眼の健康を守るお手伝い!「視能訓練士」の仕事についてわかりやすくお伝えします

皆さんは眼科に行ったことはありますか?
視力検査や視野検査など、眼科には様々な検査機器がありますが、そんな特殊な機器を使って検査を行なっている眼科スタッフがいることにお気づきでしょうか?
それが【視能訓練士】(しのうくんれんし)です。

私は夫が「緑内障」(りょくないしょう)という眼の病気だったことがきっかけで視能訓練士になりました。日本人の失明原因ダントツ1位の緑内障。結婚して20年以上になりますが、夫は失明することもなく元気に働いています。
現在は、眼科で働きながら眼の大切さを多くの方たちに知って頂くべく活動しています。

視能訓練士(しのうくんれんし)とは?

視能訓練士(Certified Orthoptists)は、眼科領域に関する専門的な知識をもった医療従事者のことです。日本では1971年に視能訓練士法が制定され、現在では全国で約2万人程度が視能訓練士の国家資格を取得しています。人間は情報の約8割を「視覚」から得ています。デジタルが普及した現代の生活においては、以前にも増して子どもから大人まで「視覚」からの情報に影響を受けているのではないでしょうか。

高齢化にともない、健康で活き活きとした老後を過ごしたい!と考える人も増加していますが、「視覚」の健康は快適な老後生活には欠かせない状態だともいえます。デジタル化と高齢化が急速にすすむ現在、将来の活躍が期待されている医療職です。

視能訓練士(しのうくんれんし)とは?

視能訓練士は、乳幼児から高齢者まで幅広い世代の方々の大切な眼の健康を守るお手伝いをしています。総合病院の眼科外来や眼科クリニックなどにおいて、眼科医や看護師と協力しながら、患者さんの病気の診断に必要な検査を行なうだけでなく、お子さんの弱視や斜視などの視力向上のための訓練、そして見えにくい方たち(ロービジョン)へのケアなども行なっています。

わかりやすくまとめると
「皆さんの眼の健康を守る国家資格をもったスペシャリスト」
それが視能訓練士です。

では視能訓練士の具体的な業務内容にはどんなものがあるのでしょうか?

視能訓練士の業務内容には大きく4つの分野があります

1. 眼科一般検査

眼科一般検査

視力検査、視野検査、メガネやコンタクトレンズの検査、眼の病気に関する検査など診断に必要な検査を行ない、そのデータ元に眼科医が診察し治療方針を決定します。
眼科には多くの検査機器がありますが、視力検査や視野検査のように患者さんの反応によっては正しい結果がだせない検査もあります。短い時間で患者さんに検査の方法をしっかりと理解してもらい、正確な検査結果を導き出すことが視能訓練士の腕の見せ所です。

眼科一般検査

2. 訓練
産まれたばかりの赤ちゃんはほとんど眼が見えていません。成長とともに周囲にある様々な物を自身の2つの眼で見ることで【見る力】が育っていきます。10歳頃までに眼の機能はほとんど完成してしまうのですが、それまでの間になんらかの理由で「見ること」が妨げられると、【見る力】が育たず「弱視」になってしまいます。「見ること」を妨げているなんらかの原因を取り除き【見る力】の向上のための訓練を行なうのも視能訓練士の仕事です。

子どもの視覚の感受性期間とは?

【見る力】とは?・・・「視力」だけでなく「視野」「光覚」「両眼視」などの物を見るために必要な眼の機能のこと

「弱視」とは?・・・矯正のメガネをかけても視力が1.0でない状況のこと

3. 検診
病院で検査をするだけでなく、保健所や学校、職場などで集団検診を行なうこともあります。眼の病気の予防は「早期発見・早期治療」が大切なのですが、自分ではなかなか気が付きにくい眼の病気も多いので定期的な眼の検診はとても重要です。
3歳児検診などで【見る力】の発達を妨げることに繋がる「斜視」や「遠視」を早期に発見することは将来的に弱視になるのを防ぐことにもなります。

検診

4. ロービジョンケア
治療や訓練では回復が困難な状況になった場合、残っている視力や視野を最大限に活かすことができる補助具の情報などを患者さんにお伝えします。それぞれの患者さんがより快適な日常生活がおくれるように、拡大鏡などの補助具の選定と使用訓練などを行ないます。必要であれば地域の福祉と連携し、就労や生活においての情報提供も行ないます。

見えにくい方も遊べるオセロ

ロービジョンケア

視能訓練士になるには?

