目を温めるとき・冷やすとき ~視能訓練士がお伝えするセルフアイケアの基本~

はじめに

「目が疲れた時は、温めておけば大丈夫!」
そんなふうに思っていませんか?

最近のドラッグストアやネット通販では、使い捨てタイプや電子レンジで温めるタイプのホットアイマスクや簡単に目をほぐすことができる便利なアイケアグッズなどがたくさん出回っています。

目もとを温めることで目の疲れがとれるだけでなく、リラックスした感じが得られるのでたまに使っているという方も多いでしょう。

市販のホットアイマスクだけでなく、手作りでオリジナルアイピローを作り日常的に愛用されている方も多いのではないでしょうか?

様々なアイケアグッズが販売されるようになってくることで、アイケアグッズの選択肢が増え、その結果アイケアに関心をもつ方が増えることは非常に嬉しいことではあります。けれども、そのアイケアグッズがご自分の目の状況にあったものなのかどうか、よくわからずに利用しているという方も多い印象です。

実は、すべての目の症状に「目を温める」ことが合っているわけではありません。
場合によっては、温めることでその症状を悪化させてしまうこともあるのです。

私は目の専門の国家資格である視能訓練士(しのうくんれんし)として、多くの患者さんと接してきました。眼科では患者さんの数も非常に多く、そしてスタッフの数も限られています。そのため患者さんとゆっくりと向き合う時間も少なく、おひとりおひとりのお悩みをゆっくりお聴きする時間的な余裕が全くないのが現状です。

この状況をなんとかしたいという想いから、視能訓練士として眼科で働く合間に、目のケアについてわかりやすくお伝えするアイケアアドバイザーとしての活動を始めました。

イベントや講座などでアイケア情報をお伝えしたり、公民館などで定期的に目の情報交換会を開催しています。【目の健康とケアの情報交換スペース(アイケアルーム)】
世代や性別、職業も異なる様々な方たちとの情報交換会で得られるご意見は、眼科の現場で働く私にとって非常に新鮮で学ばせて頂くことが多い時間になっています。

はじめに

実は、アイケアアドバイザーとしての活動中、最も多かった質問が「セルフアイケアのやり方はどんなことに気を付けたらいいですか?」ということです。

メディアやネットでは「目によいこと」「目に効果的」といった情報があふれていますが、どのアイテムが自分にあっているのか?よくわからない⋯といったご意見もたくさん頂きました。

特に、「目が疲れた=目を温める」という知識は一般的に広く浸透しているようなのですが
その一方で「目を温めたら以前より充血がひどくなった」「目を温めていたらかゆみが悪化した」といったお話もよく耳にします。

目を温めるグッズはたくさんあるけれど、温めたほうがいいときと悪いときの違いをご存じではない方は全世代にわたってかなり多いな⋯という印象です。

そこで今回は、セルフアイケアにとっては基本中の基本である「目を温めるとき・冷やすとき」について、視能訓練士として、そしてアイケアアドバイザーとしてわかりやすくお伝えしていきたいと思います。

このコラムが皆様のセルフアイケアをより充実したものにし、アイケアグッズを選ぶ際のヒントになれば嬉しいです。

目を温めたほうがいいとき

長時間のパソコン作業やスマホの見すぎによる疲れ

目を温めたほうがいいとき

目を使いすぎたとき、特に「ピントをあわせる力」が疲れてしまい、目の筋肉がうまく動かなくなってしまうことがあります。
このようなときは、目のまわりを温めることで血行が改善し、筋肉がゆるむことで「ピントをあわせる力」の疲れが和らぐことがあります。

目が乾くとき(涙の質が悪いタイプ)
涙は「水分」だけではありません。「水分」「粘液(ムチン)」「油分」の3層になることで、目から涙がこぼれ落ちないようにしたり、涙が蒸発するのを防ぐ機能があります。まつ毛の生えている付近に「油分」を分泌するマイボーム腺という小さな腺があります。このマイボーム腺が、加齢、アイメイクの落とし残し、動物性脂肪の過剰摂取などで詰まってしまうことがあります。詰まってしまって油分の層が少なくなると、涙が蒸発しやすくなり、ドライアイの症状につながります。
このタイプには温めてマイボーム腺を柔らかくすることがとても有効です。

