健康診断の結果の見方をわかりやすく解説|基準値・判定・異常値の意味と活かし方
健康診断や人間ドックの結果票を受け取っても、「数字の意味がわからない」「A判定だから問題ない」と、そのままにしてしまう方は少なくありません。
しかし、検査データには現在の健康状態だけでなく、将来のリスクを示す重要な情報が含まれています。
血糖値や脂質、肝機能などの数値は、生活習慣や体の変化を映す指標です。
その推移を正しく読み取ることで、早期の予防や生活改善につなげることができます。
本記事では、結果票の見方・基準値の意味・再検査の判断方法を解説します。
健診結果を「確認して終わり」にせず、「理解して活かす」ための第一歩として、正しいデータの読み方を身につけましょう。
健康診断の結果票を読むための基礎知識
健康診断や人間ドックの結果票は、一見難しそうに見えますが、
ポイントを押さえれば自分の健康状態を客観的に把握できるものです。
ここでは、結果票を読み解くための「3つの基本要素」を順に見ていきましょう。
1. 判定(A〜E)の意味を理解する
健康診断の結果に表示される「A」「B」「C」「D」「E」などの判定は、病気の診断ではなく健康リスクの段階を表しています。
| 判定 記号 | 意味 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| A | 異常なし |
特に問題なし。 年1回の定期健診を継続。 |
| B | 軽度異常 | 生活習慣を整え、次回もチェック。 |
| C | 要再検査・生活改善 | 早めの再検査が望ましい。 |
| D | 要精密検査・治療 | 医療機関で詳細検査を受ける。 |
| E | 治療中 | すでに治療・通院が必要な状態。 |
この「判定記号」は、あくまで医師が総合的に判断するための目安です。
B判定でも複数項目が重なれば注意が必要ですし、A判定でも体調変化があれば再確認が大切です。
2. 検査値は日常生活で変動する
検査値は体調・食事・睡眠など、さまざまな要因で変化します。
代表的な変動要因は
- ・ 採血時間(朝食後・空腹時の違い)
- ・ 前日の食事内容(脂質・アルコール摂取)
- ・ 睡眠不足・ストレス
- ・ 運動直後・発熱など一時的な状態
- ・ 服薬・サプリメントの影響
したがって、「1回だけの異常値」で過度に心配する必要はありません。
ただし、2回以上同じ傾向が続く場合は、早めに再検査や医師に相談をしましょう。
特に糖・脂質・肝機能・腎機能の項目は、生活習慣と密接に関わるため、継続的に確認しておくと安心です。
3. 数値の基準値よりも、「経年比較」に注目を
基準値とは、「健康な人の約95%が入る範囲」を示す統計的な値であり、必ずしも健康そのものを意味するわけではありません。
基準値内でもリスクが潜むことがあり、逆に基準値をわずかに外れていても異常とは限りません。
また、数値は年齢・性別・体格・服薬の有無などによって変動します。
重要なのは、その数値が前年・前々年と比べてどう変化しているかを確認することです。
健康診断の真の価値は、一度の結果よりも“経年変化”にあります。
たとえばLDLコレステロールや血糖値が基準範囲内でも、毎年少しずつ上昇している場合は、生活習慣の影響が進行しているサインかもしれません。
結果票を毎年保管し、同じ項目での推移を見比べましょう。
健康診断の代表的な項目を詳しく読み解く

健康診断では、血液検査をはじめ、身体計測・血圧・尿検査・心電図・X線など、複数の検査を組み合わせて全身の健康状態を確認します。
それぞれの項目には「どの臓器や機能を見ているのか」という明確な目的があり、結果を正しく理解することで、体の変化を早期に把握できます。
ここでは、健診でよく行われる代表的な検査項目について、基準値の意味や見方、異常が出たときの注意点を見ていきましょう。
身体計測(身長・体重・BMI)― 体のバランスを数値で確認
BMIは糖尿病や高血圧など生活習慣病のリスクと深く関係します。
| 項目 | 基準値 | 意味 |
|---|---|---|
| BMI | 18.5〜24.9kg/m2 | 体重の増減傾向が血糖・脂質・血圧に連動しやすい。 |
| 腹囲 |
男性:84.9cm以下 女性:89.9cm以下 |
メタボリックシンドローム判定の基準。 内臓脂肪型肥満のリスク指標であり、脂質・血糖・血圧と関連。 |
前年より体重が増加傾向にある場合、脂質や血糖の上昇も同時に起こりやすいため注意が必要です。
