溶連菌

子どもの「のど風邪」の代表格である「溶連菌」。

新型コロナウイルス感染症が「5類感染症」に移行して以後(2023年5月)、報告数が増え、2023年12月には過去6年間で最も多くなりました。その後も例年と比較すると非常に多い患者数で推移しています。また「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome:STSS)」のニュースも相次いでいます。

今回は子どもにおける、溶連菌の症状・合併症、受診の目安、ホームケアなどについて解説します。

1.  様々な症状を引き起こす「溶連菌」

(1) メインの症状は「発熱」「のどの痛み」
溶連菌とは、主に「A群β溶血性連鎖球菌」という細菌のことです。

子どもの「のど風邪」の代表格で、「発熱」「のどの痛み」がメインの症状になります。のどの違和感や痛みから、嘔吐することもあります。また舌が真っ赤になる「いちご舌」が見られることもあります。

季節としては、冬や春にかけて流行することが多いです。また以前は、学童期(小学生の年代)が最も多く、3歳未満などの乳幼児は少ないと言われていました。ただし近年は0歳代から保育所など集団生活を送るお子さんも増えたこと、また迅速検査の診断率が上昇したことなどから、0〜3歳のお子さんでも診断される例が増えてきています。

なお鼻水や咳は、めだたないことが多いです。ただしお子さんの場合は、ウイルスの感染症(いわゆる風邪)と溶連菌の感染症を合併することも多いため、この場合は、鼻水や咳が見られることもあります。

溶連菌の潜伏期間は2〜5日。つまり溶連菌を実際にもらってしまってから、2〜5日間の間に、症状が出ることがあります。保育園・幼稚園や学校、また家族で誰かが溶連菌になってしまった後、これくらいの期間は、お子さんが発症する可能性があるということです。

さらに、溶連菌には型が何十種類もあります。よって溶連菌に複数回かかることは、よくあります。

(2) 猩紅熱(しょうこうねつ)
溶連菌は「猩紅熱」という病気も引き起こすことがあります。

年齢としては5〜10歳ころに多く、発熱して12〜24時間した後に、全身に赤い発疹が出ます。日焼けのような赤みや、ブツブツ・ザラザラしたような赤みが出ます。その後1週間くらいたつと、皮ふがうすくはがれ落ちてくる、という症状です。

(3) 伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん、(別名)とびひ)
溶連菌は「伝染性膿痂疹(とびひ)」を起こすこともあります。

これは溶連菌に感染した後に、水ぶくれや、かさぶたなどが生じるものです。鼻や口まわりなどの顔面のほか、お腹や背中、手足など全身どこでも見られることがあります。水ぶくれやかさぶたの中に原因の菌がひそんでいるので、ひっかくと、さらに他の部位にも病変が広がります。

皮ふの症状については、こちらのHPも参照ください。
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa13/q01.html

2. 合併症で注意すべきは「腎炎」「リウマチ熱」

様々な症状を起こす溶連菌。もともと健康なお子さんであれば、通常は数日で改善することがほとんどですが、まれに合併症を発症することもあります。

(1) (溶連菌感染後)急性糸球体腎炎
溶連菌に感染して1〜2週間後(とびひなどの皮ふ感染症の場合は、3〜6週間後)に、腎炎を生じる病気です。具体的には、血尿や、目の周りなど顔がむくむような症状がみられます。

10万人あたり2〜3人という稀な頻度であることもあり、通常は心配ありません。ただし医療機関によっては、溶連菌と診断した後に、尿の検査のために再度受診を勧めているところもあります。

(2) リウマチ熱
溶連菌に感染した後、心臓や関節に炎症が起きたり、発熱がずっと続くという症状が見られます。

こちらは(1)の腎炎よりさらに稀と言われている合併症です。ただし治療が不十分な場合は、リウマチ熱を併発しやすいともいわれており、しっかり処方された期間、薬を飲みきることが大切です(治療については後述)。

