「まだ元気!なうちに知っておきたい~【フレイル】という考え方~」

はじめに

あなたは健康ですか?
急にそう聞かれると⋯健康って実際どういう状態のことなのかな?と、改めて考えてしまって、答えに詰まってしまいませんか?

健康について調べていく過程でよくでてくる言葉、それが「フレイル」です。

「フレイル」とは、健康な状態と要介護状態の中間に位置する概念。

ここ最近の高齢化社会の話題のひとつとして「フレイル」という言葉を耳にする機会は増えてきました。けれどもその意味を正しく理解している方は、まだそれほど多くないかもしれません。特に仕事と子育てに追われる現役世代の多くの人にとってフレイルは、「高齢者の話」「自分にはまだ関係のないこと」という印象が強いのではないでしょうか。

しかし実際には、フレイルはある年齢から突然始まるものではありません。40代以降のほとんどの方が経験する身体の衰えを中心として、認知機能の低下、人や社会との関わりの変化の過程で、気づかれないまま少しずつ進行していく状態です。

はじめに

今は元気に暮らしているのにフレイルについて知ると、なんだか自分の老後が不安になる⋯と考える方もいらっしゃるかもしれません、自分の将来について必要以上に不安を感じるためにフレイルを知るというよりは、むしろ元気な今だからこそ自分の生活を振り返り、将来の健康な老後に向けて備えるためのヒントになります。

本コラムでは、フレイルとはどのような状況なのか、そして日常生活の中でフレイルを予防するためにできること、フレイルを予防することでどのようなことが期待できるのかを分かりやすくお伝えします。

フレイルとは何か~健康と要介護のあいだ~

フレイルは、健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指します。

フレイルの状態になっているのに、何も対策をとらずに放置していると要介護状態になってしまう危険性が高まります。一方で、持病を適切に治療するとともに、栄養や運動習慣などの生活習慣を整えたりすることで、フレイルから健康に戻れることもわかっています。

フレイルとは何か~健康と要介護のあいだ~

ここで大切なのは、フレイルは「健康な状態に戻れない状況」ではないという点です。加齢そのものは誰にでも起こりますが、フレイルは生活のあり方によって進行を遅らせたり、改善したりすることが可能だと考えられています。 この「気づける」「戻れる」という特徴こそが、フレイルを正しく理解する最も大切な理由だといえます。

フレイルを構成する3つの側面

フレイルは、主に3つの側面から成り立っています。

1. 身体的フレイル
身体的フレイルは、筋力や体力の低下だけを指すものではありません。実際には、日常生活を支えるさまざまな身体の小さな衰えが重なり合って進行します。

代表的なのが運動機能的フレイルです。筋力の低下や歩行速度の低下、バランス機能の低下などが含まれます。

  • ・ 以前より歩くのが遅くなった
  • ・ 少しの段差で不安を感じる
  • ・ 階段をのぼるのに手すりが必要
  • ・ 15分くらい続けて歩くことができない
身体的フレイル

このような変化は、転倒や活動量低下につながりやすく、フレイルの入り口と考えられています。

また、近年特に注目されているのが【オーラルフレイル(口腔のフレイル)】です。歯の本数が減る、噛む力が弱くなる、滑舌が悪くなるといった変化は、食事量の低下や栄養の偏りを招きやすくなります。

オーラルフレイル
  • ・ 以前に比べて固い物が食べにくくなった
  • ・ お茶や味噌汁、酢の物などでむせることがある
  • ・ 口の乾きが気になる

などの変化がある場合は要注意です。噛みにくさなどから食が細くなると、たんぱく質やエネルギーが不足し、筋力低下を加速させる要因にもなります。

さらに、骨のフレイルも見逃せません。骨密度の低下は自覚症状がほとんどないまま進行しますが、転倒時の骨折リスクを高め、その後の生活自立度に大きく影響します。骨と筋肉は密接に関係しており、運動不足や栄養不足が続くことで、両者の衰えが同時に進みやすくなります。

骨のフレイル

加えて、耳のフレイル、つまり聞こえにくさも身体的フレイルの一要素として重要です。聞こえにくくなると会話を避けがちになり、外出や人との交流が減ることで、社会的フレイルや認知機能低下につながる可能性があります。

