優秀な看護師と優秀な看護師長の違いとは

看護師として働いていると、
「この看護師さん、仕事ができるな」
「この看護師長のもとで働けてよかったな」と感じることがあります。

患者さんの立場で、この看護師さん素敵だなあと思うことがあると思いますが、実際の業務やその中でどのように評価されているのかも興味ありませんか?また、読者の中にはれから看護師を目指し、キャリアアップを目指す上で、優秀な看護師や看護師長の違いとはどういったところにあるのかを知りたい方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、24年間の正看護師経験の中で出会った「優秀な看護師」「優秀な看護師長」にはどういった特徴があるのか、どのような違いがあるのか比較してみました。

1. 看護師と看護師長の主な役割とは

看護師と看護師長。
おなじ「看護師」という職業ですが、その役割には違いがあります。

A. 看護師の看護の対象は患者さんです
看護師は、医療チームの一員として患者さんのケアや診療の補助をおこないます。
医療処置だけでなく、患者さんのこころのケアも重要な役割です。
また、患者さんをとりまく環境を把握して、日常生活を取り戻すための知識や情報を提供します。

例えば、入退院をくりかえす糖尿病患者さんの教育入院では、食事や運動の仕方を指導したり、血糖測定やインシュリンの注射を自分でできるように指導したりします。

一人暮らしの高齢患者さんが骨折をし、手術やリハビリが順調に進んで退院可能な段階になってきた場合、家族やケアマネージャー、理学療法士、ソーシャルワーカー、福祉用具の業者さんなどとミーティングを行います。
そのミーティングでは、減塩食などの食事制限はあるか、一人で食べられるか、薬の管理はできるか、お風呂は一人で入れるか、トイレまで一人で行けるか、手すりはあったほうがいいのか、オムツは使っているか、といった入院生活中の患者さんの情報を提供します。
必要な福祉用具をレンタルしたり、ヘルパーさんや訪問看護を導入したほうがいいのかなど、安心して退院生活を送るために環境調整をするのも、看護師の役割のひとつなのです。

こういったことから、看護師業務の役割は、主に患者さんが対象だといえます。

B. 看護師長の役割は、病棟内全体や病院内の看護にある
看護師長とは、病棟内の責任者です。
加えて現場と経営陣をつなぐ役割もあります。
病院には「地域密着型の医療を実践します」「高度な医療を提供します」などの理念が掲げてあります。
その病院の理念の実現に向けて、看護部、各部署、スタッフ個人も目標を掲げていきます。
目標は、質の高いケアを提供するために立てるものです。
質の高いケアは、所属する部署のスタッフが提供します。
スタッフが具体的に行動できるような方向性を示すのは、看護師長の役割なのです。

こういったことから、看護師長の役割は、主に病棟内全体や病院内の看護管理を対象としているといえます。

2. 優秀な看護師とは

では、優秀な看護師には、具体的にどういう特徴があるのでしょうか。

A. 仕事のスピードが早い
優秀な看護師は、カルテから短時間で効率よく必要な情報を読みとります。
1日のタイムスケジュールを逆算し、優先順位をつけながら仕事を終わらせていくのです。

病棟を何度も行ったり来たりしなくていいよう、必要な物品を準備してから検温に回り始めます。
検温が終わったらそのまま処置をする、点滴をつなげるなど、無駄がありません。

緊急入院がくる場合は、事前にできることは全て整えます。
必要な物品や書類を準備し、病名がわかっていれば看護計画を立案し、あとは受け入れるだけの状態。

優秀な看護師は段取り能力が高いため、仕事のスピードが早いのです。

B. 適切な看護診断(アセスメント)ができる
看護診断とは

  • 1. アセスメント
  • 2. 看護診断
  • 3. 看護計画
  • 4. 看護活動
  • 5. 評価

という5段階からなる看護過程の中のひとつで、アセスメントの結果から患者の状態を把握し、必要となる看護ケアを判断する段階です。
アセスメント、看護診断にはある程度の専門知識、技術、経験が必要とされます。
優秀な看護師は、患者さんの状態をみて適切なアセスメント、看護診断をし、今後どういう看護をすればよいのかを常に考えながら対応しているのです。

C. 主体的な判断ができ、行動できる
たとえば患者さんが顔面蒼白となり、胸が痛いと苦しんでいる場合。
すぐにモニター管理ができるよう準備をし、血圧や酸素飽和度のチェック、心電図をとって医師に報告をします。
と同時に、他のスタッフには、緊急処置のできる救急カート準備、点滴準備、個室準備、家族への連絡などの協力を求めます。