3. 診断は「迅速診断キット」で

溶連菌に感染しているかどうかは「迅速診断キット」で診断することがほとんどです。綿棒でのどの赤い部分をこすって、専用の試薬につけることで判断します。キットのメーカーにもよりますが、5分〜10分で判定できます。

ただし検査で陰性だったからといって、必ずしも溶連菌にかかっていない、と断定はできません。発熱してから時間が十分に経っていないなどで、のどの菌の量が少ないと、実際には溶連菌にかかっていても、陰性になってしまうこともあります。実際に医療機関によっては、発熱してから12時間あるいは24時間たっていないと、検査を受け付けていないところもあります。検査を受けたい場合は、事前に確認してから受診するとスムーズです。

なお数週間や数ヶ月のうちに、何度も迅速診断キットで陽性になってしまう場合は「保菌者」の可能性が高いです。お子さんの15〜30%は、溶連菌が常にのどにいる「保菌者」であるともいわれており、珍しいことではありません。単なるウイルスの感染症(いわゆる風邪で)喉が痛かったり、熱が出たりしているだけなのに、検査をすると、いつものどにいる溶連菌が陽性になってしまうため、毎回抗菌薬を処方される、というケースがよくあります。保菌者でも、症状がなければ、周りに感染させることもないので、抗菌薬を飲む必要はありません。あまりに迅速診断キットで陽性が頻繁に出る場合は、医師に相談してください。

4. 治療は「抗菌薬」を「処方された日数分」しっかり飲み切ること

溶連菌は細菌なので、治療は「抗菌薬」です。薬の種類によって、10日間や5日間など差はありますが、いずれにしても「処方された日数分しっかりと飲み切ること」が重要です。

特に合併症の一つであるリウマチ熱は、「治療が不十分の場合に、生じやすい」という特徴があります。途中で熱が下がったり、のどの痛みがおさまったりしても、必ず飲み切りましょう。

加えて、伝染性膿痂疹(とびひ)を起こした場合は、お肌のケアも必要になります。症状次第では、飲む抗菌薬だけではなく、肌に塗る抗菌薬を処方されることもあります。ホームケアも大切です。原因となる菌を除去するために、石けんを使って、全身をやさしく洗います。家族間での感染を防ぐために、とびひにかかっているお子さんが一番最後に入浴できるとベストです。お風呂に入っていない時間帯は、ガーゼで保護するなどして、お子さんや家族が病変に触れないようにすることも大切です。
また爪を短く切っておきましょう。とびひの部分をかきむしることで、さらに病変が広まって、治りが遅くなってしまうからです

5. 再受診の目安は「熱が下がらない」「尿が赤い・まぶたがむくんでいる」「登園・登校許可書が必要」

通常であれば、抗菌薬を飲んで数日で症状は改善します。ただし薬を飲んで2〜3日たっても熱が全く下がらない場合は、再度受診を検討してください。この場合は、溶連菌以外の感染症にも同時に感染している可能性や、あるいは感染症以外の病気にもかかっている可能性などを考えます。

またお子さんが薬を飲むのを嫌がって全く飲めない場合や、嫌がって薬を吐いてしまった・あるいは間違えて薬をこぼしてしまった、などで薬の日数が足りなくなってしまった場合も、再度受診を検討してください。

さらに「尿が赤い・まぶたがむくんでいる」などの症状があるときも、再度受診してください。頻度は稀ですが、溶連菌の合併症でもある、急性糸球体腎炎の可能性があるからです。

なお保育園・幼稚園・小学校に登園・登校を再開したい場合も、再受診が必要です。「保育所における感染症対策ガイドライン」や「学校保健安全法」に記載のとおり、「抗菌薬の内服後24~48時間が経過していること」が、再登園・登校の目安です。薬を飲んで熱が下がって、24〜48時間が経過したら、医療機関を受診し、医師に「登園・登校許可書」を書いてもらってください。

さらに補足として、伝染性膿痂疹(とびひ)の場合は、登園・登校の際に、病変の場所をガーゼなどで覆う必要があります。また治るまで、水遊びやプールには参加しないことも、日本皮膚科学会などが声明を出しています。

6. 「基本の手洗い・うがい」で家族間感染を防ぐ!

