眠れないとき、どうしたらいいのだろうか

最近眠れないな、と思うことはありませんか?
疲れているのに、なかなか眠れない。
しっかり眠ったはずなのに、なんだか昼間すごく眠い・・・
今日も眠れないのでは、と不安になる。
一緒に暮らしている高齢者が昼間眠って夜起きてしまい困っている。

眠りの悩みは、人によって違います。正しい知識を持って適切な対策をとれば、解決できるかもしれません。

1. 不眠のタイプと要因

不眠は「入眠障害」「中途覚醒」「早朝覚醒」「熟眠障害」4つのタイプに分けられます。
それぞれはっきり分かれているわけではなく、複数のタイプが組み合わさっていることが多く、いろいろな要因によって引き起こされています。

【1】入眠障害
眠ろうとしても、普段より2時間以上眠りにつけない状態が一定期間続いていて、それによって生活に支障が生じているものを入眠障害といい、眠りにつくための心と体の準備ができていないことが要因になります。
例として

  • ・ 仕事上の重圧や人間関係がうまくいかないなどの強いストレスを感じている、悩み事・心配事などがあり、落ち着かない。などの精神的なもの
  • ・ 車のエンジン音や上の階の足音などの騒音、極端な暑さ寒さ、明るすぎるなど環境に影響されたり、夜の仕事や交代勤務などの不規則な生活習慣になったりすることで起こる生理的なもの
  • ・ 痛みがある、鼻水がでる、鼻が詰まる、咳が止まらない、かゆくなる、トイレが近いなどの身体的なもの
  • ・ 寝る前にコーヒーなどのカフェインを摂取した、持病の薬の副作用(薬理学的なもの)

などが考えられます。

【2】中途覚醒
いったん寝付いても、夜中に何度も目が覚めてしまう。目が覚めたあとなかなか寝付けず、そのまま起きてしまったり、寝たり起きたりをくりかえして不眠になってしまったり、そんな状態が長く続いて生活に支障がでてしまうもののことをいいます。中途覚醒は眠りが浅いとなりやすくなります。
要因は【1】の例に加えて

  • ・ アルコールの摂取(お酒を飲むと寝つきはよくなるが眠りは浅くなる)

などが考えられます。

【3】早朝覚醒
早朝覚醒はただの早起きではなく、本来の起床時間より極端に早く目覚めてしまうことで、その結果睡眠時間が足りずに生活に支障が出てくる状態のことをいいます。早朝覚醒は何らかの原因で朝まで続くはずの眠りが早朝までしか続かないことで生じています。
 要因は【1】【2】の例に加えて

  • ・ 必要以上に長い時間眠ろうとして睡眠の質が落ちている(早い時間からベッドに入ってうとうとしている)

などが考えられます。

【4】熟眠障害
睡眠時間は取れていてもぐっすり眠れた感じがしない、寝ても疲れがとれない、昼間の眠気が強いといった症状があり、生活に支障が出てきているもののことをいいます。
要因は【1】【2】【3】の例に加えて、

  • ・ いびきがひどい
  • ・ 加齢による生理的な変化
  • ・ 睡眠眠時無呼吸症候群
  • ・ うつ病による症状

などが考えられます。

タイプ別に分けてみましたが、不眠になる要因は重なる部分が多いのがわかります。それらが複雑に絡み合って不眠の状態を作り出しているといえます。また、年齢によっても違いがありますので説明していきます。

2. 世代別にみた不眠

子供
子供の場合は、親の仕事の関係で寝るのが遅くなる、長すぎるお昼寝や昼間の活動不足、兄弟の影響など環境に要因がある場合が多く、タイプでいえばなかなか寝付けないという入眠障害が多いようです。アトピー性皮膚炎かゆみや小児喘息など、身体的要因での不眠では、中途覚醒もみられます。
成長や発達の過程で眠りはとても大切です。子供の睡眠不足は成長の遅れや食欲不振、注意集中力の低下、疲れやすくなるなどの悪影響があります。また、将来の肥満の危険因子になるといわれていますし、不眠の陰に病気がかくれている事もあるので、できるだけ早く対処する事が望ましいです。

思春期~
思春期以降は、友人関係の悩みや成績や進学へのストレスなどの心理的要因、またゲームやスマートフォンなどの使用による要因も強くあるようです。
スマートフォンやゲーム、パソコンなどのブルーライトは、夜に浴びると体内時計に作用して眠れなくなると考えられていますし、SNSの内容が気になったりメッセージの返信を気にしたり、眠りに集中できないことも睡眠に悪い影響があります。