全国にある視能訓練士養成校(大学9校、短期大学1校、専門学校17校)を卒業し、国家資格に合格することが必須です。毎年700~800名ほどの視能訓練士が合格しており、そのうち約9割が女性です。 ほとんどの視能訓練士は眼科で働いていますが、仕事内容や勤務条件などが結婚や出産を経ても働きやすい環境であることも女性が多い理由のひとつかもしれません。

視能訓練士の知識を活かす職場

日本全国の総合病院眼科や眼科クリニックだけでなく、眼鏡店を開業する視能訓練士も増えています。子どもの訓練に重要な役割をはたすメガネは、一般的な眼鏡店での取扱が難しい場合もあり、視能訓練士のいる眼鏡店は訓練しているお子さんをおもちの親御さんの強い味方になっています。他にも医療機器メーカーに就職する、コンタクトレンズショップで働くなど、眼の知識を活かして視能訓練士が様々な場所で活動しています。

視能訓練士の将来性

視能訓練士の将来性

スマホやパソコンの普及により20年前にくらべて眼を酷使している人が大幅に増加しています。10代から20代前半の方たちは、生まれた時からデジタルデバイスが存在し、学校現場や家庭などでそれを使いこなしています。スマホの普及で日常の生活は非常に便利になりましたが、一方でスマホが眼に与える影響力も非常に大きいものになっています。

スマホの小さな画面を長時間見続けることで眼が内側によってしまう「スマホ内斜視」やスマホの画面がぼやけて見える「スマホ老眼」など、これまでにはなかった眼の疾患が新たに誕生しています。

今後は高齢者の数も増えることから、白内障や緑内障、黄斑変性などで眼の疾患になる方が増えていくことも予想されます。
特に緑内障は、日本人の中途失明原因ダントツ1位です。
日本では40歳以降の20人にひとり(約5%)が緑内障であるといわれていますが、その中で治療を受けている方は約1割です。9割の方はご自分が緑内障であることに気が付いていません。緑内障は点眼と眼科での定期的な通院によって見えにくくなることを防ぐことができます。緑内障の検査の中でも特に重要な検査のひとつである「視野検査」は視能訓練士が行なう検査です。

医療現場のテクノロジーの発展はめまぐるしいものがありますが、眼科領域においてもその進化は著しいものがあります。これまでは検査することが難しかったものが、医療機器の進化により簡単にできるようになってきました。しかし「見え方」というのはひとそれぞれ感覚が違うため、自分の眼の見え方や症状を相手に伝えることはとても難しいです。眼科検査の中には患者さんとコミュニケーションをとりながら見え方を探っていくものもたくさんあり、それが診断に繋がることも多くあります。それがAIなどには難しいところでもあります。

これからの眼科では正確な診断には視能訓練士の知識と経験、そしてコミュニケーション力がますます重要になってくるのではないでしょうか。

快適な生活には「視覚」の健康は必要不可欠です。眼の健康を守る「視能訓練士」のニーズは今後より高くなっていくと考えられます。

日本人の中途失明原因1位の緑内障について

ここで簡単に緑内障について、なぜ中途失明原因1位になっているのかをお伝えしたいと思います。

緑内障のメカニズム

眼には「眼圧」(がんあつ)といって眼の硬さを表す値があります。眼圧が高くなることで眼の奥にある視神経が圧迫され傷んでいきます。傷んだ視神経の部分は見えにくくなるため、痛みもないまま少しずつ視野(見える範囲)に見えにくい部分ができはじめます。

そのまま何もせずに放っておくと見えにくい部分が広くなっていき最終的には失明にいたります。片眼だけに見えにくい部分ができる方も多いのですが、普段は両眼で見ているので片眼の異常になかなか気が付かない方も多いです。

「なんとなく眼が疲れる」「メヤニがついているような気がする」などという訴えで眼科に来られる方の中には、片眼がほとんど見えなくなっている状況である方も少なくはありません。日頃から片眼ずつで物を見たりして、異常がないかを確認することも大切です。

緑内障の視野変化

最近では眼圧が正常値であるにも関わらず視神経が痛んでくる方も増えています。

傷んだ視神経は元には戻らないので、視野に異常がでる前に進行しないよう対策にとりかかることが重要です。毎日点眼をしたり、定期的に視野検査をしたりしてこれ以上悪くならないようにしていくのですが、その重要性が患者さんにうまく伝わっていなかったり、点眼や検査の目的が理解できなかったりすると、患者さんが眼科の通院を自己判断でやめてしまうことがあります。

