眼を守るためのアイケア習慣!セルフケアで気づく“眼科受診のタイミング”

私たちは毎日、「見えている世界」の中で、見えることが当たり前のように生活しています。見えることが当たり前の世界では、「見えない」ということを想像するのはとても難しいことかもしれません。

見えることが当たり前になってしまうと、ついつい長時間にわたり眼を使い過ぎてしまったり、眼を休める時間が少なくなってしまったり⋯といった「眼の労働環境」を無視した眼の使い方をしてしまいがちです。

眼の疲れや不調を感じていたとしても、「ちょっと疲れているだけ」「寝ればよくなるかも」「歳のせいかな」とついつい考えてしまい、何の対策もしないままやり過ごしてしまう方も多いのではないでしょうか?

眼は非常に繊細な器官であり、なおかつ剥き出しの臓器です。けれども、脳や心臓などといった命に関わる器官ではないためか、みなさんの関心が向きにくい器官でもあります。そのためか眼に関する正確な情報があまり知られていないのが現状です。

眼の疾患の多くは「早期発見・早期治療」ができるかできないかによって、その後の病気の進行や治癒に大きく影響します。発見が遅くなればなるほど、完璧に元の状態に戻すことが非常に難しくなる疾患もあります。

そこで重要になってくるのが「セルフアイケア習慣」です。快適な「視生活」をおくるためには日々の生活の中でできるだけ小さなケアを積み重ね、自分の眼の変化にできるだけはやく気がつくことが大切になります。

そしてもうひとつ大切になってくるのが「いつ眼科を受診すべきか」ということを「見極めるタイミング」です。40代以降になってくると、身体の老化現象のひとつとして「老眼」が始まりますが、何か異変を感じても「老眼が進んだかな?」「老化現象かな?」とスルーしてしまう方が多いような気がします。

セルフアイケア習慣

セルフアイケアをしている際に「何かいつもと見え方が違うな」「右と左で見え方が違う」「見えにくい部分がある」などといった、自分の眼の異常にすぐに気がつく感覚⋯。それこそがご自身の眼の健康を保つカギになります。

このコラムでは、自宅で手軽にできる眼のケア方法だけでなく、どんな時が眼科受診のタイミングなのかということもお伝えしていきます。
毎日の暮らしのなかで、ご自分の眼を守るヒントになれば嬉しいです。

セルフアイケア習慣とは?

眼の健康を守るためには、特別な器具は必要ありません。生活の中に少しだけ「自分の眼をいたわる習慣」を取り入れることが大切です。
今から、自宅や職場で簡単にできる「セルフアイケア」のポイントをいくつかご紹介します。

1. 眼に優しい環境作り
まず基本になるのが、眼に優しい生活環境を整えることです。特にスマホやパソコンなどのデジタルデバイスを長時間使用するという方は以下の点に注意してみましょう。

・ 見たい距離にあわせたメガネやコンタクトレンズを使用していますか?

見たい距離にあわせたメガネやコンタクトレンズを使用していますか?

遠くがはっきり見えるメガネやコンタクトレンズで、スマホやパソコンを長時間見ていませんか?遠くがよく見えるようにあわせたメガネで近くのものを長時間見続けることは、眼にとって負担が大きく、疲れ眼の原因になります。眼の労働環境という点でいえば、最悪です。

見たい物の距離に合わせてメガネを使い分けたり、コンタクトレンズの上から手元用のメガネをかけたりすることで、眼の労働環境も改善され眼の負担も軽減します。遠近両用メガネや遠近両用コンタクトレンズなどで対応してもよいと思います。

・ デジタルデバイスの明るさと室内の照明の明るさは適度ですか?
暗い環境でパソコン作業をする、逆に明るすぎる画面のスマホを長時間見たりしていませんか?どちらも眼に強い刺激がある感じがして⋯なんとなく眼に悪そうではありますよね。実際、その明るさ環境は眼に大きな負担を与えています。

デジタルデバイスの明るさと室内の照明の明るさは適度ですか?

では眼に優しい照明環境は具体的にどれくらいの明るさなのでしょうか?

JIS(日本工業規格)では、建物をはじめ、各部屋、各種作業に応じた明るさの基準値を示しています。
寝室は10~30lx(ルクス)
リビングは30~75lx(ルクス)
勉強や読書をするには500~1000lx(ルクス)が適しているとされています。
VDT作業(デジタルデバイス作業)は500lx(ルクス)程度が推奨されています。

ちなみに⋯眼科の視力検査をする場所の明るさは500l(ルクス)程度の明るさが推奨されています。暗すぎず明るすぎず⋯といった環境です。

このルクスを計測できれば、自宅や職場の環境を眼に優しい環境に変えることができるかもしれませんね。

実はスマホで部屋の明るさを測定できる「Light Meter」という無料アプリがあります。 他にも低価格で購入できる「照度計」もいろいろと販売されていますので、眼が疲れやすいと感じている方は、ぜひ一度自宅や職場の明るさやデジタルデバイスの明るさをチェックして、ご自分にあう明るさに調整してみてはいかがでしょうか?

