老眼はいつからはじまる?症状がでるメカニズムや対処法について解説!

「物がぼやけて見える」「焦点が合うまでに時間がかかる」などの原因として知られる老眼は誰もが経験する眼の老化です。加齢によって徐々に見られる症状なので「この症状は老眼?」と悩む方もいるかもしれませんが、症状が開始するおおよその年代は決まっています。

本記事では、老眼の概要や症状がでるメカニズム、対処法、治療法についてお話しします。最後に皆さんがよく感じられる疑問についても答えていますので、老眼について気になる方はぜひお読みください。

老眼とは?

老眼は加齢によって物を見るときに焦点(ピント)を調節する力がおとろえ、手元などの近くの物が見えにくくなる病気です。自然な生理現象であり、全ての人が経験する視力の変化です。

焦点を調節する機能は、眼のなかの水晶体や毛様体という構造によって行われますが、歳を重ねるにつれてそれらの機能が落ちやすくなります。焦点の調節が上手くいかないため、近方や遠方など眼から対象物までの距離の変化にも対応しにくくなります。

老眼はいつから始まる?

老眼の症状は40代から始まりますが、症状の感じ方には個人差が大きいです。老眼の初期段階では近くの物を見続ける作業で眼が疲れやすくなるため、もともと遠視(※)の人は老眼の症状を自覚しやすくなります。

老眼は生活習慣や遺伝的な要因によって進行の速度が異なり、進行が早い人は慢性的な眼の疲れや頭痛などの症状が起こる可能性もあります。老眼の症状を自覚したら、二次的な症状につなげないためにも、早めに適切な対処を行うのが重要です。

(※)「遠視」は近方よりも遠方の物に焦点が合いやすい症状のこと。一方で「近視」は遠方よりも近方の物に焦点が合いやすい症状を指す。

老眼の症状

老眼の主な症状には以下になります。

  • ・ 近くの物がぼやけて見える
  • ・ 距離が異なる物に焦点を合わせるのに時間がかかる
  • ・ 新聞や本の細かい字が眼から遠ざけないと読みづらい
  • ・ 暗い場所での読書や作業が困難になる
  • ・ 近くの物を見続けると以前より早く眼が疲れる
  • ・ 慢性的な頭痛や肩こりを感じる

老眼の症状は歳を重ねるにつれて進行し、日常生活に支障をきたす可能性が高くなります。日頃からデスクワークや読書の機会が多い方は、仕事や日常生活で不便に感じる場面も増えるでしょう。

老眼の原因

老眼の原因

老眼の主な原因は加齢によって水晶体と毛様体の機能が落ちて、眼の調節機能が低下することです。以下の主な眼の構造と機能について説明します。

眼の構造機能
角膜 涙で眼球の表面を保護しながら光を通す
水晶体 眼に入る光を屈折させて、対象物に焦点を合わせる
毛様体 縮んだり緩んだりしながら水晶体の厚さを調節する
虹彩 瞳孔の大きさを変えながら眼に入る光の量を調節する。暗い場所では光を多く取り入れ、明るい場所では光を制限する
網膜 眼に入って屈折された光を1点に結ばせる
視神経 眼に入った情報を脳に伝達する

眼で見た近くの物を脳で認識するまでのメカニズムは以下になります。

  • 1. 角膜や水晶体に光(情報)が入ってくる
  • 2. 虹彩が入ってくる光の量を調節する
  • 3. 毛様体がゆるみながら水晶体を厚くし、光の屈折角度を調節する
    (※ 遠くの物を視るときは毛様体を縮ませて水晶体を薄くする)
  • 4. 屈折された光は網膜で1点に結ばれ、視神経を通って脳に情報が伝わる
眼で見た近くの物を脳で認識するまでのメカニズム

加齢が進むと水晶体は硬くなって弾性力が失われ、毛様体の筋力も低下します。水晶体と毛様体の機能が低下すると、環境の変化に応じて光の屈折角度がうまく調節できなくなり、入ってきた光が網膜より手前や後ろで1点に結ばれることになります。
網膜上で光が結ばれない状態になると、対象物に焦点が合わないまま脳に情報が伝達するため、見えにくくなる現象が現れるのです。

老眼の予防法

老眼は老化によって誰しもがかかる病気なので、完全な予防はできません。しかし、生活習慣を整えることで症状の進行を遅らせるのは可能です。

眼のストレッチ
眼の周りの筋肉を動かしましょう。1日1セット(パソコンなどの作業中は1時間に1回)行うと効果的です。老化による眼の調節機能の低下を遅らせる効果があります。

・ 眼球を動かす筋肉のストレッチ
眼球をできるだけ大きく回転させたり、左右に大きく視線を移動させたりしましょう。眼球を動かす筋肉が効率良く伸ばされて、疲労が軽減されます。

