肝機能障害といわれたら?チェックしてほしい検査項目や肝機能障害の原因について解説
健康診断や人間ドックで「肝機能障害」を指摘されたことはありませんか?血液検査で肝機能障害を指摘される方は年々増加しており、生活習慣の改善や、自覚症状が出にくい肝炎や肝臓がんなどの早期発見に役立っています。
この記事では、肝機能障害といわれたときに確認していただきたい血液検査の項目と、肝機能障害の原因、肝機能改善のためにご自分でできることについて解説します。
肝機能障害ってなに?
肝機能障害とは、何らかの原因で肝臓の機能が障害された状態です。肝機能障害について理解するために、まず肝臓の仕組みや働きについてご説明しますね。
肝臓は、お腹の右上部分にあって、1〜1.5kgほどの重さがある大きな臓器です。人間の臓器のなかでは唯一、手術などによって切り取られても再生できる臓器でもあります。肝臓移植が必要な人に対して、生きている人をドナーにして肝臓移植ができるのは、肝臓に再生能力があるからです。
肝臓には、主に以下のような働きがあります。
栄養素の代謝や貯蔵をする
肝臓には、炭水化物や脂質、タンパク質を代謝する役割があります。代謝とは、体の機能を維持するために必要な物質を、利用しやすいように分解したり、合成したりする働きです。
私たちが食事から摂取する栄養素は、そのままの状態ではほとんど体内で利用できません。肝臓は、摂取した栄養素を体が吸収したり、利用したりできる物質に作り変える働きがあるのです。
また、肝臓はビタミンや鉄などを貯蔵して、必要なときに血中に送り出す働きもしています。
アルコールや薬などを解毒して分解する
肝臓は、体にとって有害な物質を分解して、害のないものに変える働きがあります。薬やアルコール、タバコに含まれるニコチンなどは、肝臓で解毒・分解されて、体の外に排泄されているのです。
胆汁の合成と分泌をする
胆汁とは、脂肪を消化するために必要な消化液です。胆汁は、コレステロールなどを原料にして肝臓で作られたあと、胆のうに貯蔵されます。
免疫機能をサポートする
肝臓は、免疫機能にも関わっています。「クッパー細胞」や「ピット細胞」といった免疫機能に関わる細胞は、肝臓にしかないものです。
体に異物が入ってきたときには、これらの免疫細胞が異物を食べたりウイルスに感染した細胞を処理したりして、免疫機能をサポートしているのです。
どの検査項目を見れば肝機能障害だとわかるの?
肝臓が正常に働いているかどうかを知るためには、血液検査が役に立ちます。肝臓の機能を見る血液検査項目には、以下のようなものがあります。
AST(GOT)、ALT(GPT)
肝細胞で作られている酵素で、病気などで肝細胞が破壊されると血液中に多く流れ出すため、数値が高くなります。健康な人では、ALT(GOT)よりもAST(GPT)が高くなります。
・基準値:AST(GOT)7〜38IU/L ALT(GPT)4〜44IU/L
γ-GTP
胆管で作られる酵素で、肝臓や胆のう周辺で消化液が滞っている部分があると、血液中に流れ出てきます。
また、普段からお酒を飲む人は、γ-GTPの数値が高くなる傾向があります。
・基準値:男性80IU/L以下 女性30IU/L以下
LDH(乳酸脱水素酵素)
ブドウ糖をエネルギーに変えるときに働く酵素です。肝臓のほか、心臓や腎臓などにも含まれており、これらの臓器に異常があると血液中に流れ出てきます。そのため、肝臓の病気で肝細胞が壊されたときにも、数値が高くなります。
・基準値:120〜240U/L
総たんぱく、アルブミン
アルブミンはたんぱく質の一種で、肝臓でのみ作られています。体内のたんぱく質の量を示す総たんぱくのうち、7割ほどがアルブミンです。
肝臓の機能が悪くなると、アルブミンを作る能力も低下するため、血液中のアルブミンや総たんぱくの数値も低下します。
・基準値:総たんぱく:6.7〜8.3g/dl アルブミン:3.8〜5.3g/d
総コレステロール
コレステロールの9割は肝臓で作られているため、肝臓の機能が低下するとコレステロールを作る能力が低下します。それに伴い、血液中のコレステロールの数値も低下するのです。
・基準値:120〜220mg/d
ChE(コリンエステラーゼ)
