糖尿病のお薬を飲んでいる方へ「お薬きちんと飲めていますか? 」

糖尿病のお薬、ついつい飲み忘れていませんか?
危険な病気になる前に、毎日きちんと飲む習慣をつけましょう。

医師から処方されて飲み始めた糖尿病のお薬、きちんと飲めていますか?
「血糖が高いと言われたけど、悪い症状はないし、薬を飲み忘れても何ともない」とつい油断してしまっていないでしょうか。

糖尿病のお薬は飲み忘れても、短期間では体調はほとんど変わりません。
しかし、糖尿病で怖いのは、失明や透析、足の切断などの「危険な合併症」です。
一度の飲み忘れをきっかけに、薬を飲まない日が続くと、合併症になるリスクは高まります。
普段の生活も不自由になり、家族にも迷惑をかけるとなると本当に辛いですよね。

そこで本日は、糖尿病の原因や合併症、お薬の種類や飲み忘れたときの対応、そして飲み忘れを防ぐために工夫できることについて紹介します。 糖尿病のことを正しく理解して、きちんと治療をおこない、血糖値をコントロールしていきましょう。

【1】糖尿病とは

糖尿病患者は年々増えている
厚生労働省の平成28年「国民健康・栄養調査」によると、糖尿病の患者数は予備群(可能性を否定できない人)も合わせると、約2,000万人いるといわれています。
日本人の約6人に1人が糖尿病ということで、非常に身近な疾患だといえます。

症状
ほとんど自覚症状がなく、定期健診などで偶然に発見されることも多いです。
ただし、病気が進行してくると、少しずつゆっくりと次のような症状があらわれます。

  • ・体がだるく、疲れやすい
  • ・のどが渇いて、水分を多くとる
  • ・目がかすんで、ものが見えにくい
  • ・手足がしびれる
  • ・尿の量が多く、トイレに行く回数が増える
  • ・たくさん食べても痩せる

糖尿病はたとえ症状があるとしても、生活に大きな支障が出る程ではありません。

【2】本当に怖いのは「合併症」

本当に怖いのは「危険な合併症」

糖尿病は自覚症状が少ないため、治療を油断してしまうこともあるかもしれません。
しかし本当に怖いのは、危険な合併症です。
合併症とは、ある病気が原因となって起きる、別の病気をいいます。
血糖値が高い状態を治療しないままにすると、血管が傷ついたり、詰まったりして、血流が滞ります。
さらに各臓器の血管で血流の滞りが起きると、例えば目の血管であれば失明に、腎臓の血管であれば腎障害から透析が必要な状態に、足の血管であれば足壊疽になり、ついには足の切断。これら危険な合併症につながり、普通に生活することが困難になります。

糖尿病の合併症の一覧を、以下に示します。
頭文字をとった呼び方で「し・め・じ」、「え・の・き」と言われており、日常生活が不自由になるだけでなく、命にかかわる病気です。

呼び方臓器合併症
し・め・じ 神経 経障害
網膜症(→ 失明)
腎臓 症(→ 透析)
え・の・き 疽(→ 足の切断)
梗塞
心臓 血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)
呼び方:し・め・じ
臓器合併症
神経経障害
網膜症(→ 失明)
腎臓症(→ 透析)
呼び方:え・の・き
臓器合併症
疽(→ 足の切断)
梗塞
心臓血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)
糖尿病の合併症一覧

【3】原因とは?身体の中で起きていること

糖尿病の原因 ~1型糖尿病と2型糖尿病~
1型糖尿病では、インスリンが全く分泌されません。
インスリンは膵臓から出るホルモンであり、血糖を一定の範囲におさめる働きを担っています。

しかし、このインスリンが分泌されないために、血液中を流れるブドウ糖という糖(血糖)が増えてしまいます。

糖尿病の原因 ~1型糖尿病と2型糖尿病~

2型糖尿病は、インスリンの効果が出にくくなっている状態で、肥満や運動不足、ストレスがきっかけとなることが多いです。
ほとんどの糖尿病患者がこの2型糖尿病であり(10人中9人以上)、太った中高年の方に多いです。

インスリンの効果が出にくい原因 ~インスリン分泌低下とインスリン抵抗性~
食事でとった糖質は、腸から吸収されて、血液中を流れていきます。
そして、筋肉などの細胞へ流れていき、インスリンの助けにより細胞内に入って、からだを活動させるエネルギー源となります。