目が乾くとき(涙の質が悪いタイプ)

睡眠前のリラックス目的
寝る前に目もとを温めると、副交感神経が優位になり、眠りに入りやすくなることが分かっています。
日中の目の酷使で緊張していた身体をゆるめる意味でも、就寝前のホットアイマスクはおすすめです。

睡眠前のリラックス目的

※ お好みの香りや素材を使う

温めることが難しいときには、目を閉じてアイピローやアイマスクを目の上にのせるだけでも効果があります。アイピローやアイマスクに自分がリラックスできる香りのアロマオイルを追加することでリラックス効果がより高まります。

ホットアイマスクやアイピローの中身の素材によっても、リラックス効果が期待できます。中身の素材は小豆が人気のようですが、他にも玄米やハーブ、塩などがあり、それぞれにフィット感や香りも異なります。最近では自分の体温でほのかに温まる遠赤外線セラミックビーズなどの素材もあります。

お好みの香りや素材を使う

目は単独で存在しているわけではなく、神経や血液が流れる身体の中の臓器のひとつです。酸素や血液などの巡りが悪くなることで目にも悪い影響がでてきます。
ご自分のお好きな中身や香りのアイピローやアイマスクを利用することで、目だけなく全身や神経のリラックスにつながることは、セルフアイケアにとって非常に重要なポイントかもしれません。

温め方のポイント(温め過ぎに注意)

  • ・ 1回あたりの温め時間は10分程度
  • ・ 温度は40℃前後が理想
  • ・ 目に違和感が出た場合はすぐ中止し眼科へ

※ 外出時などでゆっくり時間をかけて目を温めることができない状況では、両手のひらを10秒ほど擦り合わせ優しく両眼を30秒ほど覆ってみてください。それだけでも、手の柔らかな温かさを感じ取ることができ、ホットアイマスクに比べて効果は劣るかもしれませんが目のリラックスにもつながります。

目を温めないほうがいいとき

以下のような症状があるときには「目の温め」は禁物です。
そのようなときには「冷やす」ことで症状が緩和される場合があります。

結膜炎・花粉症などでかゆみがあるとき
目が赤く充血し、かゆみがあるときは何らかの炎症が起きている状態です。
この場合、温めることで炎症が強まり、かゆみや腫れが悪化する可能性があります。
冷やすことで炎症を一時的に抑え、かゆみを軽減できます。

結膜炎・花粉症などでかゆみがあるとき

疲れ眼などで目が充血しているとき
目が何らかの理由で充血しているとき、あるいは寝不足などで目が充血しているときは、目を温めるのは逆効果です。充血がひどくなってしまいます。
この場合も冷やすことで充血を抑えることができます。

ただここで気をつけて頂きたいのが、充血の種類です。充血には、割と軽い症状のものから重篤な目の病気の症状のひとつのものまでいろいろあるので、自己判断は禁物です。「ただの充血」と決めつけないほうがよいかもしれません。
充血がなかなか治らない、充血がひどくなった、いつもの充血と違う、などがある場合は、はやめに眼科を受診してください。

疲れ眼などで目が充血しているとき

目をこすってしまった直後
かゆみや違和感で目を強くこすってしまうと、結膜や角膜が傷ついたり炎症が起きたりします。
目の表面に傷があると、目がゴロゴロするなどの症状があります。このときも冷やして炎症を抑えることが基本です。できるだけ早く早めに眼科へ。

目をこすってしまった直後

目の回りの打撲や腫れ、痛みがあるとき
目の回りを打ってしまった、目が腫れている、といった場合も温めることは厳禁です。
応急処置として目を冷やし、すぐに眼科を受診しましょう。

冷やすときの注意点(冷やし過ぎに注意)

