視力検査の謎を解明!眼科で検査する時によく見かける「気球」は何を検査しているの?

皆さんは眼科に行ったことがありますか?定期的に通院している方もいれば、産まれてこのかた眼科には一度も行ったことがない!という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
目に異常を感じた時だけでなく、自分にあったメガネやコンタクトレンズを作る際などでも眼科を利用しているという方も多いと思います。

行ったことがある方はお気づきかもしれませんが、眼科にはたくさんの検査器械があり、必要に応じていろいろな検査を行います。けれども、ひとつひとつ詳細に説明されたという経験がある方は少ないと思います。

今回は眼科専門の検査技師ともいえる「視能訓練士」が、眼科でおこなう検査の中でも最も一般的な検査である「視力検査」についてわかりやすくお伝えします。

診察の前におこなう検査にはどんなものがあるの?

診察の前におこなう検査にはどんなものがあるの?

皆さんが病院に行ったとき最初に会うのは誰でしょうか? まず最初にドクターに会う⋯ということはほとんどないと思います。

大抵の場合、受付の方が問診票をもってきて記入したり、今日の症状をお聴きしたりしますよね。

眼科でも同じく、来院されたらまずは「今日はどういった症状で来られたのか?」お話を伺います。

「視力が下がったようだ」
「最近目が疲れる」
「虫が飛んで見えるのが増えた」
「ものが2つに見える」
「眼鏡があわなくなった」
「目が充血している」
などなど⋯

眼科には様々な症状をお持ちの患者さんが来られます。

症状をお聴きしたら、その方の診断に必要な検査をおこないます。(まずはドクターに確認してから検査をおこなう眼科もあると思います。感染が疑われるような、例えば流行り目のような充血の場合はすぐに診察にまわします。)

実は、来られた患者さんほとんど全ての方におこなう検査があります。
それが「視力検査」です。

なぜなら、「視力検査」で得たデータは眼科の診断に必要なだけでなく、他の検査をする際にも必要になってくるからです。

また後ほど詳しくご説明しますが、眼科でおこなう視力検査は「矯正視力」検査です。

患者さんが「近視」なのか「遠視」なのか「乱視」なのかを検査しています。

これは、患者さんの目の状況のベースとなるデータになります。例えば、血液でいえば「A型」「B型」「O型」「AB型」と人によって血液型がわかれていますよね。このベースとなるデータは、その人が何らかの状況で輸血が必要になった際などで重要な情報になります。

「近視」なのか「遠視」なのか、そしてその度数がどれくらいあるのか?は血液型と同じくらい眼科分野では重要です。

眼科で視能訓練士がおこなう検査の多くは「視力検査」で得られたデータを参考にして、その人にあったレンズを使用して検査をしています。

ものが歪んで見える「黄斑変性」が疑われる際に「アムスラーチャート」という格子の中心をみてもらう検査がありますが、その際も視力検査で得られたデータをもとに手元がはっきり見えるようなレンズをかけてもらって検査をしています。

アムスラーチャート

「緑内障」の患者さんがおこなう「視野検査」でも、同様にその人にあったレンズを使用しています。
ものが2つに見えるという患者さんにおこなう「眼位検査」(がんいけんさ)では、斜視があるのかないのか、あればどの程度なのかを検査しますが、その際もその人にあったレンズを使用しています。

つまり「視力検査」で得られたデータはその他の眼科の検査にとって重要なデータになる⋯ということをご理解頂けたでしょうか?

ドクターの診察前には、「眼圧検査」もおこないます。
眼圧検査は、40歳以降のみとしている眼科もあったりするようですが、眼にシュッと風を当てて検査します。

ドクターの診察前におこなう検査は、実は他にもあるのですが⋯今回は代表的な検査をとりあげました。

「視力検査」が眼科的な診断や検査にとって非常に重要だということを、まずは知って頂けたらなと思います。

みなさんご存じ「視力検査」でわかること!