しかし、糖尿病患者さんでは、以下の2つの原因によりインスリンの効果が出にくくなり、細胞内に入れず、血液中に糖があふれてしまいます。

  • ・インスリン分泌低下:インスリンをつくる膵臓の機能が低下することで、血液を流れるインスリン量が少なくなる
  • ・インスリン抵抗性:各細胞でインスリンへの反応が鈍くなり、糖がインスリンの助けを得られず、細胞内に入れなくなる

【4】糖尿病のお薬の種類と、飲み忘れたときの対応

糖尿病の患者さんが飲むお薬には、血糖値を下げるお薬と、糖尿病の合併症を防ぐお薬があります。

血糖値を下げる飲み薬
糖尿病の飲み薬は全部で8種類あり、それぞれ飲むタイミングや、飲み忘れた時の対応が異なります。
お薬をきちんと安全に飲むため、自分が飲んでいる薬が、どの種類のお薬かを知っておきましょう。

お薬の種類 作用の特性 飲むタイミング 飲み忘れたとき
SU薬 膵臓に、インスリンを出すように命令するお薬。 食事の影響を受けにくいので、食前・食後どちらでもよい。 気づいたときにすぐ飲むようにする。
食事からかなり時間がたった場合は、忘れた分を抜く。
速効型インスリン分泌促進薬 膵臓に、速やかにインスリンを出すように命令するお薬。
短時間で作用は消失するため、低血糖を起こしにくい。
必ず食事の直前(10分以内)に飲む。 食事から時間がたった場合は、忘れた分を抜く。
DPP-4阻害薬 血糖値が高いときだけ出るホルモンを介して、膵臓にインスリンを出すように命令するお薬。 血糖値が高いときだけ作用するため、食前・食後どちらでもよい。 気づいたときにすぐ飲むようにする。
ただし、次に飲むタイミングが近い場合は、忘れた分を抜く。
ビグアナイド薬 肝臓が糖を作るのを抑える作用と、インスリンの効きをよくする作用をもつお薬。 食事の影響を受けにくいので、食前・食後どちらでもよい。 気づいたときにすぐ飲むようにする。
食事からかなり時間がたった場合は、忘れた分を抜く。
αグルコシダーゼ阻害薬 糖分の分解と吸収を抑えて、食後の高血糖を抑える。 必ず食事の直前(10分以内)に飲む。 食事中に気づいたら、すぐに服用する。
食後以降であれば、忘れた分を抜く。
SGLT2阻害薬 腎臓でのブドウ糖の再吸収を抑えて、過剰な糖を尿に排泄する。 朝に飲むが、食事の影響を受けにくいので、食前・食後どちらでもよい。 朝飲み忘れたときは、昼までに気づいたら飲む。
それ以降は、忘れた分を抜く。
GLP-1受容体作動薬 血糖値が高いときだけ出るホルモンを介して、膵臓にインスリンを出すように命令するお薬。 朝起きて、空腹時に飲む 朝食後に気づいたときは、忘れた分を抜く。
お薬の種類 SU薬
作用の特性 膵臓に、インスリンを出すように命令するお薬。
飲む
タイミング
食事の影響を受けにくいので、食前・食後どちらでもよい。
飲み忘れた
とき
気づいたときにすぐ飲むようにする。
食事からかなり時間がたった場合は、忘れた分を抜く。
お薬の種類 速効型インスリン分泌促進薬
作用の特性 膵臓に、速やかにインスリンを出すように命令するお薬。
短時間で作用は消失するため、低血糖を起こしにくい。
飲む
タイミング
必ず食事の直前(10分以内)に飲む。
飲み忘れた
とき
食事から時間がたった場合は、忘れた分を抜く。
お薬の種類 DPP-4阻害薬
作用の特性 血糖値が高いときだけ出るホルモンを介して、膵臓にインスリンを出すように命令するお薬。
飲む
タイミング
血糖値が高いときだけ作用するため、食前・食後どちらでもよい。
飲み忘れた
とき
気づいたときにすぐ飲むようにする。
ただし、次に飲むタイミングが近い場合は、忘れた分を抜く。
お薬の種類 ビグアナイド薬
作用の特性 肝臓が糖を作るのを抑える作用と、インスリンの効きをよくする作用をもつお薬。
飲む
タイミング
食事の影響を受けにくいので、食前・食後どちらでもよい。
飲み忘れた
とき
気づいたときにすぐ飲むようにする。
食事からかなり時間がたった場合は、忘れた分を抜く。
お薬の種類 チアゾリジン薬
作用の特性 インスリンの効きをよくするお薬。
飲む
タイミング
朝に飲むが、食事の影響を受けにくいので、食前・食後どちらでもよい。
飲み忘れた
とき
朝飲み忘れたときは、昼までに気づいたら飲む。
それ以降は、忘れた分を抜く。
お薬の種類 αグルコシダーゼ阻害薬
作用の特性 糖分の分解と吸収を抑えて、食後の高血糖を抑える。
飲む
タイミング
必ず食事の直前(10分以内)に飲む。
飲み忘れた
とき
食事中に気づいたら、すぐに服用する。
食後以降であれば、忘れた分を抜く。
お薬の種類 SGLT2阻害薬
作用の特性 腎臓でのブドウ糖の再吸収を抑えて、過剰な糖を尿に排泄する。
飲む
タイミング
朝に飲むが、食事の影響を受けにくいので、食前・食後どちらでもよい。
飲み忘れた
とき
朝飲み忘れたときは、昼までに気づいたら飲む。
それ以降は、忘れた分を抜く。
お薬の種類 GLP-1受容体作動薬
作用の特性 血糖値が高いときだけ出るホルモンを介して、膵臓にインスリンを出すように命令するお薬。
飲む
タイミング
朝起きて、空腹時に飲む
飲み忘れた
とき
朝食後に気づいたときは、忘れた分を抜く。