先ほども述べましたが、痛みもなくひっそりと見えなくなる部分が増えていくので気が付かないまま進行してしまうことも多いのが緑内障です。

いずれにせよ、気が付いたら見えない部分が大きくなってしまっていた・・・という患者さんは眼科の現場ではかなりの頻度で目撃します。
こういったことが理由で、緑内障が日本人の失明原因1位になっているのかもしれません。

その他にも、痛みもなく進行する網膜剥離や黄斑変性なども増加しています。日頃からご自分の目に関心をもって生活することで、何かいつもと違う見え方があった際には早めに眼科に行くことで重篤化を防ぐことができる可能性が高いです。

視能訓練士の現状

将来的に確実に需要があると考えられる医療系国家資格「視能訓練士」なのですが、その反面で眼科関係者以外の場所での知名度はほとんどありません。人気がない医療系国家資格のひとつでもあります。特に知名度のなさは大問題で、同じくコメディカルの国家資格である「理学療法士」「作業療法士」「言語聴覚士」に比べてほとんど知られていません。

日本視能訓練士協会の調べによりますと、ここ数年にわたり視能訓練士養成校への入学者が減少しているようです。養成校への入学者が減るということは視能訓練士資格者が減っていくことに繋がります。

視能訓練士の働く場所が眼科関係と限られていることや、眼科医のもとで働く、いわゆる縁の下の力持ち的な役割を担っていることも、知名度や人気がない理由のひとつかもしれません。

いずれにしても、より多くの方々の眼の健康を守るためにはたくさんの視能訓練士の知識や知恵が必要です。
全国の視能訓練士が日本視能訓練士協会のもと、より一層の知名度アップに繋がる活動を続けていくことが急務です。

私たち現場で働く視能訓練士たちも、様々な場所で視能訓練士の知識や経験を発信していく必要があると思います。

ぜひこの記事で、視能訓練士に少しでも興味をもって頂けたら嬉しいです。

新しい視能訓練士の働き方を求めて

私は現在、眼科で働きながら個人事業主として活動しています。小さな頃から視能訓練士になりたかったわけではなく、夫が緑内障だったことがきっかけで視能訓練士になりました。
眼科は患者さんの数も多く、休む暇もほとんどない状況で検査を行なうこともよくあります。けれども、私は視能訓練士の仕事が大好きです。検査をしながらの患者さんとのコミュニケーションや感謝のお言葉に、日々心を癒やされています。

しかし、多くの場面において患者さんの認識と眼科の認識に大きく違いがあるなと感じています。例えば、視力検査について多くの患者さんが気にしているのは「裸眼視力」です。けれども、眼科で重要視しているのはレンズをかけた視力である「矯正視力」です。些細な誤解なのですが、それが双方の誤解の元になる可能性もあります。

それだけでなく、患者さんとお話をしていると「こんなことで眼科に行っていいのか迷う」「どんな時にすぐに眼科に行ったほうがいいのか?」「目に関する情報がネットなどでいろいろありすぎてどの情報を信じてよいのかわからない」といった声をよく聞きます。

どちらの状況も、眼科の情報を気軽に知る場所がほとんどない、専門家である眼科医や視能訓練士がそういった情報を発信することが少ない・・・などが原因なのではないかと思っています。視能訓練士の知名度が低い理由も発信の少なさがひとつの原因ということもご理解頂けるかもしれません。

そこで、そのような状況を打破したいと考え、数年前に視能訓練士が眼についてわかりやすくお話する「アイケアルーム」を立ちあげました。細々とですが公民館や学校現場、介護研修センターなどで眼についてお話しています。

新しい視能訓練士の働き方を求めて

そして昨年、私の考えに賛同してくれた数名の方とともに「アイケアアドバイザー協会」を立ちあげ、より多くの人たちへ眼の情報が届くように活動中です。

私の行動は微々たるものですが、それによって少しでも眼のお悩みを抱える方が減り、そして視能訓練士になりたい!という人たちが増えてくれれば嬉しいです。
これからも多くのかたの眼の健康を守るために活動していきたいと思っています。
最後まで読んで頂きありがとうございました

(視能訓練士 原りえ)