神経伝達に必要なアセチルコリンという物質などを分解する酵素です。コリンエステラーゼは肝臓で作られているため、肝臓の機能が低下すると、血液中のコリンエステラーゼの量も減少するのです。
・基準値:100~240IU/L
A/G比(アルブミン/グロブリン比)
血液中のアルブミンとグロブリンの比率をあらわす検査項目です。どちらもたんぱく質の一種ですが、肝臓の機能が低下すると、アルブミンの量よりもグロブリンの量が増えます。
・基準値:1.2〜2.0
ALP(アルカリフォスファターゼ)
リン酸化合物という物質を分解する酵素で、肝臓や腎臓などで作られます。不要になったら肝臓で処理されて、胆汁へ流れ出て排泄されます。
肝臓の機能が低下したり、胆汁の通り道である胆管がふさがったりすると、胆汁に含まれるALPが血液中に流れ込むため数値が高くなります。
・基準値:50〜350IU/m
総ビリルビン
ビリルビンとは、赤血球に含まれている色素です。古くなって壊されると肝臓で処理され、これを「間接ビリルビン」といいます。肝臓で処理された間接ビリルビンは、胆汁に入って「直接ビリルビン」に変わり、胆道を通って排泄されるのです。
「総ビリルビン」は、間接ビリルビンと直接ビリルビンを合わせた数値です。肝臓の機能が低下すると、間接ビリルビンを処理できなくなるため、血液中に大量の間接ビリルビンが残って、総ビリルビンの数値が高くなります。
・基準値:0.2〜1.2mg/d
血小板
肝臓の機能が障害されて血流が悪くなると、肝臓の左上あたりに位置する脾臓に血液がたまりやすくなります。脾臓は古くなった血液を処理する場所です。そのため、脾臓に血液がたまると、より多くの血液が処理されることになります。
血小板は血液中に含まれる成分の一つなので、脾臓で処理される血液の量が増えると、血液中の血小板の量が減ってしまうのです。
ただし、血小板が減少する原因はほかにもあるため、血小板の数値が低いからといって、必ずしも肝臓の病気であるとは限りません。
・基準値:10〜40万/μl
肝炎ウイルスマーカー
肝臓で増殖して肝炎を起こす「肝炎ウイルス」。原因となるウイルスの種類によって、A型からE型までの5種類に分類されます。
どのウイルスによる肝炎なのかを調べるためには、肝炎ウイルスマーカーが役に立ちます。
悪化すると肝硬変や肝臓がんにつながる恐れのある、B型とC型の肝炎ウイルスに関しては、健康診断のオプション検査や人間ドックなどで検査することがあるでしょう。
・基準値:
・HBs抗原(B型肝炎ウイルスに感染しているかどうかの指標)
・HBs抗体(B型肝炎ウイルスに対する抵抗力があるかどうかの指標)
・HCV抗体(C型肝炎ウイルスに感染したことがあるかどうか、現在感染しているかを示す指標)
これら3つの検査項目は、すべてにおいて陰性(ー)が基準値です。ただし、HBVワクチンを接種した人は、HBs抗体が陽性になることがあります。
腫瘍マーカーAFP、PIVKA-Ⅱ
腫瘍マーカーとは、がんをはじめとする悪性腫瘍によって、血液中に増加する物質の量を調べるものです。増加する物質の量は、病気の種類によって異なるため、悪性腫瘍を見つけるときに役立ちます。
肝臓がんなどの診断に役立つのは、「AFP(アルファ・フェトプロテイン)」や「PIVKA-Ⅱ(ピブカツー)」といった腫瘍マーカーです。
AFPは、健康な人の血液にはほとんど存在しませんが、細胞ががん化すると多く作られるようになります。肝臓がんの中でも、肝細胞がんや原発性肝がんの人で高くなる傾向があります。
PIVKA-Ⅱも、健康な人の血液中には存在しない物質です。しかし、肝臓の機能に障害が起こると血液中にあらわれるようになるため、肝細胞がんの診断などに使われています。
ただし、PIVKA-ⅡはビタミンKが不足している場合や、血液をサラサラにするワーファリンという薬を飲んでいる人も高くなる傾向にあります。
・基準値:AFP 20ng/ml以下(IRIMA法の場合) 陰性(RPHA法の場合)
PIVKA-Ⅱ 1mg/ml未満(ラテックス凝集法の場合)40mAU/ml未満(ECLIA法の場合)
これらの検査項目が基準値を外れていたからといって、必ずしも肝機能障害を起こしているわけではありません。しかし、再検査や精密検査を勧められた場合には、基準値を外れている原因を調べるためにも、必ず検査を受けましょう。
肝機能障害を指摘されたらどうすればいいの?
