書く習慣が生み出す健康意識 ―40代から始めるエンディングノート習慣
子育てや仕事、親の介護など、人生のさまざまな役割に追われる40代。
ふと立ち止まったとき、「自分の健康は大丈夫だろうか」「このままでいいのだろうか」という漠然とした不安を感じてはいませんか?
長年、家族や仕事を優先し、自分のことを後回しにしてきたあなたへ。
いま、心と体を「整える」ための、最も優しく、最も効果的な方法があります。
それは「エンディングノート」です。
「終活はまだ早い」と思うかもしれません。
しかし、エンディングノートの真の価値は、「人生の終わり」ではなく「よりよく生きるための設計図」である点にあります。
このコラムでは、私たちが健康習慣を「続けられない」科学的な理由と、エンディングノートという自己対話のツールが、いかにあなたの人生にポジティブな変化をもたらすのかを、深く掘り下げていきます。
このコラムが、あなたにとっての再出発のきっかけとなることを願っています。
心と体の変化を乗りこなす「自分時間」への切り替え

家族時間から「自分の人生」をデザインし直す時間へ
40代になると、子どもの成長とともに、家庭のリズムは大きく変わります。
子どもたちの自立心が育ち、親としての役割が一段落することで、これまでの「常に誰かのために動く生活」から、少しずつ「自分のための時間」が増えていきます。
これは、人生における新たなステージへの招待状です。
ですが、長年家族を優先してきた人ほど、急に訪れた“余白の時間”にふと立ち止まり、「何をすればいいか分からない」「張り合いがない」と感じてしまうのです。
心理学では、こうした心の空白の状態を「役割喪失(ロールロス)」と呼んでいます。
これは、あなたが頑張りすぎた証拠であり、誰にでも起こり得る自然な反応です。
だからこそ、この時期を「子育ての終わり」や「人生の減速」と捉えるのではなく、「自分の人生を新しくデザインし直す最高のチャンス」と考えることが大切なのです。
これまで家庭や仕事を支えてきたあなたの豊富な経験と知恵こそが、次の10年を切り開く揺るぎない力になることを、ぜひ信じてください。
ふと気づく“体の声”。老化のサインではない、再点検の時期
40代後半からは、疲れやすさや不眠、気分の波といった心身の変化を多くの方が自覚するようになります。
実際に、厚生労働省の調査でも、40〜50代女性の約7割が「体調や気力の変化を感じる」と回答しています。代表的な変化として、疲れやすさ、肩こりや頭痛、気分の波などが挙げられ、多くはホルモンバランスの変化やストレスが関係しています。
これまで、“家族の健康管理”を最優先にしてきた人ほど、つい自分の体調変化を「気のせい」と後回しにしてしまいがちです。
しかし、その不調を放置すると、将来的な生活習慣病のリスクも高まってしまいます。この段階で気づけたことは、幸運なことです。
この時期に必要なのは、ご自身の「健康の再点検」です。
体の変化に気づくことは、決して老化のサインではありません。
むしろ、「あなたの体の声を聞く力」が育ってきた証拠です。
「年齢のせい」と決めつけず、まずは定期的な検診と、生活習慣の小さな見直しを行うことから始めてみましょう。
「整える意識」で変わる。頑張らないメンテナンス術
40代は、身体機能の変化に加えて、家庭・仕事・親の介護など、ストレス要因が複合的に重なる時期です。
そのため、意識的な心身のメンテナンスが不可欠となります。
「運動を始めよう」「食生活を改善しよう」と意識するのは素晴らしいことですが、本当に重要なのは“無理なく続けられるかどうか”です。
だからこそ、急に大きな生活変化を起こすよりも、「無理なく日常に溶け込ませる」ことが成功の鍵となります。
- 小さな行動の具体例:
- ・ エレベーターではなく、意識して階段を使う
- ・ 夜のスマホ時間をたった10分減らしてみる
- ・ 寝る前に「今日あったよかったこと」を1行ノートに書く
こうした「小さな整え」の積み重ねでも、自律神経のバランスを穏やかに整える効果が期待できます。
40代の心と体の健康づくりに必要なのは、「頑張るやる気」よりも「続けるための整える意識」なのです。
ご自身のペースを取り戻すことが、次の10年を健やかに生きるための第一歩です。
なぜ「頑張らなきゃ」は続かない?脳と心に隠された理由

