視能訓練士がお伝えする ~知っているようで知らない目の話5選~

はじめに

あなたは「目」に関する情報をどうやって手に入れていますか?
少し前までは新聞や雑誌、テレビやラジオなどのメディアから情報を得ていた方も多かったと思いますが、最近では「ネットで検索する」「AIに聞く」という方も増えています。

私は眼科専門の国家資格である視能訓練士として眼科で働きながら、日々多くの患者さんの検査やケアをしています。その傍らで、より多くの方に目の大切さを知って頂きたいという想いでイベントや講座、講演活動も行なっています。

その中で目の当たりにしたのは、多くの人が【ご自分の「目」に関心がない】というだけでなく、【目に関する情報がアップデートされていない】という現実でした。

重さ約7g、10円玉とほぼ同じくらいの大きさの小さな眼球ですが、私たちは情報の約8割近くを「視覚」から得ています。

大切な「ご自分の目」について、皆さんはどれくらい関心をお持ちでしょうか?

今回は、今まで私が現場で多くの方からいただいた質問の中から、知っているようで知らない目の情報を厳選し、わかりやすくお伝えしようと思います。

はじめに

~知っているようで知らない目の話5選~

  • 1. 裸眼視力(らがんしりょく)と矯正視力(きょうせいしりょく)
  • 2. 「風がピュッ」と出る検査の正体
  • 3. 「視力がいい=目が健康」とは限らない
  • 4. 目の裏側にコンタクトやゴミは入りません!
  • 5. 点眼薬は「開封後1ヶ月たったら⋯」

1. 裸眼視力(らがんしりょく)と矯正視力(きょうせいしりょく)

〜眼科では「矯正視力」を重視します〜
眼科では「裸眼視力」だけではなく、必ず「矯正視力」(きょうせいしりょく)を検査します。

「矯正視力」とは、メガネやコンタクトレンズなどで近視や遠視、乱視などを矯正した状態で測定した視力のことです。

眼科に行くと目盛りのような数字がはいった不思議なかたちのメガネをかけて視力検査をしませんか?その不思議なメガネは【検眼枠】(けんがんわく)といいます。

検眼枠

【検眼枠】にレンズを入れ替えながら、「今のレンズと前のレンズとどちらが見えやすいですか?」と何度も質問されたりしますよね。質問しながら患者さんの最高視力がでるまで、レンズを入れ替えながら検査しています。

「裸眼視力」は日内変動や環境の変化で変わることが多く、眼科的にはどちらかというと「矯正視力」の方を重要視しています。

毎回視力検査をする患者さんや、患者さんが多くて検査にあまり時間を割けない時は「裸眼視力」を検査せずに「矯正視力」のみを検査したりしています。

誤解されていることが多いのですが、「裸眼視力」が悪くても「矯正視力」で1.5であれば視力に関しては問題ありません。つまりメガネやコンタクトレンズで視力がでていれば、眼科サイドからすると視力は悪くない⋯と考えます。

矯正視力

「裸眼視力」がいいことが「目がいい」と思っている方、割と多いのではないでしょうか?

メガネをかけても視力がでない状況のことは「弱視」といいます。私たち視能訓練士がなぜ「訓練士」というのかというのは、実はお子さんが「弱視」にならないための訓練をする仕事が本来の役割だからです。

視力検査のコツ
視力検査をするとき、なんとなくわかるという感じで答えていいのですか?というご質問もよく頂きます。
はっきり見えないと答えてはいけないと思われている方も多いかもしれないですね。

実は、なんとなく見えていたら答えてもらった方がいいです。視力検査の時に見るアルファベットのCのようなものは「ランドルト環」といいます。19世紀後半にフランスの眼科医エドマンド・ランドルトが発表したことからこの名前がつきました。

視力検査のコツ

日本ではランドルト環を使用している眼科が多いですが、国によってはランドルト環に似た記号、アルファベットや絵などを使用しているところもあります。

ランドルト環

視力検査をしている時、ランドルト環を適当に選んでだしているような感じがするかもしれませんが、私たち視能訓練士は、実はちゃんとした法則に従ってだしています。

偶然正解したのか、そうでないのかは、私たち視能訓練士は検査をしている過程でわかりますので、なんとなくでもいいのでわかったら答えてもらったほうがいいです。

正しい視力検査をするポイントとしては【目を細めないこと】
眼を細めてしまうと、ピンホール現象によって物がより見えやすくなる場合があります。正確な結果をだすためにも、できるだけ目を細めないで答えてもらうとよいと思います。

