小児と高齢者の腹痛について・原因から緊急性のある疾患を徹底解説!
小児と高齢者が起きやすい症状の一つに腹痛があります。
腹痛は、発熱と同様におこりやすい症状といえます。
腹痛には、痛みの部位や強さ、種類があります。
自宅で様子を見るべきなのか、医療機関に受診をするべきか判断するのが難しいでしょう。
小児や高齢者は、必ずしも自分の症状を言葉で表現できるとは限りません。
腹痛以外の症状も受診や問診などの大事なポイントとなります。
そこで今回は、小児と高齢者の腹痛について、原因から緊急性のある疾患、受診するポイント、対処法を疾患の特徴も踏まえて詳しく解説していきます。
腹痛について
小児と高齢者の腹痛をきたしやすい疾患のお話をする前に、腹痛の概要について説明します。
腹痛を表現するには、痛みの部位や強さ、種類などがあります。
痛みの状況は、診断をする際の重要ポイントです。
腹痛が生じた場合、家族が痛みの状況を観察すると、医療機関に受診した際、小児や高齢者の症状を伝えるときに活用できます。
腹痛について、項目ごとに解説します。腹痛が起きた際の観察ポイントとして、活用してください。
内臓痛
消化管の収縮、伸展、痙攣、拡張などによって生じる痛みです。
差し込む痛み、または吐き気や嘔吐を伴う痛みです。
内科的急性腹症が考えやすい
体性痛
内臓をとりまく腹膜や腸間膜(腸と腸との間にある膜)などの刺激で起こる痛みです。
刺すような痛みで、持続的に生じます。
痛みの部位がはっきりしているのが特徴です。
外科的急性腹症が考えやすい
関連痛と放散痛
内臓からの痛みの刺激が皮膚に伝わり、皮膚の痛みや知覚過敏を起こします。
また、放散痛は痛みが離れた所に伝搬します。
心因性の腹痛
心身の不調によって引き起る痛みです。
小児の腹痛について
小児期にみられる腹痛について、疾患も交えながら詳しく説明していきます。
小児は、症状を言葉で表現できるとは限らないことも考慮する必要があります。
小児の特徴
乳幼児期は腹痛に限らず、自分の言葉で症状を表現できるとは限りません。
保護者が普段の様子と何か異なると感じることが、腹痛発見のカギとなります。
乳児は、言葉を発することができません。
「かん高い泣き声や泣き止まないこと」など泣くことに関することが、第一発見ポイントです。
それと伴に、両脚の屈曲や顔色なども関係します。
幼児期になると「痛い」と発することはできますが、どこがどの程度の痛みまでには至りません。
顔色や嘔気嘔吐、発熱、食事摂取量、便の状態などの観察が必要となります。
学童期以降は、自分の症状を発言できるようになります。
腹痛の状態について、分かる範囲で本人にも聞いてみましょう。
主な原因
小児の腹痛の主な原因について、下記の表にまとめました。
原因の内容 | |
---|---|
便秘症 |
小児の腹痛で最も多いのが、便秘です。 3日以上の排便がないと、腹痛を伴い便も硬く出にくくなります。 水分不足や食生活の偏りなども原因となります。 遊びに夢中でトイレに行かないことなども原因です。 まれに、疾患が潜んでいるケースもあります。 |
急性胃腸炎 |
感染性の胃腸炎は、便秘の次に多い原因です。 腹痛とともに、嘔気や嘔吐、下痢、脱水などが出現します。
保育園、幼稚園、学校などの集団生活において注意が必要となり、学級閉鎖につながることもあります。 |
その他 |
急性虫垂炎と腸重積は、小児に発症しやすいです。 その他に、消化管異物、腸閉塞、急性胃粘膜病変、ヘルニアなどがあります。 尿路感染や精巣の病気(男の子)は、痛みの放散から腹痛の症状が出ることもあります。 この辺りは緊急性のある腹痛の欄で詳しく説明します。 |
緊急性のある腹痛の疾患
小児の腹痛で緊急性のある疾患について、下記の表にまとめました。医療機関を受診してください。
疾患 | 内容 |
---|---|
虫垂炎 |
虫垂炎は、盲腸の虫垂突起に炎症が起きると発症します。 よく盲腸を切ったというのは虫垂炎のことです。 右下腹部の痛みが特徴的で、押すと痛みが出ます。 好発年齢は、3歳から15歳です。 腹痛と発熱、嘔気嘔吐が出現することもあります。 抗生剤投与の治療で経過を見ますが、手術に至る場合もあります。 特に女児は穿孔すると将来の不妊の原因になりかねないので早目の対処が必要です。 |
腸重積 |
腸重積は、腸の一部が隣接する腸内に入り込んでしまい、進行すると腸の壊死に至る疾患です。 小児の腸重積は、ウイルス感染により腸管のリンパ組織が腫れあがることが原因で発症します。 好発年齢は、3ヵ月から6歳頃です。 主な症状は、腹痛、嘔吐、イチゴゼリー状の血便ですが、3つ同時には出現しません。 間欠的な腹痛や機嫌の悪さ、元気がない、泣き止まないなどの様子が見られます。 治療は、入り込んだ腸を整復する方法を第一選択とし、手術の適応になることもあります。 |
ヘルニア嵌頓 |
足の付け根の部分が膨らむ状態を鼠経(そけい)ヘルニアと言います。 腸が飛び出した状態だが、押さえても痛みがないものは、緊急性がありません。 飛び出した腸の血流が途絶えると、細胞が死滅して緊急手術となる場合もあります。 激しい痛みとヘルニア部分の熱、変色がある場合は、ただちに医療機関を受診しましょう。 |
精巣捻転 |
