「盲点」を探してみよう!あなたの眼にも必ずある【丸くて不思議な見えない場所】

皆さんは「盲点」(もうてん)という言葉を耳にしたことはありますか?
日常の会話や話しの中に、たまにでてくるこの「盲点」。

例えば、「相手の盲点を探して攻略法を考える」「この道具にそのような便利な使い方があったとは盲点でした」など、日常会話の中にそれほど頻繁にでてくることはありませんが、どこかで一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか?

では実際の眼の中に、「盲点」という見えない部分・・・本当にあると思いますか?

「盲点」という言葉を、小学生向けの国語辞書で調べてみたところ、とてもわかりやすく説明してありました。

【盲点】
1. 眼球の奥の、物を見るはたらきをする神経が集まっている部分。ここだけ網膜(もうまく)がなく、光を感じない。
2. 気がつかないところ、見落としやすいところ
※ 網膜(もうまく)とは・・・眼球の内部にあって光を感じるはたらきをする膜。

言葉としてはよく知られている「盲点」ですが、国語辞典に書いてある通り、実際の目にも「盲点」は存在していて、見える範囲(視野)の一部に見えない部分があるのです。

私たち視能訓練士が眼科の検査をおこなううえで、実は非常に重要な部分である「盲点」。

「盲点」について詳しく知ることは、自分の眼にもっと関心をもてるようになるだけでなく、もしかしたら自分の心の平安にも繋がるかもしれません。

今回はそんな「盲点」についてわかりやすくお伝えします。

1. 盲点とは何か?

私たち眼科で働くスタッフたちは、盲点のことを「マリオット盲点」と呼んでいます。

フランスの物理学者であるエドム・マリオットが1660年に発見したことでその名前がつきました。「マリオット盲点」は少し長い単語なので、眼科スタッフの中では略して「マ盲点」と呼ばれることが多いです。

「マリオット盲点」について理解するために、まずは目の構造やものを見る仕組みについて簡単に理解して頂くといいかもしれません。

ものを見るときの目の仕組みは、写真を撮影するカメラの仕組みによく似ています。

目の断面図

まず瞳孔(どうこう)から目にはいった光が虹彩(こうさい)で調節されます。続いてピントを調節する役割の水晶体(すいしょうたい)を通り、目の中にあるゲル状の硝子体(しょうしたい)を通過した後、網膜(もうまく)の黄斑(おうはん)に焦点を結びます。
そしてその光が視神経(ししんけい)を通じて信号として脳に伝達することで、像として認識されます。

※ 瞳孔(どうこう) 目の中央にある小さな穴、光はここを通って目の中にはいる
※ 虹彩(こうさい) 瞳孔のまわりにある色がついた部分。虹彩が伸縮して光の量を調整している
※ 水晶体(すいしょうたい) 虹彩のすぐ後ろにある直径9ミリ、厚さ3.5ミリほどの凸レンズ状の透明体。水晶体の厚さを変えることで光を曲げてピントを調節する役割を担っている
※ 硝子体(しょうしたい) 眼球の内部を満たしているゼリー状の組織。眼球の形を保ち光を屈折させる役割がある
※ 網膜(もうまく) 眼球の内側にある薄い膜。光や色を感知する役割を担っている。カメラでいえばフィルムのようなもの
※ 黄斑(おうはん) 網膜の中心にある小さな部分。ものを見るために最も重要な場所。色や細かいかたちを識別する細胞が集まっている。
※ 視神経(ししんけい) 眼球で集めた光の情報を脳に伝える神経繊維の束。

目で見たものが頭の中で認識されるまでの過程については、実際はもう少し複雑な過程を経ているのですが、今回は「盲点」についてのお話なので簡単にご理解頂けたらと思います

網膜全体で受け取った情報は視神経を通して脳に伝えられています。この視神経はコードを束にしたような状態になっています。この「束になっている」部分には、ものを見るために必要な網膜や視神経がありません。つまりこの部分は、見るための機能が存在しないのです。

そうです。実はこの部分が私たちの目の中にある「マリオット盲点」になります。

2. 盲点と視野検査

「マリオット盲点」に関しては、なんとなくご理解いただけたでしょうか?

けれども、「普段の生活で見えない所なんてないような気がするのですが?」と疑問を感じる方もいるのではないでしょうか?