目を細めないこと

2. 「風がピュッ」と出る検査の正体

〜眼圧を測って、中途失明原因ダントツ1位の緑内障を早期発見〜
眼科で突然「ピュッ」と風が当たる、あの検査。あの検査は何を調べているのですか?というご質問も多くいただきます。
あれは眼圧(がんあつ)を測るための検査です。

眼圧を測ることで、緑内障(りょくないしょう)などの病気を早期に見つけることができます。
眼圧の正常値とされている値は10~21mmHgで、日本人の平均眼圧は14~15mmHgです。

ここで注意が必要なのが、血圧などと同じく眼圧にも個人差があるということです。

眼圧が高くても視神経(ししんけい)に異常がない場合は【高眼圧症】といい逆に眼圧が正常範囲内であっても視神経が弱いタイプだと緑内障になることがあります。
それを【正常眼圧緑内障】(せいじょうがんあつりょくないしょう)といいます。

そのため、眼圧の値だけで緑内障と診断することは難しく、OCT検査(光干渉断層計)や視野検査など他の検査とあわせて総合的に診断されます。

ここで緑内障について簡単に説明します。

・ 緑内障(りょくないしょう)
眼圧が高くなることで、目の奥の視神経が圧迫されダメージを受けることで視神経が傷みその部分が見えにくくなります。

緑内障のメカニズム

緑内障の初期症状は部分的に見えにくくなることから始まります。痛みもなく徐々に視野異常が進行することもあり、初期の段階では「目が疲れる」「目がかすむ」「メヤニや涙がずっとたまっている感じがして見えにくい部分がある」などと感じる方が多いです。

緑内障の視野変化

片方の目に見えにくい部分があったとしても、もう片方の目がその部分を補うために気が付きにくいので、気がついたときには片方の目の視野がほとんど欠けていた⋯という方も少なくありません。

視野が欠けてしまうと、もう元には戻せません。
できるだけはやく見えにくい部分に気が付き、これ以上見えにくい部分が増えないようにすることが大切です。

そのためにも、定期的に片眼ずつ見え方をチェックするなど、ご自分の目の変化に早期に気が付くような習慣作りをしてみるのもいいかもしれません。

見えにくい部分があることに気が付いたら、できるだけはやく眼科に行くことをお勧めします。

3. 視力がいい=目が健康、とは限らない

〜「見えているのに病気がある」ことも〜

「見えているのに病気がある」ことも

「私、視力が1.5だから目は健康です」と言われる方たちにも多くお会いしました。
実は、視力が良くても、病気が隠れていることがあります。

たとえば、先ほどでてきた緑内障は、中心の視力が保たれたまま、周囲の視野が少しずつ欠けていく目の疾患です。

また、網膜剥離(もうまくはくり)などでは視力にほとんど影響がない場合もありますし、加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)や黄斑前膜(おうはんぜんまく)といった黄斑部の疾患では、片眼だけが歪んで見えるというケースも多く、必ずしも視力が低下したことで気がつく目の疾患というわけでもないのです。

ここで、黄斑の病気と網膜の病気についてまとめます。

黄斑(おうはん)の病気
ものをみる時にとても重要な役割を担っている黄斑(おうはん)という部分があります。
視力検査に影響してくる場所です。

この黄斑が様々な理由で穴が空いたり腫れたりすることがあるのですが、その場合は物が歪んで見えたりします。多くの場合、片眼のみに起こります。片方の目が見えにくくなったとしても、もう片方の目が見えていれば、見えにくさに気が付きにくいのです。

目の断面図

網膜(もうまく)の病気
カメラのフィルムの部分にあたる網膜が、剥がれたり穴があいたりすることもあります。その際は、剥がれた部分や穴があいた部分が見えにくくなります。

視力に影響するところ(黄斑)まで剥がれてしまうと見えにくくなるのですぐに気が付きますが、周囲の部分が剥がれたり穴があいたりしても、視力に影響がないので気が付かないことも多いです。

「目が疲れる」「ずっと同じ場所に黒いものがみえる」「墨がたれたようなものが目のはしに見える」などの症状がある場合は、網膜に何らかの異常がある場合があるのですぐに眼科に行くことをお勧めします。

このように、視力検査だけでは見つけられない病気もあるため、【視力がいい=目が健康】とは限りません。

4. 目の裏側にコンタクトやゴミは入りません!