「視力検査」がとても大切な検査だということをご理解頂けた後は、その内容について詳しくご説明したいと思います。

眼科には行ったことがなくても、学校などで「視力検査」を受けたことがある人は多いのではないでしょうか?
学校でおこなう「視力検査」と、眼科で行なう「視力検査」に違いはありますか?という質問をよく頂きます。

学校などでおこなう「視力検査」は、おもに「裸眼視力」を検査しています。普段メガネを使用している生徒はメガネをかけた視力を検査します。

眼科では「裸眼視力」だけではなく、必ず「矯正視力」(きょうせいしりょく)を検査します。

「矯正視力」とは、メガネやコンタクトレンズなどで近視や遠視、乱視などを矯正した状態で測定した視力のことです。

眼科に行くと目盛りのような数字がはいった不思議なかたちのメガネをかけて視力検査をしませんか?その不思議なメガネは【検眼枠】(けんがんわく)といいます。

検眼枠

【検眼枠】にレンズを入れ替えながら、「今のレンズと前のレンズとどちらが見えやすいですか?」と何度も質問されたりしますよね。質問しながら患者さんの最高視力がでるまで、レンズを入れ替えながら検査しています。

【検眼枠】の目盛りは何のためにあるのか?と疑問に感じた方もいるのではないでしょうか?この分度器みたいな目盛りは、【乱視の軸】をあわせるために必要なのです。

具体的にお伝えすると、軸が90度の乱視なのか、軸が180度の乱視なのか?あるいはそれ以外の度の乱視なのか?が人によって違います。乱視がある患者さんには、私たち視能訓練士は【検眼枠】に瞬時に軸をあわせてからレンズをいれて検査しています。

その人にあっていない軸にレンズをいれてしまうと、検査時に最高視力をだせない原因にもなります。患者さんにいかに負担をかけずに乱視の軸を素早くあわせることができるかは、視能訓練士の腕の見せ所だと思います。

「裸眼視力」は日内変動や環境の変化で変わることが多く、眼科的にはどちらかというと「矯正視力」の方を重要視しています。毎回視力検査をする患者さんや、患者さんが多くて検査にあまり時間を割けない時は「裸眼視力」を検査せずに「矯正視力」のみを検査したりしています。

誤解されていることが多いのですが、「裸眼視力」が悪くても「矯正視力」で1.5などであれば視力に関しては問題ありません。つまりメガネをかけて視力がでていれば、眼科サイドからすると視力は悪くない⋯と考えます。

「裸眼視力」がいいことが「目がいい」と思っている方、割と多いのではないでしょうか?
おそらくそこが、【眼科の常識は患者さんの非常識】だなと思うところのひとつです。

メガネをかけても視力がでない状況のことは「弱視」といいます。私たち視能訓練士がなぜ「訓練士」というのかというのは、実はお子さんが「弱視」にならないための訓練をする仕事が本来の役割だからです。

視力検査をするときのコツとは?

視力検査をするとき、なんとなくわかるという感じで答えていいのですか?というご質問もよく頂きます。
はっきり見えないと答えてはいけないと思われている方も多いかもしれないですね。

実は、なんとなく見えていたら答えてもらった方がいいです。視力検査の時に見るアルファベットのCのようなものは「ランドルト環」といいます。19世紀後半にフランスの眼科医エドマンド・ランドルトが発表したことからこの名前がつきました。

日本ではランドルト環を使用している眼科が多いですが、国によってはランドルト環に似た記号を使用したり、アルファベットや絵などを使用しているところもあります。

視力検査をするときのコツとは?

ランドルト環を適当に選んでだしているような感じがするかもしれませんが、私たち視能訓練士は、実はちゃんとした法則に従ってだしています。先にお話した「乱視」がある方の場合、上と下の切れ目はわかるのに右と左の切れ目はわからない・・・といったことが起きたりします。

まぐれで正解したのかそうでないのかは、私たち視能訓練士は検査をしている過程でわかりますので、なんとなくでもいいのでわかったら答えてもらったほうがいいです。

正しい視力検査をするポイントとしては、目を細めないこと。
眼を細めてしまうと、ピンホール現象によって物がより見えやすくなる場合があります。正確な結果をだすためにも、できるだけ目を細めないで答えてもらうとよいと思います。

患者さんから「これは何の検査ですか?」とよく聞かれる検査があります。
それは、【気球がはっきり見えたり遠くに見えたりする検査】です。

気球がはっきり見えたり遠くに見えたりする検査

眼科やメガネ店に行かれたことがある方は必ず検査したことがあると思います。眼科に初めて来られる方のほとんどはこの検査をおこなうので「これは何を検査しているのですか?」とよく質問されました。