青年期~
働き盛り世代では、長距離の通勤や長時間労働、交代勤務や仕事上のプレッシャーなど身体的にも精神的にも強い影響がでる要因がたくさんあります。結婚や子育て、転居、転職、親の介護など、プライベートでも様々な変化や悩み、出来事があり、それらも要因となる可能性があります。
喫煙やアルコールの摂取の影響、生活習慣病などの病気も出てきやすくなるので、それらと関連した形で出てくる不眠もあるでしょう。

高齢者
高齢者になると、加齢による体の変化に伴い睡眠が浅くなり、途中で目が覚めたり、早く目が覚めたりするようになります。眠りが浅いため、ちょっとした物音や尿意などで何度も起きる、ということも多くなります。体の病気を持つ人も多くなりますし、認知症の影響も少なからず出てきます。
 認知症の症状が出始めると、夜間せん妄(今の自分のいるところや状況がわからなくなり、家の中をうろうろしたり、幻覚をみたり、興奮したりすること)となることがあり、そのため睡眠不足となって昼寝てしまう、といったことがあります。昼間横になって寝たり起きたりを繰り返していると、いざ夜寝ようと思ってもうまく寝られず満足感が得られない、といった状況になりがちです。

3. 不眠による生活への影響は?

不眠の状態が続くと、体がだるい、集中できない・うっかりミスが多くなる・物事を思い出しにくくなる、ゆううつな気分やイライラ、やる気がでない、昼間眠い、仕事中や運転中のミスや事故の危険、睡眠不足に伴う緊張・頭痛・消化器症状、睡眠に関する不安など、たくさんの影響があります。長引けば日常生活を送ることが困難なり、学校へ通えなくなったり仕事へ行けなくなったりしてしまうこともあります。ほかの病気を誘発する可能性もあるので、できるだけ早めの対策をとる必要があります。
高齢者の不眠では、昼間寝て夜起きるといった「昼夜逆転」をしてしまうことがよくあります。眠れないので夜活動したり、大きな音をたてたり、寝ている人に声をかけたりして同居する家族の睡眠の妨げになることもあります。
本人に自覚がない場合もあり、続けば家庭不和につながりかねません。ではどうしたらよいのでしょうか。

4. 最近眠れない、と思ったら

まずは寝室の環境を見直す
寝具(ふとん、枕など)の見直しする、部屋の温度を快適に近づけるようにし、窓はなるべく光が入らないように遮光カーテンなどを使う。物音が気になるなら耳栓を使用してみる。
眠りを誘う香りもあるようなので、アロマセラピーを取り入れるのもいいかもしれません。

日光に当たる
朝起きてから日光を浴びると体内時計がリセットされます。そうすると夜の一定時刻になると眠たくなってくる、といった効果があります。起きる時間がバラバラだと、時間がずれてリズムが一定しないため、「同じ時間に起きる」というのが大切です。
休日も寝坊せず、できるだけ同じ時刻に起きて朝日を浴びるようにすれば、眠りに良い効果があるそうです。

適度な運動をする
昼間寝ていたり、活動量が少なかったりすると寝付きにくくなりやすいので、活動量を増やしてみます。運動といっても、きつい運動をすることはありません。
帰りに一駅分あるいてみるとか、犬の散歩コースを伸ばしてみるとか、ラジオ体操をするとか、その程度でもかまいません。いつもより少し多めに体を動かしてみましょう。
高齢者の場合はできるだけ昼間起きて活動している時間を増やせるよう、デイサービスなどを利用することも効果的です。
適度な疲労は睡眠に良い影響があるようです。

適温で入浴する
38℃~41℃のお風呂に入ることでリラックス効果が期待できます。
熱いお湯が好きな方は、寝床につく2時間前までに入浴を済ませたほうがよいそうです。

寝る前にスマートフォンやパソコンを使わないようにする
スマートフォンやパソコンなどから出るブルーライトは、睡眠に悪影響を与えるといわれています。できれば寝床につく2時間ほど前から使用を控える、どうしても使用しなければいけない場合はナイトシフト機能を使用する、ブルーライトカットの眼鏡をかけるのも効果があるようです。

眠るための飲酒はしない
適度な飲酒は体を温めたりリラックスしたりする効果がありますが、眠ることを目的とした場合、深酒になりやすい傾向があります。
飲酒は寝つきがよいように感じますが、実際は眠りが浅くなってしまいます。
また、習慣化することによってお酒の量が段階的に増え、アルコール依存症へ移行する恐れもあります。

寝る前に腹式呼吸を行う
ベッドに入ってからヨガの瞑想の時のような、吸うよりも吐く時間を長くゆっくりとした腹式呼吸を意識的に行うことで、自律神経の興奮が収まってリラックスし眠れるようになることもあります。

