その疲れ、ただの眼精疲労じゃないかも?視能訓練士が解説する見逃せない目のSOS
あなたは一日の間に、どれくらいの時間スマホやパソコンを見ていますか?
毎日のように仕事で使用しているという方もいれば、休憩時間や空いた時間についつい見てしまう・・・という方もいるのではないでしょうか?
デジタル機器の普及によって私たちの生活は非常に便利になりました。仕事やプライベートだけでなく、教育現場へのタブレットの導入など、急速にデジタル化が進んでいます。しかしその一方で子どもから大人まで、以前よりも「目」を使う時間や機会が急激に増加していることも忘れてはならない現実です。
私は眼科検査専門の国家資格である「視能訓練士」として眼科で働いています。眼科には目に関する様々な疾患をおもちの患者さんが多く来院されます。患者さんの中には「疲れ眼だと思っていたら〇〇だった」「最近メガネがあわなくなったと思っていたら〇〇だった」とおっしゃる方が少なくありません。〇〇の部分については後ほど詳しくお伝えします。
眼科の病気の多くは、「早期発見・早期治療」によって治るものが多いのですが、「ただの疲れ目だろう」とか「老眼かな?」などと軽く受け止め、そのまま様子をみてしまい気が付いたときには病気が進行していた・・・という方も多いなと感じています
今回は、気をつけた方がいい目の症状やその対策方法についてわかりやすく解説していきたいと思います。
1. デジタル社会と「疲れ眼」の現状
公益社団法人 日本眼科医会(日本眼科啓発会議)が日本人の目の健康に対する意識、関心度、目の病気の知識度、不安などを調査する目的で2024年6月に40~89歳の男女を中心に行なったアンケート調査によると、現在目について何らかの気になっていること(自覚症状)があると回答した人は、全体の81.7%でした。
約8割の方が、自覚的に何らかの目の症状があると感じているのですが、その中で「眼科に行く」、「目のケアをしている」などの具体的な対策をしている方は約2割という結果がでています。
このアンケートでは、目だけでなく全身の健康面についても調査しています。 「歯」や「足腰」などに関する症状をおさえて、目に何らかの症状があると答えた方の数が圧倒的1位でした。その一方で、目に関しての症状に対してほとんど対策をしていないと答えた人の数も1位でした。つまり、目に何らかの症状があるけれどもほとんどの方が何の対策もしていない・・・ということがわかりました。
「疲れ眼」といった目に関する何らかの症状が起きると、仕事の作業効率が低下したり勉強に集中しにくい、趣味や楽しみが思い切り楽しめない、など生活全体に影響を及ぼします。もうご存じの方も多いと思いますが、人間は情報の約7割から8割を「視覚」つまり「目」から得ています。目は情報の窓口として非常に大切な役割をもっています。

そんな大切な器官であるはずなのに、なぜほとんどの方が対策をしていないのか?
アンケートの中で意外にも多かったのが「目に関してどんな対策をしたらいいのかわからない」という答えでした。
デジタル機器を駆使して、調べようと思えば何でも調べることができる現代ですがデジタルを使いこなすために必要な「視覚」についての情報がほとんど知られていないことに、眼科で働く私としては衝撃を受けました。
そこで今回は、「疲れ眼」と感じたらどういった時に眼科に行けばよいのか、そして目の病気に気が付くためには具体的にどんなことをしたらよいのか?をわかりやすくお伝えしていこうと思います。
2. 「疲れ眼」と「眼精疲労」の違いとは?