耳のフレイル

さらに、視覚の衰えであるアイフレイルも、身体的フレイルを考えるうえで見逃せない要素です。見えにくさは、転倒への不安や外出の億劫さにつながりやすく、耳のフレイルと同様に知らず知らずのうちに活動量や社会参加を減らす原因のひとつになります。

アイフレイル

このように身体的フレイルは、「身体」や「筋力」「骨」だけの問題ではなく、「口」「耳」「目」といった、日常生活を支える感覚機能や運動機能全体の衰えとして捉えることが大切です。

※ フレイル予防として日常生活に取り入れたい具体的な習慣
身体的フレイルの予防には、特別な運動や難しいトレーニングは必要ありません。日常生活の中で簡単にできるちょっとした体操や運動に効果があります。

地域のフレイル予防の健康体操教室では、高齢の方々に無理のない内容で、身体・口腔・認知機能をバランスよく刺激する工夫がされています。たとえば、簡単な脳トレ体操では、体を動かしながら数を数えたり、左右違う動きをしたりすることで、認知機能と運動機能を同時に使います。

【口腔体操(いわゆる「ぱ・た・か・ら」体操)】は、おおきく口を開けて「ぱ」「た」「か」「ら」と声にだして発声します。口周りの筋肉や舌を動かすことで、噛む力や飲み込む力を保つことを目的としています。声に出して行うことで、自然と呼吸や発声の訓練にもなり、日常会話のしやすさにもつながります。

口腔体操

全身の体操や脚の体操では、椅子に座ったまま行える動きや、立ったままできる軽いスクワット、かかとの上げ下げなどが取り入れられています。これらは、特別な器具がなくても、自宅で再現しやすいのが特徴です。

全身の体操や脚の体操

毎日の生活の中では、

  • ・ 食事の際に「よく噛む」ことを意識する
  • ・ できる範囲で声を出して話す、歌う
  • ・ 1日のどこかで、太ももやふくらはぎを意識して動かす
  • ・ 座りっぱなしを避け、こまめに立ち上がる

といった小さな習慣が、フレイル予防につながります。

2. 心理・認知的フレイル
心理・認知的フレイルは、意欲や集中力の低下、物忘れが増えたと感じる状態を指します。

心理・認知的フレイル

「新しいことに挑戦しなくなった」「外出や人付き合いが面倒に感じる」といったメンタル面での弱りは、この段階のサインであることがあります。

心理的な落ち込みや不安が続くと、活動量や社会参加が減り、会話の減少などによる脳への刺激が減ることによって、身体的・社会的フレイルをさらに進行させるきっかけにもなり、認知症や要介護状態への進行リスクも高まります。

3. 社会的フレイル
社会的フレイルは、人や社会とのつながりが希薄になり、社会的孤立や経済的な困窮などが生じやすい状態を指します。

社会的フレイル

家族や友人との交流が減り、一人で過ごす時間が増えることで外出の機会が減る、生活範囲が狭くなる、会話の頻度が少なくなる、地域や家庭での役割がなくなるといった変化がきっかけで社会的フレイルが進行します。

社会的フレイルは、身体的・心理的フレイルの引き金になることが多い重要なフレイルです。社会的孤立がきっかけとなり、身体的フレイル、心理・認知的フレイルがドミノ倒しのように進行し、要介護状態につながりやすくなります。(フレイル・ドミノ)

社会的フレイルは、3つのフレイルの中で1番見過ごされがちですが、健康な老後を過ごすためには最も重要なフレイルです。

人や地域、社会との関わりやつながりを意識し積極的に社会参加をすることは、フレイルの進行を防ぐ重要な鍵になります。

地域包括支援センター

フレイル予防についてどうしたらよいのかわからない!という方には、お近くの「地域包括支援センター」に行ってみることをおすすめします。

地域包括支援センター

地域包括支援センターは、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、保健・医療・福祉・介護の総合相談窓口です。市町村が設置主体となり、保健師や社会福祉士・主任ケアマネージャーがチームで連携し、介護予防や生活支援など高齢者のあらゆる困りごとに対し必要な支援につなげる役割を担っています。

私が出会った「元気な高齢者」の姿

私は現在、視能訓練士として週に2日眼科で働いています。仕事のない日には、地域の公民館等で行われている「フレイル予防の健康体操教室」や「認知症予防のオレンジカフェ」に参加しています。