・ まぶたを閉じる筋肉のストレッチ
まぶたを閉じた状態から2〜3秒まぶたに力を入れた後に、力をゆるめて眼をパッと開ける運動を繰り返します。筋肉が縮まったり緩んだりする作用が起こるため、まぶたを閉じる筋肉のストレッチにつながります。

眼にやさしい栄養素を摂る
眼の構造のはたらきや回復を促す栄養素を摂ることで、老眼の症状の進行を抑えられます。以下の栄養素の摂取を意識しながら、毎日バランスの良い食事を摂りましょう。

栄養素はたらき食べ物の例
ビタミンA 角膜や網膜のはたらきや、細胞と粘膜の新陳代謝を促す レバー、うなぎ
ビタミンB群 水晶体や毛様体の新陳代謝を促す 豚肉、しじみ
ビタミンC 水晶体の透明度を維持する キウイフルーツ、赤ピーマン
アントシアニン 抗酸化作用で眼の血行を良くする カシス、ブルーベリー
ルテイン 紫外線やブルーライトの吸収を抑える ほうれん草、アボカド
亜鉛 角膜や網膜をつくる 牡蠣、レバー
栄養素 ビタミンA
はたらき 角膜や網膜のはたらきや、細胞と粘膜の新陳代謝を促す
食べ物の例 レバー、うなぎ
栄養素 ビタミンB群
はたらき 水晶体や毛様体の新陳代謝を促す
食べ物の例 豚肉、しじみ
栄養素 ビタミンC
はたらき 水晶体の透明度を維持する
食べ物の例 キウイフルーツ、赤ピーマン
栄養素 アントシアニン
はたらき 抗酸化作用で眼の血行を良くする
食べ物の例 カシス、ブルーベリー
栄養素 ルテイン
はたらき 紫外線やブルーライトの吸収を抑える
食べ物の例 ほうれん草、アボカド
栄養素 亜鉛
はたらき 角膜や網膜をつくる
食べ物の例 牡蠣、レバー

定期的に眼科検診を受ける
40歳を過ぎたら年に1回は眼科検診を受け、眼の健康状態をチェックしましょう。眼科検診では視力や眼圧、視野などの検査を行うため、眼のどの機能が落ちているか明らかになります。
眼科検診では老眼以外にも、緑内障や糖尿病網膜症、網膜色素変性症、加齢黄斑変性などのリスクについても調べられます。視力の低下は放っておくと最悪の場合失明に至る可能性もあるため、定期的に眼の状態を確かめるのが大切です。

老眼の対処法

老眼の対処法では、個人に合った専用の眼鏡やコンタクトレンズを利用します。それぞれ詳しく見ていきましょう。

眼鏡
老眼の一般的な対処法は老眼鏡の使用です。眼鏡の専門店では一人ひとりの眼の状態に合わせて作成してもらえるため、老眼による視力低下が適切に矯正されます。
老眼鏡には主に以下のタイプがあり、生活スタイルや使用目的によって異なります。

【単焦点老眼鏡】
近距離用もしくは遠距離用のどちらかの度数が入った老眼鏡です。対象物の距離を変えたときに見えにくくなる可能性がありますが、視野が広く保てるメリットがあります。

【遠近両用レンズ】
近距離用と遠距離用の度数が入った老眼鏡です。目線を変えることで近方と遠方の対象物に対して焦点を合わせられます。

【累進屈折力レンズ】
近距離用と遠距離用に加え、中距離用の度数が入った老眼鏡です。環境の変化に応じて焦点を合わせるのがスムーズになりますが、慣れるまで時間がかかる可能性があります。

コンタクトレンズ
普段からコンタクトレンズを使用している人やメガネを避けたい人向けに、老眼用のコンタクトレンズも開発されています。コンタクトレンズの使用は、眼のなかに異物を入れるため眼病になる可能性もあり、適切な管理と定期的な眼科検診が必要です。

【低矯正コンタクトレンズ】
度数をやや低めに設定して、近方の対象物を見えやすくする方法です。遠方を見たときの視力が低下する欠点があります。

【モノビジョン】
片眼の度数は近距離用、もう片眼に遠距離用に合わせて作成されたコンタクトレンズです。両眼で近距離と遠距離の両方に対応できますが、慣れるまでに時間がかかるのと、人によって疲れやすくなる可能性があります。

【多焦点コンタクトレンズ】
近距離用や遠距離用、中距離用の度数が入ったコンタクトレンズです。レンズの上方と下方に異なる度数を設定するセグメント型や、レンズの中央から周辺に向かって度数が移行する同心円型があります。さまざまな焦点距離に対応できますが、鮮明度が落ちるためはっきりとした見え方は難しいです。

老眼の治療法

老眼はレーシック手術や多焦点眼内レンズなどの手術で治療できます。老眼に効果のある薬物療法の研究も進んでいますが、日本の医療機関では処方できません(2024年8月現在)。