体重の推移を記録し、適正体重を維持する意識が大切です。
血圧測定 ― 動脈硬化や心臓病リスクの早期発見に
血圧は血管の健康を示す最も基本的な指標です。
| 項目 | 基準値 | 意味 |
|---|---|---|
| 収縮期血圧 | 120〜129mmHg | 一度の値で判断せず家庭血圧と経年の推移を確認。 |
| 拡張期血圧 | 80〜84mmHg |
135/85mmHg以上で高血圧の疑いがあります。一度の測定結果よりも、家庭血圧や過去の健診値との推移を確認することが重要です。
血圧が上昇傾向にある場合は、塩分の過剰摂取・運動不足・睡眠不足が関与していることが多く、生活習慣を見直すことで改善が期待できます。
尿検査 ― 腎臓や糖代謝の変化を早期に発見
尿検査では、蛋白・糖・潜血などの有無を調べます。
| 項目 | 基準値 | 意味 |
|---|---|---|
|
尿蛋白 尿潜血 尿糖 |
陰性(-) |
蛋白尿:腎機能の低下と関連 尿糖:血糖コントロール不良と関連 潜血:尿路結石や膀胱炎などと関連 |
採尿時の体調や脱水状態でも結果は変動するため、一度の異常では判断せず経過を確認することが大切です。
心電図 ― 不整脈や心臓の負担をチェック
心電図は、心臓の電気的な動きを波形として記録する検査です。
脈の乱れ(不整脈)や心筋の負担、虚血(血流不足)などを見つける手がかりになります。
異常といっても多くは一過性のものですが、前年の波形と比較して変化があるかどうかが重要です。
期外収縮や軽度のST変化がある場合は、医師と相談し生活習慣(睡眠・ストレス・喫煙など)を見直しましょう。
胸部X線 ― 肺や心臓の異常を早期にキャッチ
胸部X線は、肺や気管、心臓の大きさ、横隔膜などの状態を確認する基本的な画像検査です。
肺炎や肺がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心拡大などの早期発見に役立ちます。
撮影条件や体位によって見え方が変わるため、前年と比べて影や心陰影の変化があるかを確認しましょう。
喫煙歴のある方は特に毎年のX線検査が重要です。
血糖・HbA1c ―「糖のコントロール力」を見る
血糖値は食事・運動・体重と密接に関係し、糖尿病リスクの早期把握に重要です。
| 項目 | 基準値 | 意味 |
|---|---|---|
| 空腹時血糖 | 70〜99mg/dL | 直前の血糖状態。100〜125は「境界型糖尿病」。 |
| HbA1c | 4.6〜6.2% | 過去1〜2か月の平均血糖値を示す。 |
| 随時血糖 | 140mg/dL未満 | 食後の血糖コントロールを見る。 |
空腹時血糖100mg/dL以上またはHbA1c6.0%以上は注意が必要です。
前回より上昇傾向がある場合、糖質の摂りすぎや夜食、睡眠不足などが影響していることも。
食後2時間以内の軽い運動や、食物繊維を先に摂る食習慣が改善につながります。
脂質(LDL・HDL・中性脂肪)― 動脈硬化リスクのバランスを見る
脂質のバランスは動脈硬化や心疾患リスクに直結します。
| 項目 | 基準値 | 意味 |
|---|---|---|
| LDLコレステロール (悪玉) |
60〜139mg/dL | 高いほど動脈硬化リスク上昇。 |
| HDLコレステロール (善玉) |
40mg/dL以上 | 低いと動脈硬化リスク上昇。 |
| 中性脂肪 (トリグリセリド) |
30〜149mg/dL | 高値は脂肪肝・膵炎リスク。 |
LDL(悪玉)が160mg/dL以上、またはHDL(善玉)が40mg/dL未満なら要注意。
中性脂肪が高いときは、糖質やアルコール過多が原因のこともあります。
数値は体重・食事・運動に左右されやすいため、まず3か月単位で生活を見直すことが効果的です。
肝機能(AST・ALT・γ-GTP)― 肝臓の異変を読み取る
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるほど症状が出にくく、数値の変化が早期発見の手がかりになります。
| 項目 | 基準値 | 意味 |
|---|---|---|
| AST(GOT) | 10〜40IU/L | 肝臓・心筋・筋肉の炎症で上昇。 |
| ALT(GPT) | 5〜45IU/L | 肝臓の細胞が壊れると上昇。 |
| γ-GTP | 10〜70IU/L | アルコールや脂肪肝で上昇。 |
ASTやALTが基準値の2〜3倍を超える場合や、γ-GTPが長期に高値を示すときは、脂肪肝・飲酒・薬剤性などの影響が考えられます。
