急性と慢性の腰痛症の対応と、注意すべき症状について解説します

 現代では多くの方が腰痛に悩まされていますが、腰痛の原因や治療は様々です。この記事では腰痛の考えられる原因や治療、すぐに病院を受診した方がよい注意するべき症状について解説していきます。

腰痛について

 2019年に厚生労働省が調査した、「自覚症状」に関する調査において”腰痛”は男性で第一位、女性では肩こりに次ぐ第二位となっており、悩んでいる方がとても多い症状です。

腰痛について
(厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概況」より引用)

 腰痛はいわゆる「ぎっくり腰」のような急に生じるものから慢性の痛みまであり、原因も内臓、骨、神経、筋肉や椎間板など様々なものがあります。腰痛の考え方は大きく2つあります。1つ目が腰痛を引き起こす原因別による分類で、2つ目が発症からの期間による分類です。

原因別の分類:原因が明らかである腰痛(特異的腰痛)と原因がはっきりしない腰痛(非特異的腰痛)について

 腰痛は、背骨を構成する骨、椎間板(骨と骨の間のクッション)、関節、神経のほか周辺の内臓、血管の病気によって生じる原因のはっきりとした特異的腰痛と、はっきりとした原因が分からない非特異的腰痛があります(表1)。

 原因の明らかな腰痛のうち、内臓が原因となるものでは腎臓、膵臓、卵巣、子宮、血管などの腰周辺の臓器の病気の可能性があります。具体的には尿管結石、急性膵炎や大動脈解離、子宮内膜症などの病気です。特に大動脈解離は緊急性の高い病気ですので、早期に診断することが必要です。
 背骨からくる痛みとしては、骨折、感染症、腰の骨のすべり症や関節の痛みがあり、神経が原因の腰痛は腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄などによる神経の圧迫などの可能性があります。また姿勢が悪い状態になっていると、筋肉が疲労してしまい腰痛を生じることもあります。
 しかし、検査をしても原因がはっきり分からない腰痛もあります。以前は腰痛の8割は原因不明の腰痛でしたが、現在は病気の解明が進んだことや、詳細な検査により、原因がわからない腰痛は3割程度まで減少してきました。しかし、診断が難しい場合も多いので、長引く腰痛では病院の受診をすることがおすすめです。

表1. 腰痛の分類

重症な腰痛 原因の明らかな腰痛
背骨に関連したもの
  • ・ がん
  • ・ 感染(細菌、結核などの感染)
背骨以外の病気
  • ・ 大動脈疾患(急性大動脈解離、大動脈瘤破裂)
  • ・ 骨盤臓器のがん(泌尿器系・婦人科系・消化器系のがんなど)
背骨に関連したもの
  • ・ ケガ、骨折、ヘルニア、腰の狭窄症
背骨以外の病気
  • ・ 尿管結石
  • ・ 婦人科系の病気(生理痛、子宮内膜症、子宮外妊娠など)
  • ・ 消化器系の病気(胆石、急性膵炎、胃・十二指炎など)

注意するべき腰痛の症状

 ここから注意すべき腰痛の症状である”レッドフラッグサイン(危険な徴候)”について解説します。
レッドフラグとは危険な信号を意味し、がんや感染、骨折などの重症な病気を疑う症状となります(表2)。

表2. レッドフラッグサイン(危険な徴候)について

主なレッドフラッグサイン
  • ・ 高齢(もしくは未成年)
  • ・ 安静時の痛み
  • ・ 突然の激痛
  • ・ がん、免疫抑制治療
  • ・ 体重減少
  • ・ 発熱
  • ・ 様々な神経症状(足の痺れ、麻痺など)
  • ・ 高度な背骨の変形
  • ・ 排尿の問題(尿がでないなど)

 大動脈が裂けてしまう大動脈解離という病気は突然の激痛を起こします。そのため、ケガなどの原因がなく突然現れた腰痛は注意するべき症状の1つです。また、転んだ後からでてきた腰痛で安静にしていてもよくならない場合には骨折を起こしていることもあります。さらに、持病にがんがある方、免疫を抑える薬を飲んでいる方、発熱がある方はがんの転移や感染症の可能性もあり注意が必要になってきます。最後に足の麻痺や、排尿の問題がある場合には、神経が高度に圧迫されてしまっている場合もあります。
 腰痛に伴って、これらの危険な徴候があるときには緊急性が高い状態ですので、早めに病院で診察を受けることをおすすめします。