・ パソコンやスマホと眼の距離が近くなっていませんか?
スマホやタブレットなどを眼に近づけて見ていませんか?
近づけば近づくほど、眼に負担がかかります。集中してくるとついつい顔を近づけて見てしまいますよね。スマホやタブレットであれば30cm以上、パソコンであれば40cm以上離して見ると眼に負担が少ないです。できるだけ、見ようとする物から離れてみるようにしましょう。(近視の度数が強い方や弱視の方など近づかないと見えない方もいらっしゃいます。)

パソコンやスマホと眼の距離が近くなっていませんか?

2. 適度な眼の休憩と眼の筋肉のリセット
集中して作業をしている時やスマホを見たりしている時のご自分の顔を見たことがありますか?動画で撮影したりして見てみると、ほとんど瞬きをしていないことがわかると思います。普段の1分間の瞬きの回数を20~30回程度とすると、集中している時は1分間に3~6回程度まで減ると言われています。

つまり瞬きが3分の1から4分の1に減ってしまうのです。瞬きが減ることで、眼が燥しやすくなり疲れ眼やかすみ眼の原因になることも。
最低でも1時間に1度、1分程度眼を閉じて、意識的に瞬きをするなどの「瞬き対策」をおすすめします。

適度な眼の休憩と眼の筋肉のリセット

時間があるようであれば、ホットアイマスクや温めたタオルなどで眼を温めることも効果的です。温めることで眼の周囲の血行をよくするだけでなく、マイボーム腺から油脂がでてきます。その油脂が、涙を蒸発しにくい質のいい涙に変化させます。質のよい涙が眼を潤すことで視界がよりクリアになります。(眼が充血しているときは、充血がひどくなるので温めるのはお勧めしません。)

長時間にわたり手元を見続けることは、眼にはかなりの負担になります。その反対に、遠くのものを見ることは、実は眼にとって1番のリラックスタイムになります。20分から30分に一度、目線を遠く(5m以上先)に移動して、眼をリラックスさせてあげましょう。

3. 栄養と睡眠~内側から目を整える~
バランスの良い食事や質のよい睡眠も、大切なセルフアイケアのひとつです。眼は身体の中の他の臓器と同じで、血管の流れが悪くなることで重篤な眼の疾患に繋がることがあります。糖尿病網膜症が代表的な疾患ですが、全身の病気が眼の健康状態に大きな影響を与えることも多くあります。

栄養と睡眠~内側から目を整える~

日頃から暴飲暴食を避け、適度な運動、ストレスをためない、しっかりと睡眠をとるといった全身の健康状態を維持することは、眼の健康状態を維持するためにも大切です。

毎日1分!セルフアイチェックのすすめ
「いつもと同じように見えているか?」を毎日確認することも非常に重要です。

毎日同じものを見ること(時計やカレンダーなど)でちょっとした見え方の変化がわかります。

毎日1分!セルフアイチェックのすすめ

その際のポイントとして

  • ・ 両眼で見たときに視界のなかに歪みや暗い部分がないか?
  • ・ 急にかすんだり見えにくくなったりしていないか?
  • ・ 片眼ずつにして、見え方に左右差はないか?
  • ・ 飛蚊症(黒い虫のようなものが飛ぶ)が急に増えたり、大きくなっていないか?

ちょっとした違和感でも、日を追うごとに悪化しているようなら眼科を受診することをおすすめします。
特に40代以降の方は、加齢などで眼の疾患が増えてくる年齢層なので、この「異変に気がつく力」が、ご自分の眼を守る重要な武器になります。

異変に気がつく力

セルフアイケアで気がつく眼科受診のタイミング

セルフアイケアを続けていくことで、ご自分の眼の状況の変化に敏感になっていきます。
ご自分の眼の見え方は、ご自身にしかわかりません。つまり、その変化や違和感も自分で気がつかないと誰も気がつかないのです。

ではどんな症状がでたら、すぐに眼科に行くべきサインなのでしょうか?

1. セルフアイケアでは改善しない「要注意な症状」
以下のような症状がでた場合は、早めに眼科を受診しましょう!

