目の前にある壁を越えて転職する方法

 「令和2年(2020年)衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」では、就業する看護師の数は1,280,911人います。働いている年代は40歳から49歳までの割合が最も高い結果が出ています。資格があり、技術を身に着けることで長い間働いていられるのが看護師のメリット。自身のライフスタイルの変化やキャリアアップ、環境の変化を求めるなどを理由に転職を1度は考えたことはありませんか?
 現在、看護師の働き方は多種多様。看護師の就職先として病院の病棟や外来、クリニックや診療所、高齢者施設などさまざまありますが、その他にもツアーナースや健康相談の窓口などもあります。雇用形態も正職員だけでなく、パートやアルバイト、派遣職員などもあり、ダブルワークをしている人もたくさんいます。これらのことを知ってはいるけれども、なかなか転職を行動に移すことができずにいる人も多いのではないでしょうか?
 ここでは、多くの人がどんなことがきっかけで転職したいと思うのか、転職をしようと思ったときどんなことが不安になって行動ができないのか、そして、それらを解消するためにどうしたらいいのかを詳しく解説していきます。

目の前にある壁を越えて転職する方法

 多くの人がなんらかのきっかけがあって転職を希望します。

1. 転職をしようと思ったきっかけは?

結婚、出産、育児、親の介護などライフスタイルの変化
 結婚に伴っての転居や、出産、育児で子供の世話や行事などでライフスタイルが変化します。ほかにも親が要介護になることもライフスタイルを変化に影響を与える可能性があります。
 それまでは、自分だけの生活スタイルに合わせて仕事をしていたとしても、家族を含めた生活スタイルに変化しないといけなくなるとき、転職を考えるきっかけとなることがあります。

人間関係の悩み
 人間のストレスの中で最も多いのが人間関係です。ただでさえ、医療現場は忙しく、人の命と向き合う場所です。職場によっては殺伐とした雰囲気のところも少なくありません。看護師だけでなく、多職種との関わりを持たないといけないのが看護師の仕事。さらに、患者やその家族とも信頼関係を作っていかなければなりません。それがうまくできずに悩むこともあるのではないでしょうか。
 それ以外にも、上司からのハラスメントやいじめなどを理由に転職を決める人もいます。今は、ハラスメント防止の対策をしている職場は多くなっており、ハラスメントを撲滅する動きも活発になっています。また、職員のメンタルケアのためにカウンセラーや臨床心理士を設置している職場も増えてきています。しかし、実際にはまだハラスメントやいじめがあるのが現状。自分の身を守る行動をするために転職をするというのは一つの選択です。

職場環境が合わない
 通勤時間の長さ、残業や夜勤が多い。責任重大なのに、ミスをしたときに職場が守ってくれない。給料や待遇に不満がある。福利厚生があまりよくない。教育体制が整っていない。など、職場そのものへの不満が転職を考えるきっかけとなる場合も。看護師は病院や施設など働く場所は比較的多い職種です。病院といっても公立の病院や個人病院、クリニックなどさまざま。職場独自のルールや方針などがあり、働いていくうちにそれが自分の考え方や価値観に合っていないと思うことが転職しようと思うきっかけになり得ます。

スキルアップしたい
 「もっと最先端の医療に携わってみたい」とか「今の病院では急性期医療をしているけど別の分野に挑戦してみたい」など、スキルアップのために転職を希望することも。また、同じことを繰り返していると「飽きた。」と思うことはありませんか。人間は常に成長していくもので、欲求が充足されると次の欲求が出てきます。同じ環境にずっと身を置き続けることをストレスに感じる人もいます。今では、認定看護師や専門看護師などもありますし、ケアマネジャーなどの資格を取る人も増えてきています。今いる職場とは違った場所で看護の仕事をしたいと思う人もいます。もちろん、同じ職場で働き続けながらスキルアップをしていくことも可能です。しかし、自分の持っている能力を使って働きながら、さらなる知識や技術を身に着けたいと思って転職をする人もたくさんいます。

転職をしようと思ったきっかけは?