背骨に関連した腰痛について

 背骨に関連した腰痛には図のような病気があります。代表的なものが腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症による神経の圧迫での痛みです。
 腰椎椎間板ヘルニアは椎間板という骨と骨の間にあるクッションのような組織が外にはみ出ることによって神経に触れてしまい、腰からお尻、足にかけての痛みを起こしてしまいます。
 腰部脊柱管狭窄症では神経が靭帯や椎間板で圧迫されることによって腰からお尻、足にかけての痛みを起こし、歩行で足がしびれる症状を起こしてしまいます。

背骨に関連した腰痛について
図:腰椎の構造と痛みの原因部位

 また椎間板や椎間関節(後ろにある背骨の関節)も痛みの原因になるため、診断をするためにMRIやCTなどの画像検査やブロック注射などの方法が行われることがあります。

時間経過による分類

 腰痛は発症からの期間で診断名や治療法が異なります。具体的には発症から4週間未満の腰痛は急性腰痛、3ヶ月以上持続する腰痛は慢性腰痛と呼ばれています。

急性腰痛症
急性腰痛症は、発症から4週間未満の腰痛のうち、明らかな原因がわからない、いわゆる”ぎっくり腰”のことを言います。

急性腰痛症

 肥満や腰部への負荷が大きい作業(重労働)による筋肉や関節への負担が原因の1つとされています。そのため、体重管理や、重労働を行う際には腰のベルトを装着すること、腰を丸めた作業を避けることが腰痛予防に役立つ可能性があります。さらに、運動不足、喫煙、飲酒の他に職場における精神的ストレスといったメンタルの要因も腰痛発症と関連することが言われています。そのため食事習慣の改善や定期的な運動を行い、心身を健康に保つことが予防に重要です。
 問診と身体診察で危険な徴候がなければ“ぎっくり腰”の可能性が高く、初診時のレントゲン撮影は不要というのが最近の主流です。しかし、レントゲン撮影は骨の状態の他に椎間板の状態を判断するのにも役立ちますし、背骨の曲がりを判定することができるので痛みが強い場合や長引く場合には必要になってきます。またMRI検査では骨、椎間板の他に靭帯、神経の状態を判定することが可能ですので、必要に応じてMRI検査も検討されます。
 急性腰痛は自然によくなることが多いため過度な心配は不要です。しかし、腰痛は一度発症すると繰り返しやすく、慢性化することもあるため、一度起こしてしまった方は再発予防のために生活習慣や業務の内容などを見直すことが必要です。
 日常生活や仕事ですが、痛みに応じて継続することが大切です。ベッド上で安静にしているよりも、痛みに応じて通常の活動を続ける方が痛みの軽減に効果があるからです。そのため、軽度の痛みであれば業務を変更して対応するなど柔軟に対処し、安静にしすぎないことが重要です。また再発予防にはエクササイズが有効ですので、セルフマネジメントの第一歩として、腰痛体操を1日1回から生活の場面に取り入れることがお勧めです。
 薬での治療は痛み止めとしてロキソニン®などの非ステロイド性抗炎症薬やカロナール®などのアセトアミノフェンが有効です。さらに麻薬性鎮痛薬(オピオイド)や、湿布、注射などの様々な治療があります。
 これらの治療で、数週間経過をみてもよくならない時には、痛みの原因を特定するためにMRI検査などのさらなる検査や治療が必要になることがあります。