くれぐれも忘れてそのままにしないでくださいね。

合併症を予防するためのお薬
心筋梗塞や脳梗塞などの予防のために、血圧や脂質のコントロールも必要となる場合は、血圧を下げるお薬やコレステロールの合成を抑えるお薬などが使われます。
また神経障害に対しては、痛みをやわらげるお薬や、ビタミン剤が使われます。

【5】血糖コントロールのための検査

糖尿病は長く付き合っていく病気であり、血糖の状態を正確に把握しながら、治療を継続していくことが大切になります。

検査対象 方法 基準値
血糖値(採血) その瞬間での血糖血を知ることができる。
測定するタイミングにより、「空腹時血糖値」「食後血糖値」「随時血糖値」などの名前がある。
空腹時血糖値 110mg/dL未満
食後2時間の血糖値 140mg/dL未満
HbA1c(採血) HbA1cは血液中で酸素を運ぶ「ヘモグロビン」とブドウ糖が結合した物質で、過去1,2ヵ月の血糖コントロールの状態を知ることができる。
血糖値は一日の間でも変動が大きいため、長期間の血糖コントロール状態を知れるのは貴重な情報となる。
HbA1c 4.6~6.2%
尿糖(採尿) 尿にブドウ糖が含まれるかどうかを検査する。
ブドウ糖が血液中に多すぎると、尿中にもあらわれる。
陰性(-)
グリコアルブミン検査
(採血)
血液中のアルブミンとブドウ糖の結合している割合を調べる検査で、過去約2週間の血糖コントロールの状態をあらわす。 GA 11~16%
1,5-AG検査
(採血)
1,5-AGは尿中に尿糖と一緒に排泄されるが、尿糖が出る程、排泄が減る物質である。
過去数日間の血糖コントロールの状態を知ることができる。
1,5-AG 14μg/mL以下
検査対象 血糖値(採血)
方法 その瞬間での血糖血を知ることができる。
測定するタイミングにより、「空腹時血糖値」「食後血糖値」「随時血糖値」などの名前がある。
基準値 空腹時血糖値 110mg/dL未満
食後2時間の血糖値 140mg/dL未満
検査対象 HbA1c(採血)
方法 HbA1cは血液中で酸素を運ぶ「ヘモグロビン」とブドウ糖が結合した物質で、過去1,2ヵ月の血糖コントロールの状態を知ることができる。
血糖値は一日の間でも変動が大きいため、長期間の血糖コントロール状態を知れるのは貴重な情報となる。
基準値 HbA1c 4.6~6.2%
検査対象 尿糖(採尿)
方法 尿にブドウ糖が含まれるかどうかを検査する。
ブドウ糖が血液中に多すぎると、尿中にもあらわれる。
基準値 陰性(-)
検査対象 グリコアルブミン検査(採血)
方法 血液中のアルブミンとブドウ糖の結合している割合を調べる検査で、過去約2週間の血糖コントロールの状態をあらわす。
基準値 GA 11~16%
検査対象 1,5-AG検査(採血)
方法 1,5-AGは尿中に尿糖と一緒に排泄されるが、尿糖が出る程、排泄が減る物質である。
過去数日間の血糖コントロールの状態を知ることができる。
基準値 1,5-AG 14μg/mL以下