精巣捻転は、精巣がねじれてしまう疾患です。 精巣が生まれつき精嚢に固定されないため、発症します。 男の子だけの疾患です。 激しい痛みと腫れ、嘔気嘔吐などの症状が出ます。 治療は、捻転部分の解除を試みます。 効果が見られない場合は、手術に移行することもあります。 |
医療機関に受診が必要な場合
前述の「緊急性のある腹痛の疾患」を踏まえ、医療機関に受診を考慮する症状について、表に明記しました。
- ・ <乳児の場合>泣き止まない、かん高い泣き声
- ・ お腹を押すと痛がる
- ・ お腹が全体的に張っている
- ・ 激しい痛み、もしくは痛みがだんだん強くなる
- ・ 嘔吐、水分摂取もできない
- ・ 元気がない、ぐったりしている
- ・ 発熱
- ・ 便に血が交じる
- ・ 太ももの付け根の部分が盛り上がっている
- ・ <男の子>睾丸が赤くなり腫れている
※ 受診をするべきか判断に迷う場合は、医療機関に連絡し相談してみましょう。
高齢者の腹痛について
高齢者の特徴も踏まえ腹痛の疾患について、詳しく説明していきます。
高齢者の特徴
認知機能の低下により、自分の症状を把握できていないことがあります。そして、病気が起きても熱が出ないことや脈拍数や血圧なども変化が出ないことがあります。
高齢者へ症状を聞く際には、できるだけ短い文章で簡単な質問をすることが望ましいです。
本人だけでなく家族などから、いつもと状況の変化を質問する必要があります。
主な原因
高齢者の腹痛の主な原因について、下記の表にまとめました。
原因の内容 | |
---|---|
上部消化管 出血 |
高齢者が上部消化管出血を起こしやすい原因を挙げます。
|
腸閉塞 |
何かの原因により、腸の内容物が肛門への通過障害が起きた状態です。 疾患や腸の癒着などが原因となりやすいです。 症状は、激しい腹痛、嘔気嘔吐、腹部の張りなどがあります。 腸閉塞は、再発しやすいので、食生活を管理する必要があります。 時に緊急手術の適応になる場合もありますので、注意が必要です。 |
便秘 |
高齢者の便秘は、腸の蠕動運動の低下や水分摂取不足、薬の副作用などから起こりやすいです。 日常的に緩下剤の服用をしていることが多くみられます。 |
緊急性のある腹痛の疾患
高齢者の腹痛で緊急性のある疾患について、下記の表にまとめました。
疾患 | 内容 |
---|---|
急性膵炎 |
急性膵炎は、膵臓やその周辺臓器に急激な炎症を起こす疾患です。 激しい腹痛や背部痛が生じ、意識障害になることもあります。 致死的な疾患でもあるので、注意が必要です。 |
腹部 大動脈瘤 |
腹部大動脈瘤は、腹部の大動脈壁の一部がコブのように隆起する疾患です。 動脈硬化が主な原因となります。 症状としては腹痛や腰痛で、破裂により出血から意識障害が起こることもあります。 治療は、コブの大きさによって異なります。 |
胆石発作 |
胆石症は、胆のうや胆管に石ができ、痛みなどを引き起こす疾患です。 脂質の多い食生活が原因で発症することがあります。 胆石症は、基本的に無症状であることが多いです。 胆のうの出口に石が移動した場合は、痛みを伴う発作が起きます。 治療としては、1~2時間ほど経過観察をします。 痛みが軽減しない場合は、胆のうの収縮を和らげる投薬をします。 最終的に痛みの軽減が見られない場合は、手術の適応です。 |
その他の 疾患 |
腹腔内臓器以外の疾患は、心筋梗塞・腎梗塞・大動脈瘤破裂などが挙げられます。 |
※ 腹腔内臓器以外の疾患は、心筋梗塞・腎梗塞・大動脈瘤破裂などが挙げられます。
※ 高齢者も上記の症状と合わせて「医療機関に受診が必要な場合」を参照してみましょう。
小児と高齢者の腹痛時の対処法
腹痛が起きたときの注意点も含めて、対処法についてお話します。
- ・ 腹部を「温めるもしくは冷やすこと」は止めましょう。
腹痛の原因が分かるまでは、刺激をするのはよくありません。
腹痛が悪化する場合もあります。気温に合った服装をしましょう。 - ・ 腹痛があるときは、本人が楽な姿勢をとりましょう。
本人が座っていり方が良い場合は、座りましょう。
安楽な体位が望ましいです。 - ・ 腹痛とともに嘔吐が生じることもあるので、ビニール袋を用意しましょう。
- ・ 発熱が生じることもあるので、体温を測りましょう。
まとめ
小児と高齢者の腹痛についてそれぞれの特徴を踏まえ、原因から緊急性のある疾患などを詳しく説明しました。
小児と高齢者は腹痛が起きやすく、訴えが分かりづらいので家族の方は痛みの部位や程度、種類だけではなく、普段と異なるところも観察して頂きたいです。
そして、異常の早期発見のポイントとなるのは、家族です。
判断に困ったら、医療機関に連絡することをお勧めします。
(岡野 恭子)
- 高齢者の救急診療トピックス 高齢者の腹痛
[ https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/57/2/57_57.126/_pdf/-char/ja ] - 日本老年医学会雑誌第57巻第2号
[ https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/57/2/57_57.126/_pdf/-char/ja ] - こどもの腹痛 湯川医院
[ https://yukawa-iin.jp/information/pediatrics/children-stomachache.html ]