〜構造上、目の裏には行けない仕組み〜
「コンタクトが目の裏に入って取れなくなった!」 私の友人から、たまにこんな連絡がはいります。

「コンタクトレンズの欠片が目の裏側にはいりました!」と言って眼科に駆け込んで来られる方も割といらっしゃいます。

目の裏側にコンタクトやゴミは入りません!

でも大丈夫。安心してください。
目の構造上、裏側に入り込むことは絶対にありません。

妖怪アニメの影響からか、目は単独でブラブラと浮いている?と思っている方が一定数いらっしゃいます。けれども、「目」はあくまでも剥き出しの臓器。血管や神経、筋肉があります。
自分が見たいところに目が動くのも、目のまわりにある筋肉があるからこそ。

見た物を脳に送る神経が脳と繋がっていることで、ものが「見える」仕組みです。

しかも、まぶたの裏は白目の上を覆う「結膜」が袋のように折り返していて、ストッパーの役割をしているので、奥にモノが入り込むことはできません。

まぶたの奥にコンタクトなどがずれて入り込んでしまうことはありますが、必ず目の表面のどこかにとどまっています。

構造上、目の裏には行けない仕組み

目の奥に入り込んでしまうと痛いので、目の裏側に入ってしまったのか!と勘違いされる気持ちもよくわかります。

異物感があるときは、無理に触らず、眼科で安全に取り除いてもらいましょう。

5. 点眼薬は「開封後1ヶ月たったら⋯」

〜長期使用は感染のリスクに〜

点眼薬は「開封後1ヶ月たったら⋯」

「以前使った目薬がまだ残っているので、使っても大丈夫ですよね?」
という質問をよくいただきます。

それをどこに置いていましたか?とお聞きすると「車の中です」とお答えになる方も。

点眼薬は、開封してから1ヶ月以内に使い切るのが基本です。
開封して1ヶ月が経過したら、目薬が残っていたとしても捨ててください。

病院や薬局では、点眼薬を保存に適した環境で保管しています。

目薬の下の方に「使用期限」は書いてありますが、それはあくまでも開封していない場合で一度開封して点眼したら、1ヶ月で廃棄をおすすめします。

自分で点眼する際には、どうしても睫毛や顔に目薬の先が触れてしまいます。それだけでなく開封した瞬間、空気中の雑菌にも触れることになります。

点眼後、そのままキャップをつけて温かい環境に置きっぱなしにしていると、雑菌が繁殖して次に点眼した際に感染を起こすことにも繋がります。

1ヶ月で捨てるなんてもったいない!と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、感染して目を悪くするほうが、もっともったいないことなのかもしれませんね。

長期使用は感染のリスクに

また、「点眼すればするほど目にいいと思って一日に10回以上点眼しています」という方もいます。特に、目が乾燥する、目が疲れるといった時に目薬を点眼すると、スッキリして気持ちがいいので頻繁に点眼したい気持ちもわかります。

けれども、大抵の場合、必要以上の点眼は角膜を傷つけたり、涙のバランスを崩したりします。

目にとって「涙」は最高の目薬なのです。目が乾く、目が疲れるといった場合は、「こまめに目を閉じる」「ホットアイマスクなどで目を温める」など、日常的に目のケアをすることで、目薬の回数を減らすことに繋がると思います。

ホットアイマスクなどで目を温める

おわりに

「知っているようで知らない目の話5選」をお伝えしました。
え!知らなかった!というケース、ありましたか?

おわりに

現代は情報があふれている時代です。けれども目の情報は、一般的にまだまだアップデートされていないことが多く、誤解されている方も多いなと感じています。

「目が見えること」は決して当たり前のことではありません。特にデジタル社会の現代において、毎日を楽しく快適に過ごすためには、目から得る「視覚情報」は必要不可欠だと思います。

ぜひこのコラムをきっかけに、ご自分の目の大切さを改めて実感し、目についてもっと関心をもってもらえたら嬉しいです。

(視能訓練士 原りえ)