一時的な上昇なら休肝や食事改善で回復しますが、継続する場合は医療機関で精査を受けましょう。
腎機能(クレアチニン・eGFR)― 腎臓の老廃物を流す力をチェック
腎臓は血液中の老廃物をろ過し、尿として体外に排出する重要な臓器です。
| 項目 | 基準値 | 意味 |
|---|---|---|
| クレアチニン(Cr) |
男性:0.6〜1.1mg/dL 女性:0.4〜0.8mg/dL |
腎臓の老廃物排出機能の指標。 |
| eGFR (推算糸球体濾過量) |
60mL/min/1.73㎡以上 | 腎臓の老廃物排出機能の指標。 |
腎臓の働きはeGFRで把握できます。
eGFR60未満が続く場合は慢性腎臓病(CKD)の可能性があります。
クレアチニン値の上昇は腎機能低下を示す重要なサインで、特に高血圧や糖尿病がある方は注意が必要です。
塩分を控え、水分をしっかり摂ることが基本です。
薬の影響でも数値が変化するため、服薬中の方は主治医に確認しましょう。
血液(赤血球・ヘモグロビン・白血球・血小板)
血算は血液の状態を示す基礎データです。
| 項目 | 基準値 | 意味 |
|---|---|---|
| 赤血球(RBC) |
男性:430〜570万/μL 女性:380〜500万/μL |
酸素を運ぶ。低値は貧血。 |
| ヘモグロビン (Hb) |
男性:13.0〜17.0g/dL 女性:11.5〜15.0g/dL |
貧血や酸素不足の指標。 |
| 白血球(WBC) | 3500〜9000/μL | 炎症・感染・免疫状態を反映。 |
| 血小板(Plt) | 15〜35万/μL | 出血や血栓傾向を判断。 |
ヘモグロビンが少ない場合は鉄欠乏性貧血、白血球が高値なら感染・炎症反応を示すことがあります。
女性では月経やダイエットが影響することも多く、食生活や鉄分摂取状況を確認しましょう。
急な変動や極端な高値・低値が続く場合は、内科・血液内科での精査が推奨されます。
健康診断で異常値が出たときの考え方と、結果を日常に活かす方法

健康診断の結果票に「異常値」と記載されていると、不安を感じる方は少なくありません。しかし、異常値が出たからといって、必ずしも病気というわけではありません。
採血のタイミングや体調、前日の飲酒・食事・睡眠不足などでも数値は変動します。
重要なのは、どの項目で、どの程度の変化があるのかを冷静に確認することです。
異常値は、体が小さな変化を知らせてくれるサインです。その意味を正しく読み取れば、再検査、生活の見直し、経過観察などの必要な行動が明確になります。
異常値を見つけたら確認すべき3つのポイント
1. 基準値からのズレの大きさ
例えばASTやALTが基準値の2〜3倍を超える場合は、肝機能の異常を疑う目安になります。
2. 同じ項目で前年との比較
1回だけの上昇なら一時的な要因(飲酒・脱水・睡眠不足など)の可能性がありますが、前年より上昇傾向が続く場合は臓器負担のサインの可能性があります。
3. 関連項目との組み合わせ
例えば、中性脂肪とHDLコレステロールが同時に悪化している場合、脂質代謝異常の可能性が高くなります。
この3点を整理すると、再検査が必要かどうかを客観的に判断しやすくなります。
再検査・受診が必要なケースの目安
以下の様な結果が出た場合、再検査や必要があれば医療機関への受診を検討しましょう。
- ・ 身体計測(BMI・腹囲):BMIが25以上、または腹囲が男性85cm以上・女性90cm以上。
- ・ 血圧:135/85mmHg以上が複数回続く場合。
- ・ 尿検査(蛋白・糖・潜血):陽性(+)が2回以上続く場合。
- ・ 心電図:前年と異なる波形変化や「要再検」判定が出た場合。
- ・ 胸部X線:新たな陰影や心拡大が認められる場合。
- ・ 血糖関連(空腹時血糖・HbA1c):HbA1cが6.0%以上。
- ・ 脂質(LDL-C・HDL-C・TG):LDLが140mg/dL以上またはHDLが40mg/dL未満。
- ・ 肝機能(AST・ALT・γ-GTP):基準値の2〜3倍を超える、または上昇傾向が継続。
- ・ 血液(赤血球・ヘモグロビン・白血球・血小板):基準値から大きく外れたり、急激な変動がある場合。
軽度の異常でも複数項目で変化が見られる場合は、医療機関の受診を検討してください。
検査データを生活改善に活かす
異常値が見つかったら、「なぜこの数値が変化したのか」を生活面から考えることが重要です。