慢性腰痛症
 慢性腰痛症は3ヶ月以上続く腰痛のことを言います。急性腰痛症は1ヶ月程度で改善しますが、半数以上の方が再発すると言われており、再発した方の中には慢性腰痛症になってしまう方もいます。
 慢性腰痛の原因は詳しく検査をしても明らかにならない場合も多いのですが、変形性脊椎症、腰椎分離症、腰椎すべり症や脊柱変形、仙腸関節、股関節の障害など様々な部位の病気も原因となりえます。
 腰への負担が大きい重労働は、慢性腰痛の危険因子です。また日常生活では腰への負担を軽減する方法を取り入れてください。寝起きの時には横向きを経由する、座っているときには寄りかかった姿勢を避けて腰を反らしたよい姿勢を心がける、腰にクッションあててサポートをすることなどが負担の軽減に有効です。さらに、職場の人間関係、家庭の不和なからくるストレスなどのメンタルの要因が、腰痛を長引かせる原因となることがわかっています。不安なことがある場合には相談できる部署、人にこまめに相談するようにしましょう。
 治療についてですが、慢性腰痛症の治療は原因がはっきりしている場合には、その病気に対する治療が第一選択です。その他に運動療法や飲み薬、注射などの方法があり、いくつかの方法を組み合わせることが有効です。
 エクササイズなどの運動療法やリハビリでは、ストレッチや体幹の筋力強化を中心に行います。体の柔軟性の低下や体幹筋の筋力低下による動作の変化が腰痛に影響を及ぼしていることがわかってきており、リハビリにより改善を期待できます。また、温熱療法や牽引療法、電気刺激療法、マッサージなどの物理療法を行っている施設もあるので、腰痛が長引く場合はリハビリや物理療法について通院中の病院に相談することをお勧めします。

慢性腰痛症

 薬は現在様々な種類が使用できます。急性腰痛症と同じように痛み止めの非ステロイド性抗炎症薬、アセトアミノフェン、オピオイド鎮痛薬の他にも、うつ病に使用される薬も効果があります。慢性腰痛の原因にメンタルの要素が関連しているように、痛みが長引く原因として脳が痛みに過敏になっていることが考えられています。デュロキセチンという比較的新しい薬はうつ病にも使われる薬ですが、痛みを抑える作用のある神経伝達物質を増やすことで、鎮痛効果をもたらすので、慢性腰痛に対しても効果があります。以前までの抗うつ薬よりも副作用が少ないのが特徴です。一方で眠気や吐き気、口の渇きなどの副作用もあるので使用にあたっては医師から説明を受けるようにしましょう。
 最後に認知行動療法と呼ばれる治療があります。認知行動療法とは、痛みについての考え方を変える「認知療法」と、痛みの範囲で日常生活でできることを増やしていく「行動療法」を組み合わせた治療法です。「腰が痛い」という状況が長く続くと、「痛いので何もしたくない」というネガティブ思考になってしまいますが、ある程度の痛みを受け入れて、できることを増やしていくことでポジティブな認識に変えることができます。腰痛診療ガイドラインの2019年版にも書かれている有効な治療法です。一方で、ご自身が前向きに治療に取り組むことが必要であることや、まだ実施されている医療機関が少ないことが難点です。
 このように慢性腰痛症は、様々な原因、治療法があるので、ご自身にあった方法をみつけることが必要です。相談にのってくれる病院をみつけて治療に積極的に参加することが重要です。

まとめ

 腰痛の分類や注意するべき症状、治療について解説してきました。腰痛の原因は様々であり、それぞれに適した治療が必要となります。発症してから間もない急性腰痛症では、ご自分で対処することも可能ですが、中には慢性腰痛症になってしまう方や、腰痛に紛れて骨折や感染症、動脈の破裂などの危険な病気が隠れていることがあります。そのため早めに病院で診断・治療を受けることが大切です。
 さらに腰痛を治すには、薬だけではなく生活習慣の改善や、ストレッチ、エクササイズなども重要です。今回の記事を参考にして、腰痛の予防、治療に役立ててください。

(三浦 隆徳)

参考文献
  • 厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概況」
    [ https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/14.pdf ]
    (accessed on 2023-02-08)
  • 鈴木秀典, 寒竹司, 今城靖明, 西田周泰, 舩場真裕, 田口敏彦. 非特異的腰痛の診断と特徴. 中国・四国整形外科学会雑誌. 2017; 29(2): 171–174.
  • 腰痛診療ガイドライン2019.日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,腰痛診療ガイドライン策定委員会編, 南江堂,東京.
  • 一般社団法人日本ペインクリニック学会. 「オピオイド」
    [ https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keyopioid.html ]
    (accessed on 2023-02-11)