 では、実際に転職しようと思ったとき、不安や悩みが出てきてなかなか行動に移すことできなくなりませんか。 次は、その悩みと解消法について説明します。

2. 転職のときに悩む理由は?その解消法について

自分が退職したら今の職場の人に迷惑をかけるのではないか不安
 転職にあたって、今勤めている職場を辞めることを伝えなければなりません。まず、ここにハードルの高さを感じる人は多いのではないでしょうか。退職を伝えたとき、いい顔をしない人も中にはいます。「今あなたがいなくなったら人手不足になる」「あなたがいないと職場が回らなくなる」などを理由に退職を引き留められる可能性も。また、管理職についている方や中堅以上の方は、委員会の仕事や新人指導など、何等かの役割を担っている人の退職では職場が困惑する場合もあります。これらのことがあったとしても、今の職場に居続けるのか、転職をするのか、決定できるのは自分自身です。自分に転職する意志がはっきりしているのであれば、その意志を伝えましょう。そして、今の職場を辞めたあとどうするのかも明確に伝えましょう。そうすると、無理に引き留められることは回避できます。
 そして、避けたいのが急に退職する意向を職場に伝えること。急な退職はトラブルになる可能性があります。スムースに退職するためには、退職の意志をどれくらい前までに職場に伝えないといけないかを把握しておきましょう。そして、受け持っている患者の情報、委員会活動の内容など、自分が携わっている仕事内容を自分が退職した後にほかのスタッフが誰でもできるよう申し送っておきましょう。

新しい職場の人間関係や職場環境が不安
 人間関係については転職活動の際に出てくる不安の1つです。気になる方は、事前に情報収集しておくとよいでしょう。そのツールとして転職サイトを使ってみるのは一つの手段です。今は、看護師の転職サイトはたくさんあります。その中で現職者の口コミを重点的にチェックしてみると参考になるでしょう。ただし、退職した人が多い口コミサイトの場合、ネガティブな意見が多いことがあるので気を付ける必要があります。
 職場環境についても情報収集することがおススメです。転職サイトを利用する場合は、自分が希望する職場の条件や、どういう仕事がしたいのかなどを明確に担当のコーディネーターに伝えましょう。そのためには、自分自身がきちんと転職先に求めるものを明確にしておかなければなりません。給料や条件だけではなく、診療方針や働き方が自分に合いそうなのか、どんなふうに働いていきたいのか、いったい自分はどんなことがしたいのか、などを把握するために、しっかりと自分と向き合っておく必要があります。
 また、ホームページなどでも職場の理念や方針を調べておきましょう。そして、職場見学をすると実際に職場の雰囲気が伝わります。すべての職場で見学が可能かはわかりません。まず、転職を考えている職場があれば問い合わせをしてみましょう。その際、気になることがあれば質問して、一つ一つ不安を解消するようにしましょう。

もしかしたら収入が下がるかもしれない
 職員の募集要項に給料を記載しています。基本給以外にも夜勤手当や交通費、住宅手当など職場によって手当の有無や金額が異なります。転職する前に、今勤めている職場での基本給以外の手当がどれくらいなのか確認しておきましょう。そして、今の生活でどれくらいの収入が必要なのか把握することが大切です。ボーナス払いをしている人はボーナスがあるのか、およそどれくらい支払われるのか情報収集しておきましょう。また、退職金制度も職場によって異なります。何年か働かないと退職金が出ない場合もあります。数か月から1年間は試用期間でその後で正職員になることも。それらも踏まえたうえで、気になるところを確認しておくといいでしょう。

いまさら新しいことに挑戦する勇気がない
 年齢が上がるにつれ新しいことに挑戦したり、新しい環境に入ったりすることに躊躇する人は多いです。「もっと若ければ○○できたのに」と思うことはありませんか。しかし、「今」を逃すと、さらに年を重ねて挑戦することができなくなる可能性も。新しいことに挑戦するのに年齢は関係ありません。挑戦した結果が思っていたものと違うかもしれません。結果がどうであれ、人は経験し、その結果を身をもって確認しないと次には進めません。きちんとあきらめることができないのです。それを踏まえたうえで挑戦する勇気を持ってほしいです。

今まで身に着けてきた知識やスキルが使えるかどうかわからない
 職場が違えば看護業務といってもやり方やルールは違ってきます。また、新しいことを一から覚えないといけません。それは仕方がないことです。しかし、今までの経験で培ったものが土台としてあるのであれば、新しく覚えることもそんなに大変ではないはずです。柔軟に対応することを心がけましょう。そして、転職した後は、どんな仕事内容でも積極的に取り組みましょう。最初のうちは説明を受けながら業務に携わることができます。そして、自分自身でも業務内容を振り返ったり勉強したりするよう心がけていくと不安は解消されていきます。

転職のときに悩む理由は?その解消法について

 転職を行動に移せない悩みとその解消法を読んでみていかがでしたか。事前に対策しておけば、不安を解消することにつながります。
そして、あとは、自分自身が転職することへの勇気をもつことです。