健康習慣が続かないのは「意志の弱さ」ではありません
「運動しなきゃ」「食生活を改善しよう」と思っても三日坊主になるのは、決してあなたの意志が弱いからではありません。
実は、人間の脳が持つ仕組みと心理的反応によって起こる、ごく“自然な現象”なのです。
人間の脳は、新しい行動や変化に対して無意識に抵抗するようにできています。
新しい習慣は脳に余分なエネルギーを使わせるため、「できるだけ現状を維持しよう」と働きかけます。
これを「ホメオスタシス(恒常性)」と呼ばれる生存本能です。
つまり、健康習慣が続かないのは、脳が「いつも通りの生活」を守ろうとしている「防衛反応」に過ぎません。
さらに、「〜しなければいけない」という強い義務感も継続を妨げます。
これは「心理的リアクタンス(反発反応)」と呼ばれ、人は自由を制限されると感じると、その制限にかえって反発したくなる心理が働くのです。
“やらなきゃ”と思うほど、無意識の抵抗が生まれてしまうのは、誰にでもある自然な心の動きなのです。
行動が変わるのは「義務」から「内的な動機」に変わるから
行動科学の観点では、人は“やるべき”義務感ではなく“やりたい”という内的な動機(インナーモチベーション)に基づいて行動を継続できるとされています。
外からの強制力ではなく、内側から湧き出る感情的な動機づけこそが、努力せずに続けられる秘訣です。
ノートを書くことは、この感情的な動機づけ、つまり「本当に心が動く理由」を見つけ出すための作業なのです。たとえば、「健康でいなければならない」という義務感ではなく、「健康でいたい理由」を明確にするだけで、日々の行動の質は劇的に変わります。
- ・ 内的な動機:「好きな服を着て颯爽と出かけたい」「家族と元気いっぱいに旅行を楽しみたい」
- ・ 変化のプロセス:ノートにこれらの未来の願いを鮮明に描くことで、それが日々の行動を自然に導く羅針盤となります。
継続の鍵は「結果」ではなく「プロセス」を評価すること
健康行動の特徴は、頑張っても結果がすぐには目に見えにくい点です。
ダイエットや筋トレのように目に見える変化があるものは続けやすい一方で、「維持」や「予防」は成果が測りづらく、モチベーション維持が難しくなりがちです。
だからこそ、このときに大切なのが、「結果」よりも「日々のプロセス」を評価する視点を持つことです。
- プロセス評価の例:
- ・ 今日はエレベーターではなく階段を使えた。
- ・ 夜更かしせず、目標時間に寝られた。
- ・ 水を意識的に摂る習慣を3日続けられた。
こうした一つひとつの小さな達成を“今日の成功”として記録すると、脳がご褒美としてポジティブな刺激を受け、「またやろう」という意欲につながります。
手帳やノートに「できたこと」を一行書くだけでも、行動の確かな「見える化」ができ、継続の大きな助けとなります。
継続とは、努力ではなく、この「積み重ねた自己肯定」の結果なのです。
“書くこと”が心と体に効く理由

筆記療法が解き明かす、自律神経を整えるメカニズム
エンディングノートを書く行為は、「筆記療法(エクスプレッシブ・ライティング)」として、心理学的に効果が証明されているセルフケアです。この療法は、感情や体験を書き出すことで、ストレスホルモンの減少、免疫機能の向上、睡眠の質の改善など、心身の回復を促すことが研究で確認されています。
私たちはストレスを感じると交感神経が優位になり体が緊張しますが、書くことによって脳が「感情を整理した」と認識し、自律神経の安定につながると考えられています。
生理的なリラックス効果:
さらに、ペンを動かすという行為は、脳の運動野を刺激して集中力と安定感を高めます。
また、ペンを持つと自然と呼吸が深くなり、リラックスを司る副交感神経が優位になるため、心拍数が落ち着き、心身が安定する効果も生まれます。
書くことは、“思考の整理”と“呼吸の安定”を同時に促す、非常にシンプルで効果的なセルフケアです。
反芻思考を断ち切り、自己理解を深めるプロセス
強い感情やストレスを抱えると、言葉にできないまま心の中で繰り返し考え続けることがあります。これを「反芻思考」と呼び、不安やうつ症状とも関連する心の悪循環です。
書くことで感情が「言語化(外在化)」されると、感情を司る脳の活動が落ち着き、理性的な部分が活発になります。 これにより、感情が客観的に整理され、冷静な思考が戻ってくるのです。
たとえば「なぜか気分が優れない」と書くだけで、頭の中で漠然としていた不快感が“対処すべき情報”として脳に処理され、気持ちが軽くなるのです。
この自己理解と「自分にはできる」という自己効力感が高まることで、健康行動の継続率が上がることが分かっています。
つまり、書くことは「行動変容」を起こす最も確かな入り口なのです。
エンディングノートは「生き方」のノート