・ 急激な視力低下
片眼だけが急に見えにくくなる、急に真っ白になる、急に文字がかすんで読めない

・ 視野の一部が欠ける・見えにくい
視野(見える範囲)の一部がぼやけて見える、常に同じ場所に見えにくい部分がある

セルフアイケアでは改善しない「要注意な症状」

・ 急な眼の痛み、充血、まぶしさ
眼の痛みだけでなく、頭痛や吐き気といった症状もある場合はすぐに眼科に行ってください

・ 左右の見え方に差がある、歪んで見える
片方だけ歪んで見える、色の見え方が違う

・ 飛蚊症が急に増えたり大きくなったりした
加齢による生理的な変化でもある飛蚊症ですが、その数が急に増えたり大きくなったりした場合、はやめに眼科を受診してください

2. 様子をみてもいいけれど注意が必要な症状
セルフアイケアや生活習慣の見直しで、改善することもある比較的軽度の症状のものもあります。

  • ・ 眼の乾きやゴロゴロ感
  • ・ 夕方になると見えにくくなる
  • ・ 眼が重たい
  • ・ 眼の奥の鈍痛

こうした症状が数日以内に改善する場合は、様子をみてもよいのですが、何度も繰り返したり余計に悪くなったり、1週間以上続くなどの場合は、眼科受診をおすすめします。

様子をみてもいいけれど注意が必要な症状

3. 加齢による眼の変化と緑内障
40代以降になると感じやすい眼の変化ですが、その中でも特に気をつけて頂きたいのが「緑内障」です。緑内障は初期の段階で発見することができれば、その後の進行を防ぐことができる可能性が高い眼の疾患です。

緑内障の初期段階では自覚症状がほとんどなく、視野に見えにくい部分ができていきます。
日本人の中途失明原因ダントツ1位の緑内障ですが、早期に発見され点眼治療などを始めることで失明を防ぐことができます。

緑内障の視野変化

ネットなどで「緑内障」と検索すると不安を煽るような言葉がたくさんでてきます。緑内障は、初期の段階から点眼を始め、眼科に定期的に通院することでほとんどの方は進行を抑えることができるのですが⋯自己判断で点眼を中止すること、眼科の通院を自己判断で辞めてしまうことで視野の欠損が増えてしまい失明にいたる方も多いのが現状です。

「緑内障」の視野異常が起こる過程では、特に痛みはありません。しかも片眼の視野が欠けていっても、もう片方の眼がそれを補ってしまいます。両眼で見た時には片方の視野が欠けていることにほとんど気がつきません。
だからこそ、片眼ずつにして見え方をチェックするセルフアイケアは大切なのです。

加齢による眼の変化と緑内障

「なんとなく見えにくいけれど老眼かな?」と放置したりせず、セルフアイケアでご自分の眼の変化に気がついたときこそ受診のチャンスです。

セルフアイケアと定期的な眼科受診が、あなたの眼の健康維持にとって重要なポイントになります。

おわりに

私たちは生活に必要な情報の大半を「視覚」から得ています。眼は私たちの生活を支えてくれる大切な器官であり、重要な情報源です。けれども、その大切さをついつい忘れてしまい見えることが当たり前になってしまっています。

今回ご紹介したセルフアイケア習慣は、どれも特別な道具や技術が必要なものではありません。「眼を休ませる」「食生活に少し気をつける」「毎日の見え方をチェックする」など、小さなことの積み重ねが、あなたの眼の健康を支える土台になります。

おわりに

自分の眼の状況は、まわりの人にはわかりにくく、自分にしかわかりません。
私は視能訓練士として眼科で多くの患者さんの検査をしています。見た目にはほとんどわからないのですが、検査結果を見てこんなに視野が欠けている方だったのか!とびっくりすることが多くあります。

初めて来られた患者さんからお話を聞くときも、患者さんご自身は片眼が見えにくいとは一言も言っていなかったのに、実際に検査をしてみたら片眼がほとんど見えていなかった⋯というケースも多くあります。 ほとんどの方が「両眼で見ていたらよく見えていたから気がつかなかった⋯」と仰います。

私は現在、眼科で働くかたわらアイケアアドバイザー協会の代表として様々な場所でセルフアイケアの大切さについてお話しています。
ちょっとした違和感にいかにはやく気がつくことができるか?それが自分の眼を守るための最高の防衛策です。

アイケアアドバイザー協会の代表

気がついたら片眼が見えていなかった⋯いう患者さんが1人でも減ってほしいという想いで日々活動しています。

あなたの大切な眼が、これからも快適で健やかに過ごせますように!
ぜひセルフアイケアを毎日の生活にとりいれて頂けたら嬉しいです。

(視能訓練士 原りえ)