なぜ参加しようと思ったのかといいますと、参加されている地域の高齢者の方たちがとても元気でイキイキとされていたからです。

健康教室や認知症予防カフェに集まっているのは、健康への関心が高く、自分の生活を楽しんでいる高齢者の方々でした。

私が出会った「元気な高齢者」の姿

しかも主宰しているのは同じく近所の高齢者の方たちです。認知症予防の脳トレやフレイル予防の運動などを高齢者の方たちが、楽しく高齢者の皆さんに教えています。

認知症予防カフェでは、毎回手作りのおやつが提供されます。それをいつも作っているのは近所のお料理上手な高齢者の方たち。

支える側も支えられる側も高齢者であり、そしてどちらもとても楽しそうに活動されています。

それだけでなく、そこでは参加者同士が些細なことでよく笑い、よく話し、「今日は○○さんが来ていないけれど大丈夫かしら?」と自然に気遣い合う姿がよく見られます。誰かが来ないと心配して連絡を取り合う、そんな関係性がごく当たり前のように存在しています。

その状況を見ていると、近所の知り合いと集まり、笑い合い、そして得意なことを披露し、楽しく安心して過ごせる時間こそが、そこに参加されている方たちの健康を支えているのではないかなと思います。

認知症予防カフェ

フレイルの3つの側面の中で、社会的フレイルは最も重要な要素かもしれないと、私は感じています。人とのつながりがあることで、自然と外出し、会話し、笑う機会が生まれます。それは結果的に、身体を動かすことにつながり、心や認知機能への良い刺激にもなります。

地域のフレイル予防教室やオレンジカフェでは、「健康のために何かをしなければならない」という雰囲気よりも、「顔を合わせて話す」「一緒に笑う」「得意なことを共有する」といった、ごく自然な交流が大切にされています。 誰かが来ていないと心配して声を掛け合い、必要であれば安否を気遣う―そうした関係性も、結果としてフレイルの進行予防につながっているのだと思います。

これからのフレイル予防を考える

私が現在参加しているフレイル予防の健康体操教室や認知症予防カフェに参加されていらっしゃる方たちは、そのほとんどが昭和のお生まれ。スマホやSNSなどがなかった時期に人と人とのコミュニケーションをしてこられた世代です。

スマホやSNSが普及してきた現在、これからのフレイル予防対策にも変化があると思います。

今後は、スマートフォンやAIなどの技術を取り入れた、新しい形のフレイル予防や社会参加の形が生まれてくる可能性があると考えています。実際にリアルで会う場所だけでなく、オンラインゲームなどでの脳トレやオンラインでの体操教室など、オンラインでつながる場を上手に組み合わせることで、これまでとは違うコミュニティが築かれるかもしれません。

これからのフレイル予防を考える

大切なのは、「人とつながる」「笑う」「話す」「役割を持つ」ということです。フレイルを予防する方法は、科学技術の発展とともに少しずつ変わっていくと思いますが、やはり忘れてはいけないのは、人の温かさだなと思います。

おわりに

フレイルについて知った後で⋯

もう一度質問します!

「あなたは健康ですか?」

はっきりと「イエス」か「ノー」で答えることができたでしょうか?

フレイルという言葉は少しわかりにくいですが、フレイルの3側面については、日常生活で予防できることが多く、特にこれといって特別なことをする必要はないのだな⋯ということもおわかりいただけたかなと思います。

実は、超高齢化社会と人口の減少の中で、特に仕事現役世代や子育て世代からのフレイル予防が注目されています。(プレフレイル対策)

フレイル予防は、もはや高齢者だけの問題ではなく超高齢化社会を健康に生き抜くための「全世代型」の健康戦略へと進化しています。

おわりに

今後は、特定の地域だけにとどまらず企業や自治体、医療機関、大学などが連携し地域全体でフレイル予防を支援する体制が重要になってくると思います。

ただ、最後まで忘れてはいけないのは、やはり人と人とのコミュニケーションの大切さ。

今現在、元気に活動していらっしゃる高齢者の方たちから学ぶこともたくさんあるのではないかと思っています。

「まだ元気」な今こそ!気軽にフレイル予防を始めてみませんか?

(視能訓練士 原りえ)