その他にも、ケトン体検査や膵臓の働き(インスリン分泌量など)を調べる検査、合併症(眼底検査、尿中アルブミン検査、腱反射テストなど)の検査があります。

これだけ多くの検査をおこなう理由は、すべては危険な合併症にならないよう、血糖コントロールを維持するためです。
各検査の意味と目標値をよく理解して、自分の身体の状態を把握し、治療を進めましょう。

【6】きちんと飲み続けるために、これからできること

飲み忘れを防ぐための便利グッズを紹介します。
危険な合併症のリスクがあると理解できていても、つい忘れてしまうこともあると思います。
無理なく治療を続けるために、役立つグッズをぜひ活用してみてください。

スマートフォンのアプリ
毎日決まった時間に、アラームで薬を飲むタイミングを知らせてくれます。
また、リマインダーとしての機能だけでなく、糖尿病患者さんにとって重要な血糖値や血圧、体重などの記録をできる機能もついています。

お薬手帳やカレンダーを活用
薬局でもらうお薬手帳やカレンダーに記録することで、毎日の服用状態を視覚的に確認できます。
通院時に持参して、医師や薬剤師にも、薬がきちんと飲めているかを確認してもらいましょう。

ピルケース
一日ごとや飲むタイミングごとで仕切られた薬のケースです。
その日に飲む薬を一目で確認でき、お薬の服用状況が分かりやすいです。

分包する
薬を飲むタイミングごとに、ビニールで分包する方法で、薬局で頼めます。
何種類も飲む薬がある方は、薬の取り違えも防ぐことができるのでおすすめです。

2種類飲んでいる場合、1剤にまとめた配合剤に変更してもらう
一日に何錠も薬を飲むのは大変です。
糖尿病の薬には、いくつか配合剤があるため、変更できないか医師に相談してみましょう。

一週間に一回投与のお薬に変更してもらう
飲み薬は基本的に一日一回は飲む必要があります。
ただし、どうしても毎日薬を飲むのが大変という場合に、一週間に一回投与の注射剤もありますので、医師に相談してみるのもよいでしょう。

まとめ

今回は、糖尿病の症状や原因、重大な合併症、糖尿病のお薬と飲み忘れたときの対応などについて紹介しました。
糖尿病は自覚症状が少なく、油断して薬を飲み忘れたりしがちです。
しかし、その間にも身体の中では少しずつ悪化し、危険な合併症になるリスクが高まります。
まずは、今飲んでいる糖尿病のお薬の種類と、飲み忘れたときの対応をしっかり確認しておきましょう。
そして定期検査で、自分の血糖の状態をきちんと把握し、きちんと血糖をコントロールしていき、危険な合併症になるのを防ぎましょう。

(見元 美佐)

参考文献
  • 厚生労働省「平成28年国民健康・栄養調査報告」(2021年2月14日閲覧)
    [ https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189.html ]
  • 日本糖尿病学会 編・著「糖尿病診療ガイドライン2019」2019, 南江堂
  • 日本糖尿病学会 編・著「糖尿病治療ガイド」2018, 文光堂
  • 岩岡 秀明 編・著「糖尿病診療ハンドブックVer.2」2015, 中外医学社
  • 「糖尿病ネットワーク」(2021年2月27日)
    [ https://dm-net.co.jp/ ]
  • 国立国際医療研究センター「糖尿病情報センター」(2021年2月27日)
    [ http://dmic.ncgm.go.jp/medical/120/instructiontool.html ]