以上の対策をしてもなお、不眠の状態が続くときは不眠症を疑うことになります。

5. 不眠と不眠症の違い

不眠とは、何らかの原因で眠れないことが週3回以下で、一過性で継続しないものをいいます。環境や生活習慣の見直しなどで比較的短期間で改善するものです。

不眠症とは、入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害などの睡眠問題が一か月以上続き、日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調がでてくる病気です。(厚生労働省eヘルスネットより)
不眠症の場合は専門的な治療が必要となります。眠れないことを心配する気持ちが不眠を悪化させ、心や体に悪影響を与えてしまうことになるので早めの対処が大切です。そんな時はどんな病院に相談すればよいのでしょうか。

6. 不眠症かなと思ったら

かかりつけ医があれば、まず相談してみましょう。
身体的な要因であれば、症状を改善する治療をすれば眠れるようになるかもしれませんし、お薬が原因ならほかのものに変えてもらうことで改善できるかもしれません。また、いつも診ていただいている先生に「眠れない」という悩みを聞いてもらうだけでも、いくらか気持ちが落ち着くことがあります。
体に異常がなく、飲み物や食べ物、生活習慣や環境に気を配っても改善が見られない。かかりつけ医で薬を確認してもらったが問題ない・・・などというときは、心療内科や精神科などの専門医への受診をおすすめします。

心療内科や精神科に相談してみる。
何となく行きづらい、眠れないくらいで行ってもよいのだろうか?と思う方もいらっしゃるかと思いますが、不眠症は心に原因があることが多い病気です。心の病気は心の専門家に治療してもらうことが大事です。細かく症状を聞き、適切な診断を行うことで、その方にあった方法を一緒に見つけていくことができます。不眠治療は睡眠薬などを使用した薬物療法を中心に行われます。睡眠薬には「癖になる(依存)」「からだに悪い」などのイメージや抵抗感を持たれる方も少なくありませんが、医師の指示通り使用すればそういった心配はありません。眠りに関するお薬は様々な種類があって、組み合わせや量の調節をし、その人の不眠の症状に合わせた治療ができますので安心して相談してください。検査やカウンセリングで心の不調の原因を明らかにし、眠り以外の治療も必要か、眠るためにはどのようにストレスと向き合っていったらよいかなど、アドバイスをもらえます。

認知症のお年寄りの不眠についても、不眠以外の困った症状(幻視・幻覚・暴言・暴力・徘徊など)と併せて治療をすることができますので、相談してみてください。

7. 不眠以外の睡眠障害

一部ですが、参考までに不眠以外の睡眠障害も紹介しておきます。

ナルコレプシー(過眠症)
夜眠っているにも関わらず、日中、場所や状況を選ばず強い眠気の発作が起こることを症状とする脳の病気です。怒ったり笑ったりしたとき突然体に力が入らなくなったり、眠りに入るときに金縛りにあったりすることがあります。
疑われる場合は、時間をかけて特別な検査を行って診断を行います。

※睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりして、体に取り込む酸素が足りなくなる状態になる病気です。肥満や耳鼻科系の病気、いびきをかく方に多く見られます。眠れないというよりは、昼間の眠気か強いという症状を訴える方が多い傾向があります。

どちらも治療には専門的な知識が必要になりますので、まずはかかりつけ医に相談してみましょう。

8. まとめ

睡眠は脳や体の休養、疲労を回復したり、免疫機能を増加させたり、感情の整理をしたり、とても大切な役割があるため、健康的な生活を送る上でも十分とる必要があります。しかし、様々なストレスの影響により良質な睡眠をとることが難しくなってしまうこともあるでしょう。不眠の悩みは年代や環境、体や心の状態によって人それぞれにあり、治療法もまた人それぞれにあります。まずは環境や生活習慣を整え、不眠の陰に病気が隠れていないかなどをしっかりチェックしてみてください。それでも眠れないときは一人で悩まず、専門医の治療を受けてみることを考えてみてください。

(西川 結子)

参考文献
  • 厚生労働省 eヘルスネット 休養・心の健康
    [ https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart ]
  • 健康づくりのための睡眠指針 2014 厚生労働省健康局
    [ https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf ]
  • 子供の健康とICT 山梨大学大学院総合研究医学域 社会医学講座 山形然太朗
    [ https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/139/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2018/11/15/1411030_01.pdf ]
  • 寝付けない方に知ってほしい入眠障害が生じる原因とその改善・治療法 せせらぎメンタルクリニック
    [ http://seseragi-mentalclinic.com/hypnagogic-disorder/ ]