3. 転職を行動に移すための心構え

行動するのは自分自身。あなたは一体どうしたいの?
 転職をするのか、今の職場に居続けるかを選択し、どんな行動をするかは自分次第です。多くの人は何等かの理由をもって看護師という職業を選んだはずです。その理由とはどんなものだったのでしょうか。働いていくうちに、医療現場や看護社会の現実を知り、働く目的が徐々に変わってしまいます。その結果、本来自分が何を思って看護師になったのかを忘れてしまっていませんか。それは悪いことではなく、誰もがそうなってしまう仕方のないことなのです。でも、自分が看護師として働いていくのであれば、いったん原点に立ち戻ってみると良いでしょう。そして、自分がしたいことは何なのか、今できることは何なのかを探っていくと自分の行動は変わってきます。

「今」自分がしたいこと、大切なことを最優先する。
 転職を考えるきっかけは人それぞれで、先に記述した理由が多いと思います。どんな理由であれ、転職する必要性があったから転職しようとしたはずです。そう思ったときがベストタイミングです。人は、過去に起こった出来事を思い出して落ち込んだり引きずったりします。その時、自分自身の意識は過去に行っています。また、この先起こるかどうかもわからないことを心配して不安になっていませんか。このとき、意識は未来に行ってしまいます。その結果「今」を忘れてしまいます。「今」何がしたいのか、「今」大切にしないといけないことは何なのでしょうか。新しい環境に身を置いて自分を成長させること、もしくは今の環境から離れて身を守ること、家族との時間を大切にしたいから働く時間を減らしたい、お金が必要だからもっと給料が多い職場がいい、など「今」の自分に意識を戻すことよいでしょう。「今」を体感すると自分がやりたいと思っている欲求を充足するための行動を自然としていきます。

不安や心配は自分でつくるもの
 新しいことに挑戦しようとするときは、「人間関係が悪かったらどうしよう」とか「お給料が今より下がったらどうしよう」など、不安が出てくるのは当たり前のことです。ただ、その不安を作り出すのは自分自身です。実際には新しいことをやる前にいろんなことを想像しているだけなのです。また、「失敗したらどうしよう」と思う人も少なくないのでは。新しい環境に行って慣れるまでは「やっぱり前の職場のほうがよかった」と後悔する経験もあるでしょう。そうなる可能性を極力減らすために、転職する前に徹底的に情報収集することが大切です。

今までの価値観にとらわれすぎないで
 転職がうまくいくか失敗するかは、実際挑戦してみないと結果はわかりません。これは、どうしようもない事実です。日本人の多くは「一度決めたことをやり通さなければならない」とか「コロコロ仕事を変えるのはよくない」といった価値観を持つ人が多いです。
 その価値観が良いのか悪いのかはわかりませんが、もし、失敗したらやり直せばいいのです。人生のほとんどの時間が働く時間です。人間は成長する生き物です。それに合わせて働く環境に求めるものが変化するのは当たり前です。悩んだり失敗したりの繰り返しで、自分が求める働き方や職場に巡り合います。自分が持っている価値観や考え方を振り返ってみるとよいでしょう。そして、自分には合わない価値観は思い切って捨てましょう。

最後に
 私は、17年間、主に病院で正職員として看護師をしていました。「人と関わり、人と話をすることで人の役に立ちたい」という思いが私の軸です。忙しい急性期の医療現場でゆっくり患者や人と関わることが難しいと痛感し、自分の年齢、体調を考えても臨床の現場で働き続けることに疑問を持つようになりました。何とか、自分の軸をぶらすことなく働くにはどうしたいいのを模索し続け、自分と向き合い続けました。今は、看護師をしながら8年間学び続けた心理学を活かして心理カウンセラーの仕事をしています。やりたいことを模索して、何回か転職もしました。そのたび、上記のような悩みにぶち当たってきました。正職員を手放し、パートとして区役所で地域担当看護職員として働き生計を立てることもありました。正職員とは違い、パートの収入は不安定です。また、税金、健康保険、確定申告などやったことがないことだらけ。戸惑いながらもなんとかやっていくことで「正職員にこだわらなくても生きていける。自分のやりたいことをすることができる。」と今まで持っていた価値観を一つずつ手放していく感覚を体感していきました。今までとは違った世界に足を踏み入れた感覚でした。
今ある環境を変えることには勇気がいります。でも、新しい世界は、自分自身が足を踏み入れてみないとどんな世界かはわかりません。
 同じ職場で長年働き続けることも素晴らしいことです。同じ職場にい続けても、自分の希望を一つ一つかなえていけば折り合いをつけることができ、働き続けることができるでしょう。しかし、それができないから転職を希望する人がいるのだと思います。
今、働き方の価値観や考え方は多様化しています。今までの自分が持っている価値観にとらわれる必要はありません。働くことは生きることです。人生は一度きりです。そして、働ける時間も有限です。転職するにはエネルギーが必要ですが、今自分がやりたいと思っていることに挑戦してもらいたいです。多くの人が自分の働きやすいと思える場所で自分の持っている能力を使って働けたらいいなと思います。

(羽立 友美)