言語聴覚士とは?資格や仕事内容について解説します!

言語聴覚士とはどんな資格?

言語聴覚士とは、ST(Speech Therapist)とも言われるリハビリの国家資格で、言葉でのコミュニケーションや食べ物を飲み込む動作である嚥下に問題を抱える患者さんを対象にリハビリを行います。脳素中や認知症による発声・嚥下障害だけでなく、聴覚障害や小児の言葉の発達遅延など、小児から高齢者まで幅広い患者さんが対象者です。

簡単にまとめれば、言語聴覚士とは言葉によるコミュニケーションに問題がある方に、専門的な知識をもとにしたサービスを提供し、患者さんが患者さんらしい生活を送れるように支援するリハビリ専門職と言えるでしょう。

理学療法士・作業療法士との違いは?

言語聴覚士と同じリハビリ職で国家資格の理学療法士・作業療法士との違いはなにでしょうか。大きく違う点として、理学療法士・作業療法士は体を動かすためのリハビリですが、言語聴覚士は体を動かすことに重きは置いていません。その代わり、言葉の障害や嚥下障害など、頚部から上の障害へのリハビリに特化しています。

理学療法士や作業療法士はもちろんそれぞれに専門性がありますが、理学療法士の仕事を作業療法士が担う場面もあります。体を動かすという目的において、この2つの国家資格には似ている部分もあるので、簡単なことであれば代わりになれることもあります。しかし言語聴覚士のリハビリはリハビリ職の中でも特殊な分野になります。そのため、理学療法士や作業療法士が言語聴覚士の代わりをすることは非常に難しいのです。このように同じ国家資格のリハビリ職でも少し特殊な存在が言語聴覚士です。

言語聴覚士が対象にする疾患とは?

言語聴覚士が対象にする疾患として挙げられるものでは脳卒中後の失語症があります。失語症とは脳卒中によって脳がダメージを受け、言葉の意味がわからなくなるほか、言葉を発せられなくなるためにコミュニケーションが取れなくなる疾患です。この失語症に対するリハビリをする場面が多くみられます。具体的には言葉の意味を再教育するほか、発声・発語の練習を行います。

同様に多いのが嚥下・摂食障害です。嚥下・摂食障害は脳卒中だけでなく、単純な老衰などでの体力の低下によっても生じます。この摂食・嚥下障害によって生じる誤嚥性肺炎による死亡率が高くなっているため、患者さんの命を守るためにも摂食・嚥下に対するリハビリはとても重要なのです。単純に飲み込むための練習を行うだけでなく、患者さんが誤嚥をしにくくなるような環境を設定するのも言語聴覚士の仕事と言えるでしょう。

これらの疾患に加えて、小児の言語・認知遅延のサポートや聴覚障害についても対象としてリハビリを行います。このように、高齢者だけでなく最近では小児に対してもかつ100の場を広げており、需要が高まっているリハビリ職なのです。

言語聴覚士が行うリハビリの内容は?

先ほども申し上げた通り、言語聴覚士は言語によるコミュニケーションや食べ物を飲み込む嚥下を専門とした、話す・聞く・食べる動作のスペシャリストと言えます。患者さんが一人一人抱える問題はさまざまで、それぞれの原因を解明し、対処方法を考え、患者さんに適したリハビリを提供して症状を改善していくのが言語聴覚士の仕事です。では具体的にどのような内容にリハビリを行うのか、一つずつ説明していきます。

嚥下・摂食の練習
食べ物を口の中に含んでもこぼしてしまったり、飲み込みがうまくいかずむせてしまったりする患者さんがいます。そのため、食事がうまく取れない状態となるのです。こういった患者さんの食事がうまくいくよう、飲み込みの反射を高めるリハビリを言語聴覚士が行います。

成人言語・認知の練習
認知症や脳卒中などで脳にダメージがおよび、脳機能が低下すると言語障害が引き起こされます。言語障害では言葉にしたくてもできない、表現できない、また理解できないなどの問題が起こりがちです。そこで、言語聴覚士が自分の言葉を表現でき、また会話を理解できるようにリハビリを行います。

発声・発語の練習
成人言語・認知障害のほかに、失語症や構音障害、高次脳機能障害が起こると発声・発語に障害が生じる可能性があります。その場合、言葉を表現できないのではなく言葉を発することができません。そういった患者さんが発生できるようになるように、言語聴覚士がアプローチします。

小児言語・認知の練習
子どもによって言葉の理解が遅い、発声がうまくいかないなど成長に応じた発達が出てこない場合があります。そういった子どもに対して言葉を引き出したり、文字を習得できるように絵本やおもちゃなどを用いて指導を行い、成長を促します。子どもに対する練習だけでなく、教育機関やご家族と協力し、子どもが成長していく環境を整えるのも言語聴覚士の仕事です。

聴覚支援
生まれつき、もしくは事故などの理由で後天的に聴覚障害が起こりえます。言語聴覚士は聴覚検査に加え、ヒアリングを行なって患者の生涯を検査し、補聴器や人工内耳を調整して患者の聴覚支援を行なっていきます。

誤嚥ってどんな問題?