こういった一連の行動は、専門的な知識や経験がベースとなっています。
優秀な看護師は現場の患者さんの状態をみてアセスメントをし、自分の判断で必要な行動を起こせるのです。

D. リスク管理ができる
人の命に関わる医療の現場は、たったひとつの間違いが、患者さんを危険にさらしてしまうリスクだらけといえます。
看護師とはいえ、ひとりの人間。
多忙な業務や疲労によって、うっかりミスを起こしてしまう可能性は充分にあるのです。
しかし、命に関わる仕事であるため、重大なミスに繋がりかねません。

たとえば、高齢患者さんの転倒はよくある事例です。
優秀な看護師は、一人の患者さんに対して適切なリスク管理をします。

  • ・ 認知症があるので頻回に訪室したほうがよさそう
  • ・ 認知症はなさそうだけど、入院して3日以内はせん妄になりやすいので、ナースステーションから近い部屋にしておいたほうがよさそう
  • ・ 念のため、動いたらコールが鳴るセンサーマットを敷いて数日間は様子をみよう

そのほかにも家族から情報を引き出す、夜間だけベッドの近くにトイレを設置しておくなど、リスクを回避できるような対策を講じることができるのです。

E. 向上心がある
医療の世界は、日々変化しています。
数年前のあたりまえが、新たにエビデンスが加わり変化していくのです。

優秀な看護師は、常に新しい知識を吸収しようと勉強熱心です。
疑問に感じたことや、新しく耳にする用語は自分で調べ、勉強会にも積極的に参加します。
身近な医師にもどんどん質問を投げかけ、知識を吸収していくのです。

新たに導入される医療機器の使い勝手がわからない場合、技術や知識の向上のため、業者に説明会や勉強会を依頼します。

知識を吸収していくので、周りの看護師よりも素早く反応できたり、患者さんからの質問にもすぐに答えられたりするので、医師からも看護師からも信頼されていくのです。

F. コミュニケーション能力がある
優秀な看護師は、人と接するコミュニケーション能力に長けています。
看護師がコミュニケーションをとる相手は「患者さん」「ご家族」「職場のスタッフ」です。

なんらかの病気を抱えた患者さんは、表面的には元気そうに見えても、じつはつらい気持ちを抱え、理解して欲しいと思っているのです。
そんな時、優秀な看護師は、会話が上手というよりも、患者さんの隠された気持ちに気づき、その気持ちをうまく引きだす関わりができます。
患者さんの気持ち、苦しさ、痛みなど、発するメッセージをうまく受け取り看護に活かせるのです。

看護では、患者さんのご家族との関わりもとても大切。
優秀な看護師は、ただ話を聞き説明をするだけの事務的な態度ではなく、ご家族が話したい、伝えたい、不安な思いなどを共感的な態度で受け止め、引き出していきます。
患者さんが入院するまでの日常生活パターンも引き出し、問題点も把握することができ看護に役立てるのです。

職場スタッフとのコミュニケーションでは、相手を否定したり批判したりせず、常に協力する姿勢、思いやりをもって明るく接することができるのが優秀な看護師といえます。

G. 後輩を育てる力がある
看護師として数年もたつと、新人看護師や中途採用の看護師の指導を任されるようになります。
新人教育の方法で「プリセプターシップ」が挙げられます。
先輩ナースがプリセプターとして新人ナース(プリセプティ)を一定期間、マンツーマンで指導にあたる教育法です。
看護の技術、アセスメント、患者さんやスタッフ同士とのコミュニケーションの取り方など、広範囲にわたってお手本になります。
プリセプティを指導するだけでなく、身近な相談相手としての役割もあるのです。

優秀な看護師は、日々の自分の業務をこなしながら、担当するプリセプティの性格や素質を見極め、良好な関係を築いて指導していける能力があります。

3. 優秀な看護師長とは

いっぽう、優秀な看護師長とはどういう特徴があるのでしょうか。

A. スタッフを惹きつけるリーダーシップがある
現場の看護師に働きかけ、共通の目標に向かうため、看護師長はリーダーシップが必要不可欠です。
チームメンバーを適切に動かし、チームプレイを導きます。
優秀な看護師長には、「この師長についていきたい」と思わせるようなリーダーシップがあります。

B. クレームなどのトラブル対応が上手
患者さんやご家族の中には、医療従事者や治療に対し、不信感を持っている方もいらっしゃいます。
対応の仕方ひとつで、クレームへと発展することも。
優秀な看護師長は、スタッフが困難を感じているクレームなどのトラブルをうまく対処し、関係を築けるのです。