例えば、肝機能が高めなら飲酒や脂肪摂取、脂質や血糖が上昇していれば食事内容や運動不足が影響していることがあります。
一方で、尿酸や貧血などは水分摂取や栄養バランスの偏りでも変動します。
日々の食事・運動・睡眠・ストレス管理を見直すだけでも、次回の数値が改善することは少なくありません。
検査データを生活を整えるサインとして捉え、継続的な自己管理に活かしましょう。
こうした日常的な取り組みは、次回の検査値に確実に反映されやすく、医師の治療判断にも役立ちます。
一度の結果ではなく、数値の「流れ」を見ることでリスクを早期発見
健康診断の意義は、一度の結果ではなく経年変化を見ることにあります。
3年分のデータを並べてみると、「体重の増減とLDL上昇が連動している」など、因果関係が見えることがあります。
この視点を持つことで、早期に生活習慣病を防ぐだけでなく、自分の健康リスクを数値で管理する力が身につきます。
健康診断の検査結果に関するよくある質問(FAQ)
検査結果を正しく理解することは、健康管理の第一歩です。
しかし、判定記号や数値だけを見ても、どのように行動すべきか判断しづらいことがあります。
そこでここでは、医療現場でも多く寄せられる代表的な質問を2つ取り上げ解説します。
Q1:「B判定」でした。受診したほうがいいですか?
A:すぐに受診が必要というわけではありませんが、経過を追うことが大切です。
B判定は「軽度異常」または「経過観察」を意味し、多くは日常生活の影響による一時的な変化です。
しかし、前年より数値が上がっていたり、複数の項目でB判定が出ていたりする場合は、医師に相談しておくと安心です。小さな変化でも早めに対応することで、生活習慣病を未然に防ぐことができます。
Q2:数値が基準値を少し超えているだけですが、放置しても大丈夫ですか?
A:症状が無くとも、放置せずに数値の変化を把握し、必要に応じて再検査・相談を行いましょう。
補足:糖・脂質・肝機能・腎機能などの異常は自覚症状が出にくく、徐々に進行するケースが多いため、数値が少し高めの段階で行動を始めることが予防につながります。
数値を知ることは、自分を守る第一歩

健康診断や人間ドックの結果は、病気を見つけるためだけでなく、今の体を知り、生活を整えるための大切な情報です。異常値が出ても慌てず、医師と相談しながら原因を探りましょう。
数値の変化を毎年確認し、食事・運動・睡眠を見直すことで、未来の健康リスクを大きく減らすことができます。
結果を見て終わりにせず、次につなげる意識こそが、未来の健康を守る力になります。
(柊 こはる)
- 日本人間ドッグ・予防医療学会
[ https://www.ningen-dock.jp/ ] - JCCLS 日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲
[ https://www.jccls.org/wp-content/uploads/2022/10/kijyunhani20221031.pdf ] - JSLM 2021 検体検査のサンプリング
[ https://www.jslm.org/books/guideline/2021/GL2021_02.pdf ] - 神戸労災病院中央検査部 血液検査データの変動について
[ https://www.kobeh.johas.go.jp/data/media/kobeh/page/divisions/checkup/ailab08.pdf ] - 日本臨床検査標準協議会 日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲 ―解説と利用の手引き―
[ https://www.jccls.org/wp-content/uploads/2022/10/kijyunhani20221031.pdf ] - 今日の臨床サポート 肝機能異常(AST、ALT上昇)
[ https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1106 ] - 国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター
[ https://dmic.jihs.go.jp/general/about-dm/010/010/03.html ] - 公益財団法人 日本心臓財団
[ https://www.jhf.or.jp/pro/a%26s_info/guideline/post_2.html ]