溶連菌は幼稚園、保育園、小学校での集団感染はもちろんのこと、家庭内での感染も多く発生します。子どもの溶連菌の感染経路をみたときに、兄弟間での感染が25%を占めるという報告もあり、家庭内での対策も欠かせません。

とはいえ、消毒剤などが効くわけではないので、基本の手洗い・うがいが大事になります。また子ども同士、接触するなといっても難しいことも多いでしょう。食器の共用を避けるなど、できる範囲でトライできれば良いですね。なお食事については、のどが痛くても食べやすいものが良いです。具体的には、のどごしが良いもの(ゼリー、ヨーグルト、プリン、スープなど)や、消化の良いもの(おかゆ、うどん、とうふ、茶碗蒸し)がおすすめです

7. 「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」は小児では稀だが、今後の動向に注意

成人では死亡例も出ている「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」。新型コロナウイルス感染症への対策が緩和された2022年以後から、世界的に増加傾向がみられています。

多くは30歳以上の成人といわれており、もちろん子どもでも発症することはありますが、成人と比較すると頻度は稀です。具体的には、2024年1月1日から6月2日まで、計337例の劇症型溶血性レンサ球菌感染症が報告されていますが、うち小児は20例(全体の5.9%)でした。厳密に言うと「10代」つまり16歳〜19歳という年齢層も含まれているので、0歳〜15歳の割合は更に低い可能性があります。さらに2024年6月2日時点で、小児の死亡例は報告されていません。

過剰に恐れる必要はありませんが、溶連菌と診断された場合にしっかりと抗菌薬を飲み切ることは、変わらず大切です。

8. まとめ

溶連菌の代表的な症状は、発熱やのどの痛みですが、その他にも嘔吐や皮ふの症状など、様々な症状がみられることがあります。

診断された場合は、処方された日数分、抗菌薬をしっかりと飲み切ることが、合併症(リウマチ熱など)を防ぐために重要です。

治療を開始してから、基本的には数日で改善します。万が一熱が下がらない場合、血尿や顔のむくみなどが見られる場合は受診しましょう。また登園・登校の再開には「登園許可書」が必要なので、必ず再度受診してください。

一生の間に何度もかかり、また家族間での感染率も高い感染症なので、基本の手洗いやうがいを徹底しましょう。なお「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」は成人と比較すると小児では稀なので、過度に恐れすぎる必要はありません。

(白井 沙良子)

参考文献
  • 国立感染症研究所、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは
    [ https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus-intro.html ]
  • 国立感染症研究所、国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について
    [ https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcusm/2656-cepr/12594-stss-2023-2024.html ]
  • 国立感染症研究所、劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
    [ https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/341-stss.html ]
  • 厚生労働省、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)
    [ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137555_00003.html ]
  • 日本小児科学会、学校、幼稚園、認定こども園、保育所において予防すべき感染症の解説
    [ https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=46 ]
  • こども家庭庁、保育所における感染症対策ガイドライン(2018 年改訂版)
    [ https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e4b817c9-5282-4ccc-b0d5-ce15d7b5018c/c60bb9fc/20230720_policies_hoiku_25.pdf ]
  • 日本皮膚科学会、皮膚科Q&A、とびひ
    [ https://www.dermatol.or.jp/qa/qa13/q01.html ]
  • 日本臨床皮膚科医会、ひふの病気、とびひ
    [ https://plaza.umin.ac.jp/~jocd/disease/disease_33.html ]
  • 長野県佐久医師会、教えて!ドクター、溶連菌
    [ https://oshiete-dr.net/yourenkin/ ]
  • 東京都感染症情報センター、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の流行状況
    [ https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/group-a/group-a/ ]
  • 松本ほか、A群溶連菌感染後の尿検査の必要性、日本小児科学会誌、121:1161-1165,2017