レーシック手術
レーシック手術はレーザーを当てて角膜の形状を変え、光の屈折力を調節して視力を矯正する手術です。老眼のレーシック手術は、モノビジョンが用いられ片眼を近距離用、もう片眼を遠距離用に矯正します。

レーシック手術はやり直しができなかったり、人によってはモノビジョンが合わなかったりするケースもあるため、手術前に見え方をシュミレーションすることが大切です。角膜が薄い方や遺伝性の重度の眼病がある方などは受けられません。

多焦点眼内レンズ
老眼の原因となる水晶体を多焦点の眼内レンズで置き換える手術です。老眼で適応となる多焦点眼内レンズは、近距離から遠距離まで複数の焦点を持っているため、老眼の症状を軽減できます。
レンズの効果は半永久的ですが、夜の光がにじんだりコントラストが悪くなったりする可能性もあるため、事前に主治医とよく相談することが大切です。

薬物療法
老眼に対する治療薬で研究が進んでいるのは、瞳孔の収縮を促す点眼薬と、水晶体が硬くなるのを抑制させる点眼薬です。 瞳孔収縮効果のある点眼薬は、眼に入る光の量を制限させて焦点を深くし、物がはっきりと見えるピンホール効果が期待できます。
水晶体の硬化を抑えるリポ酸コリンエステル点眼薬は、水晶体内のタンパク質の結合を抑えて硬くなるのを防げる可能性があります。

老眼のQ&A

老眼のQ&A

老眼のよくあるご質問についてまとめました。

Q. 近視の人は老眼になりにくいのは本当ですか?
A. 老眼は近視の人でも発症します。しかし、近視の人は近くの物に焦点が合いやすいため、老眼の症状を自覚しにくいかもしれません。普段使用している眼鏡を使用すると近くの物がぼやけるなどの現象が現れることがあります。
自覚できる症状が少なくても40歳を過ぎたら眼科検診で眼の状態を確認して、適切な対処法を行うことが大切です。

Q. 老眼はサプリメントで治せますか?
A. サプリメントだけで老眼を治すことはできません。しかし、ルテインが含まれている眼専用のサプリメントなどは、眼の健康を維持し、老眼の進行を遅らせる可能性があります。
サプリメントは薬ではなく、特定の栄養素を補うための健康食品です。毎日バランスの良い食事を3食摂ったうえで、使用上の注意に従いながら補助的な栄養素として摂取してください。

Q. 老眼は回復しますか?
A. 老眼は加齢による生理的な変化であり、自然に回復することはありません。しかし、適切な対処法を用いることで症状の進行を抑えたり、快適な視生活を送ったりするのは可能です。
老眼の治療薬に関する研究も進められているので、今後の発展に期待が持てるでしょう。

まとめ

まとめ

本記事では老眼の開始時期や症状がでるメカニズム、日常生活で行える対処法について解説しました。

老眼は40代から始まる自然な生理現象で、近くの物がぼやけて見えたり、距離が異なる物に焦点を合わせるのに時間がかかったりします。老眼の原因は加齢による水晶体の硬化と毛様体の機能の低下です。

対象物に焦点を合わせる調節機能が低下し、環境の変化などの対応が難しくなります。老眼は回復が難しい病気ですが、眼の運動や適切な栄養素の摂取、定期的な眼科検診などにより進行を遅らせるのは可能です。

日常生活でも個人に合った老眼鏡やコンタクトレンズなどの補助装置を使用すると、快適に維持できます。現在では補助装置がなくても生活できるようにレーシック手術や多焦点眼内レンズなどの手術療法も開発されています。

老眼は誰もが経験する自然な変化です。適切な対処と前向きな姿勢で、年齢を重ねても快適な視生活を楽しみましょう。

(松村 はるか)

参考文献
  • 公益財団法人 日本眼科学会 老視
    [ https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=36 ]
  • 公益財団法人 日本眼科医会 40代で始まる目の老化
    [ https://www.gankaikai.or.jp/health/37/index.html ]
  • 日本老視学会 老視(老眼)とは
    [ https://www.rousi.jp/general ]
  • 日本予防医学協会 眼の老化「老眼」を知ろう! 健康づくりかわら版
    [ https://www.jpm1960.org/kawara/01/post-3-4.html ]
  • 公益財団法人 日本眼科医会 目の定期検査のすすめ
    [ https://www.gankaikai.or.jp/health/43/index.html ]
  • 日本老視学会 目の病気
    [ https://www.nichigan.or.jp/public/disease/treatment/item08.html ]
  • 厚生労働省医薬食品局食品安全部 健康食品の正しい利用法
    [ https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/dl/kenkou_shokuhin00.pdf ]
  • 日本医師会 「健康食品」・サプリメントについて
    [ https://www.med.or.jp/people/knkshoku/ ]
  • 小林義崇:栄養も考えてみよう,こんな病気 2.眼と栄養. 動物臨床医学, 29(2),47-49,2020
    [ https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/29/2/29_47/_pdf ]