肝機能の障害は、生活習慣や肝臓の病気など、さまざまな理由で起こります。では、肝機能障害の原因には、どのようなものがあるのでしょうか。
肥満
肥満の人、とくに糖尿病や高血圧、高脂血症といった生活習慣病のある人は、肝機能障害を起こしやすくなります。
さらに、肝臓の周りに大量の脂肪がたまった「脂肪肝」という状態になると、非アルコール性脂肪肝炎を起こすことがあります。
非アルコール性脂肪肝炎は、近年増加傾向にあり、治療しないでおくと肝硬変や肝臓がんの原因になるため注意が必要です。
薬やサプリメントなどの健康食品
薬が原因でおこる肝障害のことを「薬剤性(薬物性)肝障害」と言います。肝臓は、薬の解毒や分解を行なっているため、影響が出やすいのです。
薬剤性肝障害は、医薬品だけではなく、サプリメントなどの健康食品でも起こる可能性があります。
肝炎
肝臓が炎症を起こしている状態を「肝炎」と言います。肝炎は、以下のような原因で起こることがあります。
【 アルコールによる肝炎 】
日頃から大量に飲酒する習慣のある人は、肝機能障害を起こしやすくなります。また、女性の場合は、男性よりも少ない飲酒量で、肝臓の機能が障害されやすいと言われています。
アルコール性の肝炎は、進行すると肝硬変を起こすため、断酒して肝炎を繰り返さないようにすることが大切です。
【 ウイルスによる肝炎 】
肝炎ウイルスに感染すると、肝臓の機能が障害されて肝炎を起こします。とくに、B型肝炎では症状がひどくなる「劇症化」を起こしやすく、B型肝炎とC型肝炎は肝炎が慢性化しやすい傾向があるのです。
B型肝炎やC型肝炎は、慢性化すると肝硬変や肝臓がんの原因にもなるため、早めに治療を始める必要があります。
【 自己免疫性肝炎 】
細菌やウイルスのような病原体と同じように、自分の細胞を攻撃してしまう「自己免疫性疾患」によって起こる肝炎です。中年期以降の女性に起こることが多く、関節リウマチやシェーグレン症候群などの自己免疫性疾患と合併することがあります。
肝硬変
肝硬変とは、肝臓の炎症が長く続いたことによって、正常な肝細胞が減ってしまった状態です。初期には、残った正常な細胞が肝臓の機能を保とうとするため、症状が出にくいという特徴があります。
残った肝細胞で肝臓の機能が保てなくなった場合には、肝臓の機能が維持できなくなる「肝不全」という状態になったり、肝臓がんに進行したりすることもあります。
肝臓がん
肝臓がんには、肝臓で発生したがん(原発性肝がん)と、別の場所で発生したがんの転移による肝臓がん(転移性肝がん)の2種類があります。
原発性肝がんのほとんどは、肝細胞がんです。肝細胞がんは、肝炎ウイルスに長く感染していた場合や、肝硬変が進行した場合などに発症しやすくなります。
最近では、メタボリックシンドロームによる非アルコール性脂肪肝炎によって、肝細胞がんになる人も増加しています。
肝機能障害を改善するために自分でできることはある?
肝機能障害がきっかけで病気が見つかった場合には、すぐに専門医による治療を受ける必要があります。では、肝機能障害の原因が病気ではなかった場合、自分で肝機能を改善することはできるのでしょうか。
これまでお伝えしてきたように、肝機能障害の原因には、肥満やアルコール、薬剤などによるものがあります。そのため、生活習慣の見直しによって、肝機能を改善する効果が期待できるでしょう。
健康な肝臓を維持するためにできることとして、以下のようなものがあります。
適正体重を維持して肥満を予防・改善する
大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)をバランスよく摂取して、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回らないようにしましょう。
とくに、糖質や脂質の摂りすぎは、肥満とともに脂肪肝の原因にもなるため注意しましょう。
食生活を整えながら、運動習慣もつけられるとより良いですね。
アルコールの摂取量を減らして休肝日を作る
アルコールの摂りすぎも、脂肪肝の原因になります。飲酒しない日を定期的につくったり、1日に飲むお酒の量を控えめにしてみましょう。
目安は、1日にビールなら中びん1本、日本酒なら1合程度までです。
禁煙する
タバコに含まれているニコチンは、肝臓の血流によくない影響を与えることがわかっています。肝臓のストレスを減らすためにも、禁煙を心がけましょう。
健康食品の摂りすぎに注意
薬剤性肝障害の原因にもなり得る、サプリメントなどの健康食品は、摂りすぎに注意しましょう。毎日摂取するものなので、原料の質にも気をつけたいですね。
健康食品の摂取によって体調不良を起こした場合には、すぐに摂取を中止して、医療機関を受診しましょう。
肝機能障害を指摘されたらまずは医師に相談を
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるほど、病気になっても症状が出にくい臓器です。そのため、自覚症状がなかった方でも、肝機能障害がきっかけで、大きな病気が見つかることもあります。
肝機能障害を指摘されたら、早めに受診して原因を調べることが大切です。
(よしわら かおり)
- 疾患の病態と治療を精密イラストで図解 ぜんぶわかる消化器の事典 感美堂出版
監修 中島淳 - 2014年人間ドック全国集計成績報告
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