この視神経が束になっている部分である「マリオット盲点」。
実は両眼で見ているときには全く気がつきません。
片眼だけで見たときに気がつくことができます。

眼科で視野検査をしたことがある方はもうお気づきかもしれませんが、視野検査をおこなう際は片眼を隠して検査します。

通常、片眼でみたときに人間の視野は
耳側(外側)100° 鼻側(内側)70° 上方60° 下方70°
くらいの視野があるといわれています。

正常の視野

詳しくはまた後日詳しく説明する予定ですが、視野検査には種類があります。

この広い範囲の視野がわかる検査はGP(ゴールドマン視野検査)です。
(他にはもう少し狭い範囲の光の感度測定が可能なハンフリー視野検査などがあります)

ゴールドマン視野検査は、視能訓練士が手動で光を動かしながらおこなう視野検査です。患者さんの眼を片眼にした状態で、一箇所を見続けながら、周囲から中心に向かって動いてくる光がチラッとでも見えたらブザーを押してもらいます。

ゴールドマン視野検査

私たち視能訓練士が視野検査をおこなう際、おおよその視野の広さを頭に思い浮かべながら検査をしていきますが、実は「マリオット盲点」もとても重要な役割をもっています。

視野検査で1番大切なコツは何か?というと・・・それは目をキョロキョロと動かさないことです。目が動いてしまうと視野が広がってしまうのでそもそも視野検査にならないからです。

目が動いているかどうかは、検査している側からこっそりと見ることができます。

視野検査を経験したことがある方は、検査の途中で「目を動かさないでくださいね」などと声をかけられたことはありませんか?

視能訓練士は視野検査をしながら患者さんの目が動いていないか、目の位置がずれていないかどうかを終始確認しています。

目が動いていないかどうか確認するための手段として、もうひとつ「マリオット盲点」の確認があります。

「マリオット盲点」は人間が全く見えていない部分です。その場所は、実はある程度決まった場所にあります。私たち視能訓練士が視野を検査するときは、必ず「マリオット盲点」の場所を探し、その大きさを検査します。

正常視野

※ 黒丸の部分がマリオット盲点です

人によって「マリオット盲点」の大きさに多少の違いはありますが、それほど大きな違いではありません。眼の疾患によっては「マリオット盲点」が拡大する場合もありますが、それは後ほどお伝えします。

ある程度決まった位置にある「マリオット盲点」は、目が動いていないかを確認するための重要なアイテムです。光をわざと見えていないはずの「マリオット盲点」に提示します。

「マリオット盲点」に光を提示した際に
反応がない=「目は動いていない」=「正しく検査ができている」
反応がある=「目が動いている」=「正しく検査ができていない可能性がある」
ということになります。

目が動いてしまってうまく検査ができないことを、私たち眼科スタッフは【固視不良】(こしふりょう)といいます。
【固視不良】となった結果は、正しい診断に繋がらない場合が多いのです。

患者さんの負担も大きく、なおかつ時間をかけておこなう視野検査が【固視不良】となってしまわないように、患者さんへのわかりやすい説明や声かけを工夫しながらおこなうことが視能訓練士の腕の見せ所であるともいえます。

3. なぜ「マリオット盲点」に気がつかないのでしょうか?

絶対に見えないはずの「マリオット盲点」ですが
なぜ私たちは日常生活でその存在に気がつかないのでしょうか?

それは

  • ・ 目が2つあること
  • ・ 脳のはたらき
  • ・ マリオット盲点の位置

これらが大きく関係しています。

人間は通常、両眼でものを見ています。両眼の位置が微妙にずれていることで、それぞれの盲点をもう一方の目が補っているかたちになり、両眼で見ている限り盲点に気がつくことはほとんどありません。

マリオット盲点

例え片眼で見たとしても、脳は非常に優秀なので盲点の存在を感じさせないように働きます。盲点の部分を周囲の情報をもとに脳が自動的に補完し、まるでそこに存在するかのように処理してしまうのです。

それに加えて、盲点の位置は視界の中央ではなくやや外側に位置しています。私たちの眼は中央にあるはっきりとよく見えるものを重視して見る傾向にあります。そのため盲点がある部分について普段の生活ではあまり意識していないのです。

4. 簡単にできる「マリオット盲点」の探し方

見えていないのにまるで見えているかのような存在の「マリオット盲点」ですが 紙とペンがあれば簡単に自分で確認することができます。

1. 白い紙の右側に「●」10センチほどはなして左側に「+」を書く

簡単にできる「マリオット盲点」の探し方

2. 【右眼で見る場合】

右眼で見る場合

左眼を手で隠し、「+」を右眼の正面に「●」を右側にもってきて「+」を見つめる
紙を顔から20センチほど離して前後に動かすと「●」が消える
「●」が消えたところが「マリオット盲点」

3. 【左眼で見る場合】

左眼で見る場合

右眼を手で隠し、「+」を左眼の正面に「●」を左側にもってきて「+」を見つめる
紙を顔から20センチほど離して前後に動かすと「●」が消える
「●」が消えたところが「マリオット盲点」

5. マリオット盲点(視神経が束になっている部分)に関係する眼の疾患

人間には見えない部分があるということはご理解頂けたかと思います。
ではその「盲点」に関係する眼の病気にはどんなものがあるのでしょうか?