長時間パソコン作業などをした後で、目が疲れたなと感じることがありますか?
「目が疲れる」という感覚は、人によって違います。そのためいろいろな症状としてあらわれます。その代表的な症状としては・・・
- ・ 目がかすむ
- ・ 目が重たい
- ・ 目がショボショボする
- ・ 目の奥が痛い
- ・ 目が充血している
- ・ 目が動かしにくい
- ・ 目が痛い
などがあげられます。ただ、「疲れる」という感覚は非常に言葉にしにくいものです。患者さんの症状をうまく聞き出すことも、眼科で働く私たちスタッフの重要な役割だと思います。
「疲れ眼」というのは、これらの症状が休憩や睡眠をとることによって自然と改善される症状のことです。
例えば、【徹夜で仕事をした後、朝になったら目が充血して目の奥が痛かった。その後自宅に帰って数時間眠ったら充血もとれて目の痛みもなくなった】
これは「疲れ眼」です。
つまり、目の疲労感といったところでしょうか。
では「眼精疲労」はというと・・・疲れ眼の症状が継続的に続き、肩こりや頭痛などといった他の身体の部位にまで症状がでてくることをいいます。
例えば、【パソコン作業の仕事をしていると、夕方には目がかすんでショボショボしてくるだけでなく、肩こりと頭痛も起こる。1ヶ月ほど同じような症状が続いている】
これは「眼精疲労」で、何らかの対策が必要な状況です。
皆さんの目の症状は、「疲れ眼」「眼精疲労」どちらにあてはまりますか?
疲れ眼や眼精疲労になる原因としてあげられるのは
- ・ 長時間のデジタル作業
- ・ 読書や勉強、趣味などでの長時間の近距離作業
- ・ 暗すぎる、あるいは明るすぎる照明のもとでの作業
- ・ 度数があっていないメガネやコンタクトレンズの使用
- ・ 長時間のデスクワーク
- ・ 睡眠不足やストレス
などです。
同じ姿勢で長時間、近距離作業をする方が疲れ眼や眼精疲労になることはなんとなく予測できると思いますが、度数があっていないメガネやコンタクトレンズを使用しているとは何か?と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

メガネやコンタクトレンズは、見たい距離、つまり作業距離にあわせて使い分けるのがポイントです。遠くがはっきり見えるようにあわせたメガネをかけたまま、長時間手元を見る作業をすると目は疲れます。そんな時は、手元作業用に度数をあわせたメガネを使用することで目が疲れることを防ぐことができます。コンタクトレンズの場合も同じで、遠くがはっきり見えるようにあわせたコンタクトレンズをつけている場合、手元作業時には、コンタクトレンズをつけた状態でその上から手元作業用のメガネをかけたりすることも疲れ眼の予防になります。
3. 疲れ眼と病気の境界線~見逃せない目のSOS~
「疲れ眼」と「眼精疲労」の違いについてはご理解いただけたでしょうか?
始めのほうでもお伝えしましたが、「疲れ目」と思っていたら実は目の病気だった・・・というケースは少なくありません。
ではどんな目の病気のときに「疲れ眼」と勘違いされることが多いのでしょうか?
緑内障(りょくないしょう)
緑内障の初期症状は部分的に見えにくくなることから始まります。痛みもなく徐々に視野異常が進行することもあり、初期の段階では「目が疲れる」「目がかすむ」「目にメヤニや涙がずっとたまっている感じがして見えにくい部分がある」などと感じる方が多いです。片方の目に視野の異常があっても、もう片方の目が見えにくい部分を補うために視野の異常に気が付きにくいのです。そのため、ただ単に目が疲れているのかな?と思い込み、長期間そのままにしていたところ、眼科に来られたときには視野の半分が欠けていた・・・という患者さんを多くみてきました。
視野が欠けてしまうと、元には戻せません。できるだけはやく視野障害に気が付き、これ以上視野異常が増えないようにすることが大切です。そのためにも、定期的に片眼ずつ見え方をチェックするなど、ご自分の目の変化に気が付くような習慣作りをしてみるのもいいかもしれません。見えにくい部分があることに気が付いたら、できるだけはやく眼科に行くことをお勧めします。

ひまわりのぼやけた部分が初期緑内障の視野欠損のイメージです。
白内障(はくないしょう)
目の中にある水晶体(すいしょうたい)が白く変化することで見えにくくなるのが白内障です。白髪と同じで高齢になってくるとほとんどの方が白内障になります。ただ、白内障はいきなり水晶体が白くなるわけではありません。(病気によっては急に白くなる場合もありますが・・・)
年齢とともに少しずつ白く変化していきます。しかも白くなっていく場所によっては、視力にあまり影響がでないこともあります。水晶体の中心部分が白くなっていくと見えにくくなるので、視力の低下に気がつきやすいですが、周囲から白くなる場合であれば、その変化に気がつきにくい場合があります。
「目が疲れる」「目がかすむ」「光がまぶしい」「手元が見えにくい」など、主な症状が疲れ眼に似ているので勘違いされることが多いです。
白内障は、他に目の病気がなければ手術で見えるようになります。もしかしたら白内障かな?と感じたら眼科に行って白内障の程度を診てもらいましょう。