終活の道具ではない。「人生の棚卸し」のための自己対話ノート
エンディングノートは、「老後や終活のためのもの」というイメージを持たれがちです。
しかし、その本質は「自分の人生を整理し、未来をより良く生きるための出発点にするノート」です。
近年、書店に並ぶノートの項目には、「これからの夢」「今大切にしていること」など、「生き方」や「価値観」を記すページが圧倒的に増えています。
つまり、エンディングノートは“終わりの準備”ではなく、“よりよい人生を送るための整理帳”なのです。
40代はまさに「人生の折り返し地点」であり、仕事、家庭、健康のすべてにおいて変化が見え始める大切な時期です。
このタイミングで一度ノートを開き、「人生の棚卸し」を行うことは、今後の人生を心身ともに整える上で極めて大きな意義があると言えるでしょう。
質問は「どう死ぬか」ではない。「どう生きたいか」を見つめる時間
ノートに向き合う最大の効果は、「自分が本当に何を大切にしたいのか」に気づける瞬間があることです。
延命治療といった項目に向き合うとき、私たちは「どんな最期を迎えたいか」以上に、「今、どんな生き方をすべきか」を考え始めます。
「理想の最期」を思い描くことは、「後悔のない、自分らしい今」を見つめ直すことと直結しているのです。
エンディングノートは“死”を考える道具でありながら、その本質は“生き方”を問い直し、人生を再始動させるツールとして機能します。
書くことで、以下の3つのプロセスが進みます。
- 1. 過去を認め、心を整理する
- 2. ありのままの今の自分を受け入れる
- 3. 未来を前向きに、希望を持って設計する
この3つのプロセスこそが、40代からの人生を再起動し、健康習慣を「やりたい」に変えるための揺るぎない土台となります。
そして、自分自身を整えるこの行動は、実は愛する家族を守り、安心させることにも繋がるのです。
私の場合 ー子育て中心の生活から“自分の人生”を取り戻すまで

長年、子育てを中心に生活してきた私自身も、役割が一段落したとき、「このままでいいのかな」という心の空白に直面しました。
人生の先輩方が自分を整理する姿を見て、私も終活アドバイザーの視点から、まずは自分でエンディングノートを試すことにしました。
最初に「理想の最期」として“ピンピンコロリ”、つまり自分らしく元気に最期を迎えたいと書いた瞬間、「そのためには健康と体力が必要だ」と自然に思えたのです。
そこから、これまで家族優先だった生活の中に“自分のための時間”を少しずつ取り戻していきました。
「自分のためにお金や時間を使うのは悪いこと」という価値観も、ノートを書くうちにすっかり変わったのです。
やがて「死ぬまでにやりたいことリスト」を作るようになり、夢を前倒しでどんどん叶えるようになりました。今では「今年中に叶えたいことリスト」もあり、かなり欲張っています。
書くという行為は、“過去の思い出に生きる私”から、“今の人生を前向きに楽しむ私”へと、私を変えてくれたのです。
家族とつながるノート

ノートが「対話のクッション」となり、夫婦の絆を深める
エンディングノートは、家族間の「対話のきっかけ」を生むツールでもあります。
「もしものとき」や「将来の暮らし」など、普段切り出しにくい話題でも、ノートがあれば自然に話すきっかけになります。
心理学では、ノートがクッションとなる「媒介的コミュニケーション」として、人間関係をやわらげるとされています。
夫婦にとって、ノートは「これからの暮らし」を話し合い、将来への考え方や価値観の違いを穏やかにすり合わせる機会となります。
コミュニケーション研究でも、将来への共有認識(シェアード・アンダスタンディング)を持つ夫婦ほど、信頼関係と心理的満足度が高いことが報告されています。
お互いの価値観を可視化することで、いざという時の不安や衝突を未然に減らすことにも直結します。
親の姿勢が、子どもに「自分を大切にする意識」を伝える
親がエンディングノートを書く姿を見せることは、「自分の人生を丁寧に見つめている大人の姿勢」を示すことになります。
行動心理学の「モデリング効果」では、人は身近な人の行動を模倣して学ぶとされます。
親が「自分の健康や生き方」を大切にする姿は、子どもに「自分を大事にしていい」という大切なメッセージになるのです。
こうした親の「自分を整える」行動の連鎖は、家庭全体の<健康意識を育む大きなきっかけとなるでしょう。
また、ノートに記された医療情報や連絡先は、万が一の際に家族が冷静に対応できるようにするための実用的な安心材料です。
エンディングノートは「遺すため」ではなく、「家族の今と未来をつなぐ」ノートなのです。
5つの質問で始める“自分を見つめるノート”

心と体を整えるための「5つの質問」
エンディングノートは、「何から始めればいいか分からない」と感じて当然です。
まずは、自分に問いかけることから始めましょう。
自己理解の第一歩は「質問を立てる」ことだとされます。
心と体の状態を整理し、これからの生き方を考える土台を作るための、具体的な5つの質問を紹介します。