マリオット盲点のある部分は別の言い方をすると「視神経乳頭部」(ししんけいにゅうとうぶ)と言います。視神経乳頭部が通常よりも大きくなったり、形が変化したりする場合は以下のような眼の疾患が考えられます。

緑内障・・・眼の中の圧(眼圧)が高くなることで視神経を圧迫し、視野の中に見えにくい部分ができていく眼の疾患です。初期の段階では、マリオット盲点の近くに見えにくい部分ができることもあります。

緑内障のメカニズム

緑内障の診断は、眼底検査で視神経乳頭の陥凹(かんおう)がみられるだけでなく、眼のCTともいわれる光干渉断層計(OCT)の検査結果、そして視野検査の検査結果を含めて総合的に診断されます。緑内障の方にとって視野検査の結果とその経過は今後の治療方針などでとても重要なものになります。

緑内障の視野変化

他にも代表的なものとしては

視神経の束に炎症が起き、視力低下や視野障害といった
自覚的な症状がでやすい「視神経炎」や「視神経症」

頭蓋内圧の上昇により両眼に起きることが多い、「うっ血乳頭」などでは「マリオット盲点」の拡大が兆候としてみられます。

これらの疾患のほとんどは早期発見早期治療が大切です。

ご自身で「マリオット盲点」の実験をしている途中で、盲点以外にも見えにくい部分がある、どちらかの視力が急激に低下しているなどに気がついたら、はやめに眼科を受診することをおすすめします。

6. 「マリオット盲点」が教えてくれる私たちの視覚と認識の危うさと大切さ

「盲点」という言葉には「気がついていないこと」「見落としやすいところ」といった意味がありますが、まさにその言葉の意味するとおり、実際の眼の中にも【リアル盲点】があるということをご存じなかった方も多いのではないでしょうか?

私たちは情報の8割近くを「視覚」つまり「眼」から得ています。 目の前で繰り広げられることに心を奪われたり、逆に見えていないことに恐怖心を感じてしまったりと、私たちは日常的に「視覚」という機能に頼りすぎているような気がします。

「マリオット盲点」について知る前は、「目に映るものは全て見えている」と思っていたかもしれません。

けれども実際にマリオット盲点を見つける実験をしてみると・・・「たしかに●が消えた!」という驚きを感じたと思います。この経験を通じて、「視覚は単に目だけの働きで見ているわけではなく、脳というフィルターを通して見ている」というところに気がついて頂けたら嬉しいです。

目の疾患にはやく気がつくためにも、時々片眼ずつにして物を見る時間を作るなどを意識することが大切なのかと思います。

「盲点」の概念を知ることは、視覚だけでなく、自分の「認識」や「思考」にも盲点があることを考えるきっかけにもなると思います。

「マリオット盲点」が教えてくれる私たちの視覚と認識の危うさと大切さ

私たちは、自分の視点のみで物事を見ていると「全てを正しく理解している」と思い込みがちです。

例えば、人間関係や仕事関係でも「自分は正しく判断している」と思っていたことが実は偏った見方だった・・・ということがあります。

盲点の存在を知ることで「自分の考えにも見えていない部分があるかもしれない」と冷静に自分を見つめなおす習慣がつくかもしれません。

7. まとめ

「マリオット盲点」についてご理解頂けたでしょうか?

私は眼科で様々な方たちの検査をおこなっています。視力検査や視野検査の過程で、「自分がこんなに見えなかったなんて気がつかなかった!」と驚く方が少なくありません。

緑内障の患者さんの中には、気がついたら片眼が見えなくなっていた・・・という方も多くいらっしゃいます。

「マリオット盲点」の話しをきっかけに、自分の眼についてもっと関心をもって頂けたらとても嬉しいです。

「もう少しはやく眼科に行っておけばよかった・・・」と後悔する方を1人でも減らしていくこと!それが私の目標であり使命だと思っています。

(視能訓練士 原りえ)