- ・在宅医療を受けるには、介護保険の申請をしたほうが良いです。
- ・介護保険の対象者は、65歳以上の第1号被保険者、もしくは40歳以上64歳以下の第2号被保険者で特定疾病による介護等の必要性のある方です。
- ・市区町村に要介護認定の申請を行います。
認定まで1ヵ月ほどかかりますが、申請をした時点で介護保険のサービスを受けることが可能です。
3. ケアマネジャーを選択、ケアプランを作成
- ・居宅介護支援事務所には、ケアマネジャーが在中しています。
- ・ケアマネジャーとは、患者さんに合ったケアプラン(介護サービスの計画書)を作る方です。
- ・ケアマネジャーの選択は、患者さんまたは家族が行います。
市区町村に介護保険の申請をすると、近隣地域の居宅介護支援事務所の一覧表を提示してもらえます。 - ・ケアマネジャーとは長い付き合いになります。自分に合う方を選びましょう。
4. 在宅主治医と病院の連携
- ・病院へ依頼し、在宅主治医へ患者情報、診療情報提供書を作成してもらいましょう。
在宅医療の関係者で打ち合わせを行い、医療方針や計画、訪問日時などを決めます。
5. 在宅医療スタート
※ 在宅医療は、在宅主治医の選択、介護保険の申請、ケアマネジャーの選択が重要です。
患者さんのケアプランは、状況変化に合わせてプランの変更も可能です。
ケアプランについての相談は、担当のケアマネジャーにしてみましょう。
まとめ
在宅医療について、病院医療との相違点や開始時の注意点なども含めお話しました。
2035年には、団塊の世代が85歳を迎えます。
更なる高齢者の人口増加が加速し、医療機関の逼迫が考えられます。そのため、日本政府は在宅医療の推進を現辞典から実施しているのが現状です。
在宅という医療の選択もひとつの選択肢となります。自分もしくは家族の医療の在り方について、検討する機会になって頂けたら幸いです。
(岡野 恭子)
- 在宅医療の充実に向けた取組について 厚生労働省
[ https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000196001.pdf ] - 在宅医療をはじめる前にこれだけは知っておこう
[ https://www.kounan-cl.com/zaitakuiryou/ ] - 読めば分かる!今更聞けない在宅医療の基本と知られていない7つのこと
[ https://www.recovery-group.co.jp/nurstetho/basics-of-homehealthcare-unknown-7things ] - 在宅医療・介護って何? ~用語ナビ~ あおばケアマップ
[ https://www.aoba-caremap.org/caremap/yougonavi/ ]