1. 最近、体や心で「気になっていること」は?(今の自分の「現状」を把握する)
- ・ 小さな疲れ、睡眠の質、気分の波など、些細な変化を書き出すことで、自分の状態を客観的に認識できます。
2. 今の自分に「無理なくできる小さなこと」は?(「継続」につながる第一歩を見つける)
- ・ 「毎日スクワット5回」「水を意識して飲む」など、ハードルを極限まで下げることで、脳の抵抗(ホメオスタシス)を回避します。
3. 10年後、どんな「自分」でいたいですか?(「未来の理想像」を言葉にする)
- ・ 健康・家族・仕事など、鮮明な未来の姿を描くことで、日々の行動を導く「内的な動機」を生み出します。
4. 誰と、どんな「時間」を過ごしたいですか?(「生きる目的」となる人間関係を明確にする)
- ・ 人とのつながりは幸福度に直結します。家族や友人とどのように関わりたいかを考えることで、「生きる目的」が明確になります。
5. 今日、「感謝したい出来事」や「できたこと」は?(「行動の成功」と自己肯定感を高める)
- ・ 夜寝る前に一行書くだけで、日々の小さな達成感を強化し、自己肯定感(自分はできるという感覚)を育みます。
完璧な答えより「感じる」こと。書く習慣が整える未来
これらの質問に正解はありません。
大切なのは、完璧な文章ではなく、思考を整理し、感情を言葉にすることです。
「考えすぎて手が止まる」くらいなら、思いついた言葉をそのまま書く“感覚的な記録”で十分です。
感情を中心に書く方が、思考が自然に整理され、“自分軸”が必ず見えてきます。
1日の終わりに、たった5分だけでも静かに自分と向き合う習慣は、心の回復力(レジリエンス)を高めます。
日々の忙しさの中で自分を後回しにしてきたあなたほど、この数分の積み重ねが、次の10年に向けた大きな変化を生むでしょう。
書く習慣を続けるためのコツ

完璧を目指さず、「小さく始める」心構え
ノートを続ける上で最も大切なのは、「完璧を目指さない」という柔軟な心構えです。
挫折は、「毎日きれいに書かなければ」という思い込みから生まれます。
慣化には平均66日ほどかかるとされ、波があって当然です。
「書けない日があっても気にしない」「週末にまとめてもいい」と柔軟に考えましょう。
習慣を定着させるためには、「1日1行」「1分だけ」と決め、小さな成功を積み重ねましょう。
ペンを持ってノートを開くという「行動のトリガー」を引くことが、まず第一歩です。
実行意図と自己肯定感の強化
習慣化には、「実行意図(Implementation Intention)」に基づく行動のルール化が役立ちます。
「朝の歯磨きのあとに書く」など、時間や場所を固定し「習慣の型」を作ることで、意思の力に頼らず続けられます。
また、継続の秘訣は「できたこと」に注目し、ポジティブな感情を強化することです。
これは自己効力感を高める行動であり、「今日は書けた」という達成感が、次の行動へのエネルギーになります。
継続とは、努力ではなく、「積み重ねた自己肯定」の結果なのです。
紙とデジタルの利点を活用する柔軟性
紙でもデジタルでも、効果に大きな差はありません。
重要なのは、「自然に使えるスタイル」であるかどうかです。
「感情は手書き」「記録はアプリ」といった併用も全く問題ありません。
- ・ 手書き: 「思考の深まり」を促し、感覚的な落ち着きをもたらします。
- ・ デジタル: 「即時性と利便性」が強みで、いつでもどこでも記録でき、検索性にも優れています。
「書きたい気持ち」を高める仕組み(お気に入りのペンやアプリのリマインダー)を取り入れることで、ノートはあなたの「人生のペースメーカー」として活用していきましょう。
“今を生きるために”書くという選択

最終結論:書くという選択が明日の自分を変えていく
多くの人が行動に移せないのは、心がまだ納得していないからです。
エンディングノートは、その「心を動かす装置」として機能します。
「自分はどう生きたいか」を言葉にすることで、人生の主導権を再び自分の手に取り戻すための選択です。
心理学でいう自己決定感(autonomy)が高い人ほど、幸福度・健康度・ストレス耐性が高いことが証明されています。
健康でいたい理由が明確になれば、行動は“やらなきゃ”から“やりたい”に変わり、生きる意欲を再び灯すきっかけになるでしょう。
最後に
特別な道具も立派な目標も必要ありません。
ノートとペン1本
ーそれだけで、人生の見え方は変わります。
書くという静かで力強い行動は、“自分と未来の約束”であり、“心を整える最大の習慣”です。
今日、たった一行だけでも書いてみましょう。
その一歩が、これからのあなたを支える確かな始まりとなり、より豊かで健康的な次の10年を導いてくれるでしょう。
(ミコ)