最近では、気球以外の絵を使ったオートレフラクトメーターも登場しているようですが、まだ少数なので気球以外の絵に出会ったら貴重かもしれません。

この検査は「オートレフラクトメーター」という器械を使っておこなう検査です。オートレフラクトメーターは、LED光を眼に当てて、はね返ってきた光を解析することで、左右の眼の角膜の形と屈折力(くっせつりょく)を測定します。簡単にいうと患者さんの目が「近視」なのか「遠視」なのか「乱視」があるのか?などがわかるだけでなく、それがどれくらいの強さなのか?ということまでわかります。

オートレフラクトメーター

それだけでなく、角膜の丸みである曲率半径(きょくりつはんけい)も測定できます。コンタクトレンズを処方される際に、処方箋や箱などに書いてある「BC」ベースカーブが角膜曲率半径の値です。ベースカーブは、その丸みの円を描いたときの半径をミリで表したもので、ベースカーブの数字が小さいと角膜の丸みが強く、数字が大きいと角膜の丸みがゆるやかということになります。

オートレフラクトメーター

オートレフラクトメーターの検査をすれば、ランドルト環を使った「矯正視力」の検査は必要ないのでは?と時々言われることがありますが⋯
結論から言いますとランドルト環を使った「視力検査」は必ず必要です。

なぜなら、オートレフラクトメーターの検査は、あくまでも目安のデータとして検査しているからです。実際に「矯正視力」を検査することで、患者さんの目がどれくらいの度数の近視なのか遠視なのかを改めて確認しています。オートレフラクトメーターで測定した結果のほうがデータ的に少し強めにでてしまうことや、他にもいろいろなことが原因で正しく結果がでない場合もあるので、実際に「矯正視力」を検査することはとても大切です。

眼科には数え切れないほどの検査がありますが、その中でも非常に重要な検査のひとつが「視力検査」です。人の見え方は十人十色なので、見え方を人に伝えることは非常に難しいですよね。

「以前よりも見えにくくなった⋯」と言っても
メガネをかけても見えにくいのか?
遠くを見る時に見えにくいのか?
それとも手元を見る時に見えにくいのか?
それを客観的に示すことができるのが「視力検査」です。

検査をする側からすると、実は「視力検査」は非常に難しい検査のひとつ。患者さんとのコミュニケーション能力が必要になってくるので、簡単なようで難しいのが「視力検査」だと思います。

「視力検査」をする際に必要な情報として、患者さんの日頃の目の状況であったり、ささいな違和感だったりを教えて頂けると検査がとてもやりやすくなります。

例えば⋯
「子どもの頃から右眼は弱視と言われて見えにくかった」
「左眼が急に見えにくくなった」
「右眼の見ようとするところが見えにくい」
などです。

自分の眼の変化は自分自身にしかわからないことも多いので、それを具体的に言葉にして頂ければ、私たち視能訓練士はその情報をもとに視力検査をおこなっていきます。

毎日の生活の中で、自分の眼の変化に気が付くためには日頃から片眼ずつにして物を見る習慣をつけておくといいかもしれません。

眼科の病気は早期発見・早期治療で治癒するものも多いので、何かいつもと違うなと思ったら、はやめに眼科に行くことをオススメします。その際に、「視力検査」が診断にとって重要な検査であるということをぜひ知って頂き、検査にご協力頂ければ嬉しいです。

まとめ

眼科では様々な検査をおこないますが、まずは多くの方が一度は体験したことがある視力検査について詳しくお話しました。
一般的な「いい目」と眼科サイドからする「いい目」に違いがあることをご理解頂けたでしょうか?

実際に眼科で視力検査をしていると、裸眼視力と矯正視力がこんがらがっているのかな?という患者さんをよく目撃します。今回の記事で、その違いと視力検査の重要性を知って頂き、眼科に行くことへの不安感を取り除けたら嬉しいです。

まずはご自分の眼に関心をもつこと!それは自分の眼を守ることだけでなく、眼科に行ったときの正しい検査や診断にも繋がります!
ぜひ今日からご自分の眼のこと、見つめなおしてみませんか?

(視能訓練士 原りえ)