ドライアイ
涙の量が減ったり、涙の質が変わることで角膜や結膜の状態が悪くなりいろいろな症状が起こります。「目が疲れる」「目がかすむ」「目が痛い」「目がゴロゴロする」「光がまぶしい」「目が重たい」などの疲れ眼に似た症状があります。
涙には
- 1. 眼球をうるおす
- 2. 眼球に栄養を届ける
- 3. 細菌の侵入を防ぐ
- 4. 眼球の傷を治す
といった役割がありますが、涙の量や質の低下によって本来の涙の役割がはたせなくなってしまうことでドライアイの症状がでてきます。
ドライアイは「目の生活習慣病」とも言われています。スマホやパソコンを見ているときは、まばたきの回数が減り、涙の量も減ります。意識してまばたきをする、時々目を休める、目を温める、などで涙の量と質がよくなります。ドライアイの治療は点眼をしながら改善をはかっていきます。

黄斑(おうはん)の病気
ものをみる時にとても重要な役割を担っている黄斑(おうはん)という部分があります。
この黄斑が様々な理由で穴が空いたり腫れたりすることがあるのですが、その場合は物が歪んで見えたりします。多くの場合、片眼のみに起こります。緑内障のところでもお伝えしましたが、片方の目が見えにくくなってももう片方の目が見えていれば、見えにくさに気が付きにくいのです。頭の中ではちゃんと見えているようでも、実際には片方の目は見えにくいわけなので・・・
「最近目が疲れる」「なんとなく見えにくい」と眼科に来られる方もいます。
それぞれの黄斑の病気にもよりますが、治療としてはレーザーや眼球への注射、手術などです。

網膜(もうまく)の病気
カメラのフィルムの部分にあたる網膜が、剥がれたり穴があいたりすることもあります。その際は、緑内障のときのように剥がれた部分や穴があいた部分が見えにくくなります。
視力に影響するところ(黄斑)まで剥がれてしまうと見えにくくなるのですぐに気が付きますが、周囲の部分が剥がれたり穴があいたりしても視力に影響がないので気が付かないことも多いです。「目が疲れる」「ずっと同じ場所に黒いものがみえる」「墨がたれたようなものが目のはしに見える」などの症状がある場合は、網膜に何らかの異常がある場合があるのですぐに眼科に行くことをお勧めします。
網膜に関する病気であれば、レーザーや手術などで治療します。
ここまでは、疲れ眼と間違えやすい目の病気の代表的なものをご紹介しました。 他にもいろいろありますが、何度もお伝えしているように日頃から片眼ずつにして見え方をチェックするなど、ご自分の目の見え方に関心をもつことが重要です。
4. 疲れ眼を解消するためには?
では「疲れ眼」には具体的にどんな対策をしたらよいのでしょうか?
目が疲れる理由の1番の原因は・・・「近くのものを長時間見続ける」ことです。
目は遠くのものを見ているとき、リラックス状態にあります。しかし、近くのものを見ようとする時は、目の筋肉を動かしてがんばってしまうのです。スマホやパソコンを見る時は
- ・ 20分おきに1分ほど遠くを見る
- ・ できるだけ近づいて見ない
- ・ まばたきを意識する
などをやってみましょう。
1時間おきに立ち上がって肩や腕をあげてストレッチするのも効果的です。それでも目が疲れるという場合は、メガネやコンタクトレンズを作業距離にあわせたものに変えてみるなども必要かもしれません。
ドライアイ傾向にある方は、時間があるときに目を温めてみてはいかがでしょうか?
集中して作業をしていると、20分おきに遠くを見る・・・といったことを習慣化するのはなかなか難しいとは思いますが、少し意識するだけで仕事の作業効率がアップしたり、快適なデジタル生活に変化するかもしれません。

5. まとめ
日本眼科啓発会議のアンケート調査にもありましたが、40歳以上の方で目に何らかの悩みがある方は約8割もいらっしゃいます。けれども、ご自身の症状が眼科に行くべきものなのか?そうでないのか?どうしてよいのかわからない方も多いというアンケート結果もでていました。
私たち視能訓練士の知名度の低さもそうですが、「目」に関して多くの方に関心をもってもらう活動を、ドクターやナースの皆さんと協力しながらもっとしていかなくてはいけないなと改めて感じました。
「疲れ眼」の症状は、様々な目の病気の症状のひとつでもあります。ご自分の目の変化や異常にいちはやく気がつけるのは、自分だけです。ぜひ毎日の生活の中で、ご自分の目に関心をもち、片眼ずつにして見え方を確認する習慣をもって頂けたら嬉しいです。
(視能訓練士 原りえ)