  • ・ 直接氷を当てない(低温やけどの危険)
  • ・ 清潔なガーゼやタオルに包んだ保冷剤を使用
  • ・ 冷やしすぎず、5〜10分程度
  • ・ 「冷やしても改善しない」場合は必ず眼科受診を

※ 氷や保冷剤を使わなくても、小豆や玄米といった素材を使ったアイピローやアイマスクであればそのまま目を閉じてアイピローを目の上にのせるだけでも少しひんやりして気持ちがよいです。冷えすぎるのが苦手な方にはおすすめです。

セルフアイケアの限界と注意点

以上のように、目を温めたほうがいいときと温めないほうがいいときをお伝えしてきました。
けれども、どんなこともそうかもしれませんが⋯やり過ぎは禁物です。

目を温めたほうがいいからとホットアイマスクを毎日長時間にわたり使っている方もいます。しかしやりすぎは目の油分バランスを崩したり、まぶたの皮膚が乾燥したりすることもあり注意が必要です。
「心地よいな」「気持ちよいな」と感じる温度や頻度の範囲にとどめるのが大切です。
セルフアイケアに関心がある方の多くは
「待ち時間の長い眼科にできるだけ行きたくない」
「些細なことは病院に行かずに自力でなんとかしたい」
と思っているかもしれません。

しかし自己判断は時には有効かもしれませんが、時には取り返しのつかないことになりかねません。
以下の症状が続くときは、セルフケアに頼らずに迷わず眼科を受診してください

  • ・ 目の奥がズキズキする
  • ・ 片目だけ見えにくい・かすむ
  • ・ 視界に黒い点や光がちらつく
  • ・ 目が赤く、痛みや腫れが強い
  • ・ 温め・冷やしで症状が変わらない

こうした症状があるときには、セルフアイケアでは対応しきれない眼の疾患が隠れている可能性があります。

セルフアイケアの限界と注意点

視能訓練士として眼科で働いていると、「もっとはやく眼科に来てほしかった!」と感じる患者さんに多く遭遇します。

  • ・ 疲れ眼だと思っていたら、緑内障(りょくないしょう)の初期の視野欠損だった
  • ・ 老眼だと思っていたら中心部分が見えにくくなる黄斑変性(おうはんへんせい)だった

ただの「疲れ眼」「老眼」「ドライアイ」と思い込んでいても、その症状が長期的に続く場合や日に日に悪化しているようであれば目に何らかの疾患があるのではないかと疑うべきです。

眼科の疾患の多くは「早期発見・早期治療」で治癒するものが多いです。けれども、ご自分の見え方に何らかの異変を感じることができるのは自分自身しかいません。ご自分の見え方は他人には全くわかりませんから。

セルフアイケアにも限界があるということをご理解頂き、何らかの変化があった場合はできるだけ早めに眼科を受診することをおすすめします。

おわりに

セルフアイケアのポイントについてご理解頂けたでしょうか?
目に関してだけではなく、ご自分でケアをする際には時折「なぜこういうケアをするのだろう?」と考えてみることが必要なのかもしれません。

アイケアグッズやアイケア情報がSNSなどを通じて手軽に手に入る時代になりました。
その点に関してはとても嬉しいことなのですが⋯その反面で目のトラブルを自己判断でやり過ごしてしまう方も増えてきている気がします。
目の疾患に限らずいえることなのですが、同じ病名だとしてもその人その人によって治療方法や経過が違ってきます。つまり、自分の目に合ったセルフアイケアが重要なのですが⋯それを知る機会があまりないのが現状です。

自分の目の状態にはどんなアイケアが必要なのか?
それをきちんと見極めて、自分の目の状態に合ったセルフアイケアを行うこと!
それが目の健康を保つ第一歩です。

おわりに

人生100年時代!長く付き合っていく大切な目だからこそ、自分自身で自分の目をケアしていきましょう!
このコラムがそのためのお手伝いのひとつになれば嬉しいです。

(視能訓練士 原りえ)