言語聴覚士がリハビリを行う上で大きな目的のうち、誤嚥の防止が挙げられます。誤嚥とは摂食障害の一種で、飲み込んだ食物が食堂ではなく、誤って器官の方に入り込むことを言います。通常人がものを食べるとき、食べ物を細かく噛み砕いて飲み込むことで食堂を通って胃に送り込まれるのですが、その際に期間に入り込まないように飲み込む際に蓋がされます。この蓋を閉める反射がうまくいかない際に気管に入り込んでしまうことがあり、それを誤嚥というのです。

誤嚥が起きてしまい、気管に食べ物が入ってしまうことで誤嚥性肺炎という病気になるかもしれません。この誤嚥性肺炎とは文字通り、誤嚥によって引き起こされる肺炎を指します。

この誤嚥性肺炎の恐ろしいところは、市に直結する可能性が高いというところでしょう。なぜなら、令和3年において、死因の第6位になるほど高い死亡率になっているからです。

主な死因の構成割合

厚生労働省が発表したデータを見ると、令和3年に亡くなった方のうち3.4%、数にすると5万人に近い方が誤嚥性肺炎によって亡くなってしまっているのです。

このように、誤嚥してしまうということは非常に恐ろしいことと言えるでしょう。そのため、言語聴覚士による嚥下リハビリは非常に重要なのです。ただし、誤嚥は低体力な患者さんに引き起こされやすいと言われています。寝たきりや座位姿勢を適切に保てない場合、誤嚥しやすい状態です。つまり、嚥下リハビリだけでなく、体力をつけるための運動も必要になってきます。誤嚥を防ぐためには言語聴覚士の嚥下練習だけでなく、理学療法士やトレーナーによる体力づくりも重要と言えますね。

誤嚥に対するリハビリとは
誤嚥に対してのリハビリはまず誤嚥の原因を考えることから始めます。喉の器質的な問題なのか、機能的な問題なのか、もしくは心因性か。それぞれの原因に合わせて言語聴覚士が適切なリハビリを行います。

基本的なところでは口腔ケアから始めます。誤嚥性肺炎は誤嚥によって肺に細菌が入り込むことで発症しますので、口腔内が清潔であればそれだけで肺炎予防になるのです。そこから嚥下体操として、口や舌、頬の筋肉や首周りの筋肉を鍛えます。そうすることで嚥下に必要な筋力を強化し、誤嚥を予防するのです。

飲み込む練習も徐々に行いますが、いきなり食べ物では行いません。まずは患者さん自身の唾液から始め、ゼリーなどの柔らかいものから徐々に固形物を飲み込む練習をしていきます。いきなり難しい食べ物からではそれこそ誤嚥してしまいますので、少しずつ難易度を上げていかなければいけません。

また、口腔内機能だけでなく姿勢保持も重要となります。姿勢によっては食べ物を飲み込んだ時に気管に入り込みやすく、誤嚥のリスクが高まるのです。そのため、誤嚥しにくい姿勢を指導し、またその姿勢を保持する練習が必要なのです。

言語聴覚士が働く場所は?

言語聴覚士はリハビリ職として、さまざまな施設で活躍しています。そこで、言語聴覚士が活躍する施設を紹介しますので、ご覧ください。

医療機関
主にリハビリテーション科のある病院に就職することが多いでしょう。リハビリテーションセンターや回復期病棟に勤めることが多くなります。急性期では食事や発声より優先される治療が多いため、言語聴覚士は回復期以降で活躍する場面が多いリハビリ職です。また、リハビリ職としては珍しく口腔外科で活躍される方もいます。

介護・福祉施設や訪問リハビリ施設
特別養護老人ホームやデイサービス・デイケアなどの高齢者を対象とする施設や訪問リハビリも活躍の場となります。食事をとって摂食嚥下障害のリハビリを行う以外にも、レクリエーションを通して発声することで言語・認知機能に対してもアプローチします。

また、福祉機関と聞くと高齢者対象と考えがちですが、児童を対象とする福祉施設でも言語聴覚士は活躍します。発達障害を持つ児童への言語理解を深め、コミュニケーションをとる練習を通しての発声練習など、役割は多岐に渡るのです。それだけでなく、ご家族への指導やアドバイスも言語聴覚士の重要な役割です。

教育機関
小中学校や特別支援学校での言語発達を促す役割も言語聴覚士が担う場合があります。この場合は教員免許も必要となりますが、徐々に学校で活躍する言語聴覚士は増えている傾向にあるようです。

徐々に高まる言語聴覚士の需要

言語聴覚士の需要は年々高まっています。その背景にあるのは日本の超高齢化社会です。超高齢化社会を耐えるために、「地域包括ケア」という仕組みが確立されており、言語聴覚士をはじめとするリハビリ職や看護師・ケアマネージャーなどさまざまな職種が連携して課題解決に取り組んでいるのです。

その中でも前述した通り、誤嚥性肺炎という高齢者にとって死に直結する疾患を予防できる存在として、言語聴覚士の需要が高まっています。また、医療技術の発達によって、脳卒中からの生還率も高まっていますが、同時に後遺症に苦しむ患者さんも増えてしまいました。その後遺症に対するリハビリに取り組むのも言語聴覚士の大きな役割です。

また、近年では小児リハビリに対するニーズも高まっています。発達の問題や生まれつきの難聴で言語・聴覚・食事の問題を抱える児童も多くおり、そういった児童の成長を促して上げる役割が求められているのです。ただし、まだ小児領域で活躍する言語聴覚士は少ないのが現状で、今後増えていくことが期待されています。

言語聴覚士は今後活躍が期待されるリハビリ職

言語聴覚士はリハビリ職の中でも特に専門性が高く、今後の超高齢化社会に向けて欠かせない存在となるでしょう。話す・聞く・食べることに関してのリハビリであれば、言語聴覚士でなければ対応できません。

また高齢者のみならず、小児に対しても非常に重要な存在です。成長に合わせて発達を促すためのリハビリは今後の需要が見込まれます。

もし周りに話す・聞く・食べることでお困りの方がいらっしゃれば、ぜひ言語聴覚士に相談してみてください。

(福田 翔馬)