C. スタッフが働きやすい環境づくりができる
優秀な看護師長は、スタッフの働きづらさを解消するよう働きかけてくれます。
他職種、他部門の関係者に対し、現場の説明をし、毅然とした態度で意見をのべます。
例えば、病棟が忙しいとき、さらに入院をとるよう要請があっても、「今日は手術と転入患者さんが多く、これ以上の入院は無理です」と断ってくれたりするのです。

また、日常業務を見直し、朝の申し送りなどの業務を短縮化したり、変則勤務を取り入れたりと、スタッフが働きやすい環境を整えようと実践してくれます。

D. スタッフを肯定する柔軟さ
優秀な看護師長は、スタッフの存在そのものや、努力し成長した点を認め、評価してくれます。
例えばインシデント(医療ミス)を起こしてしまった場合にも、責めるのではなくインシデントの原因を振り返るような関わりをすることで、前向きな気持ちを持たせてくれるのです。

E. 個々の能力を引き出せる力がある
優秀な看護師長は、自らの能力はアピールしません。
スタッフの持つ能力をうまく引き出し、組織やチームをうまく動かします。
例えば実力のあるスタッフには積極的に研修を受けさせ、やる気を引き出します
。 また、専門知識が豊富なスタッフには勉強会を主催するよう、促すのも上手です。
働くスタッフは認められていると感じ、組織全体が活性化していくのです。

F. エビデンスにもとづく具体的な方針を提示できる
エビデンス(根拠)に基づく方針でなければ、人は納得しないものです。
優秀な師長は、エビデンスに基づく方針をスタッフに示し、理解、納得させ、具体的にどう実践していけばよいのかを浸透させていきます。
師長自らが方針通り、模範となって実践して信頼を得ていくのです。

G. スタッフの体調管理やシフト管理などの調整能力がある
優秀な看護師長は、スタッフをよく観察しています。
ちょっとした体調の変化にも気づき、精神的に落ち込んでいることにも配慮できます。
体力のないスタッフは夜勤回数を少なくしたり、通院のためにシフト調整したりしてくれます。

看護師にも個性があるものです。
相性のよくないスタッフ同士は夜勤ペアを組まないよう配慮したり、スタッフの能力の差に合わせてペアを組んだりと、シフト管理の調整能力にも長けています。

4. 優秀な看護師と優秀な看護師長に共通することとは

優秀な看護師と優秀な看護師長に共通することをみていきましょう。

A. 健康管理ができる
看護師は患者さん相手の体力勝負の仕事です。
数人のスタッフで勤務を調整してはたらくため、急なお休みは他のスタッフに迷惑をかけてしまいます。
優秀な看護師、看護師長は自分の健康管理をしっかり行っています。

B. リーダーとして全体を把握する能力がある
優秀な看護師はチームリーダーを任されることも多く、チームメンバー全員の状況を把握する能力に長けています。

C. 看護モデルとなれる
優秀な看護師、看護師長はプロ意識が高く、プライベートでの私情を仕事には持ち込みません。
後輩の「こういう看護師になりたい」「こんな仕事の仕方がしたい」といった看護モデルになれます。

D. 対人関係能力がある
優秀な看護師、看護師長ともに、患者、家族とのコミュニケーション能力に長けています。
また、医師、検査技師、薬剤師、OTやPTなどの理学療法士、MSWなどの他部門、他職種のスタッフとの調整能力も優れています

E. 感情コントロールができる
看護職とは、「肉体労働」「頭脳労働」「感情労働」です。
感情労働者である看護師は、患者さんの感情を引き出すために、自分の感情をコントロールしながら働いています。

例えば、患者さんが安心感を得るために、どんなにひどい病状でも動揺を見せないようにします。
認知症の患者さんが何度も立ち上がり、他の業務が全く進まない時にも、患者さんに対して 怒りや憎しみを示すことは控えます。
癌の末期患者さんや、急変時などで死に直面しても絶望感を抱かず、冷静さを保ち、ご家族の精神面のフォローをするのです。
あらゆる場面、あらゆる患者さんに対して一定のケアや思いやりが求められるのです。

職場の同僚や上司、他部署のスタッフなどでも苦手な相手は誰しも一人はいるものです。
しかし、優秀な看護師、看護師長は多くの経験を重ね、状況判断や周囲の立場を理解しつつ感情コントロールをし、その場にふさわしい対応ができるのです。

まとめ

今回は、優秀な看護師と看護師長の違いについて比較してみました。
同じ看護師という仕事でも、現場で必要な役割、管理職として必要な役割は違ってくるものですね。

(高橋 麻紀)