幼少期に視線のずれを感じたら要注意 ~斜視っていったい何?~

時々黒目が外にずれたり、内に寄ったりする人を見たことがありませんか?

こっち見てるのかな?
この人のどこを見たらいいのかな?

何も知らない人から見れば、びっくりしますよね。

それは全て「斜視」という状態です。
脳疾患によって突然現れる斜視もあれば、幼少期から現れる斜視もあります。

今回は、両眼視機能(両方の目を使う働き)の発達に影響を及ぼす、幼少期の斜視についてお話しします。

斜視には種類がある

眼球の周りには、6本の筋肉がついています。
これを外眼筋と言い、それぞれの方向に目を動かす働きを持っています。
この筋肉のバランスが崩れたときに起こるのが斜視です。

斜視の主な種類は以下になります。

  • ・内斜視(黒目が内側に寄る)
  • ・外斜視(黒目が外側にずれる外斜視)
  • ・上下斜視(黒目が上(下)側にずれる斜視)

黒目がどちらにずれているかで名前が付けられています。

斜視の種類

イラストで見ると分かりやすいですね。

また、これらの斜視は、時々出現したり、常に出現したりと症例によっても様々です。

幼少期においては斜視を放置してしまうと、両方の目を使う働きが正常に育たない可能性が高まるため、早期の眼科受診をおすすめします。

幼少期に起こりやすい斜視の種類と治療方法

では、斜視の治療とはどのように行うのでしょうか。
幼少期に起こりやすい斜視の治療法をご紹介します。

斜視には屈折異常(遠視・近視・乱視)を伴うことが多く、どの種類の斜視であっても、屈折矯正(正しい眼鏡装用)をしなければいけません。

屈折矯正

まずは屈折矯正をして、しっかりと目に合った眼鏡を装用する。 両目ともに視力が1.0以上出るように促し、それから斜視の治療に入るようになります

分厚い眼鏡をかけているお子さんを見たことはありませんか?
あれはしっかりと屈折矯正をし、弱視(矯正しても視力が1.0以上出ない状態)にならないよう治療をしているのです。

では、それぞれの斜視について見ていきましょう。
今回は、幼少期によく見られる種類を中心に取り上げました。

内斜視:調節性内斜視、部分調節性内斜視、非調節性内斜視

これらは後天内斜視とも呼ばれ、生後6か月以降に発症した内斜視で、遠視による過剰なピント合わせが関係していることがあります。

屈折の種類

屈折の状態はいくつかありますが、物をはっきり見るためには、網膜上にピントを持ってこなければいけません。
遠視の人は、後ろにある焦点を前に持ってくるために調節力を使います。
つまり、遠視の度数によってはピント合わせが過剰になり、寄り目になってしまうのです。

これが「調節性内斜視」です。

家庭でも、近くの物を見るときに内側に寄るのか、どちらの目が特に内側に寄るのかなどをチェックをしておくと診断の助けになります。

また、調節性内斜視にも程度があります。
それぞれの名前を見ると難しく感じますが、ピント合わせがどの程度関与しているかで区分されています。

  • 調節性内斜視 
    遠視度数の眼鏡を装用することで、余計なピント合わせが必要なくなり、内斜視が消失する。
  • 部分調節性内斜視
    遠視度数の眼鏡を装用しても内斜視が一部残る。ピント合わせによる部分と、純粋な内斜視による部分がある。
  • 非調節性内斜視
    遠視などの屈折異常がなかったり、眼鏡を装用しても内斜視が消失または軽減しない。

内斜視全体の治療は以下になります。

  • 1. 眼底に異常がないかをDr.が診察でチェック
  • 2. 調節麻痺下による屈折矯正(眼鏡装用)
  • 3. 残った内斜視に対して手術またはプリズム(光を曲げる特性のあるレンズ)を装用
  • 4. 両眼視の発達を促す

お子さんは調節力が強く、通常のままだと本来ある遠視が隠れてしまうため、調節麻痺剤のアトロピン点眼下での眼鏡を装用します。
これは、全ての遠視度数に対して矯正をする必要があるからです。

アトロピン点眼

遠視による「調節性内斜視」は、眼鏡を装用することにより内斜視が消失しますが、遠視による内斜視と屈折が関与しない内斜視を合併する「部分調節性内斜視」や、全ての内斜視が屈折に関与しない「非調節性内斜視」がありました。

いずれにしろ、まずは眼鏡装用による遠視矯正をしてみて、眼鏡で矯正できない部分に対して、手術やプリズム眼鏡を装用するという治療を選択します。

プリズム
  • ・プリズムとは、プリズムの基底を置く方向によって、光を曲げたい方向に曲げるレンズです。
  • ・眼鏡にプリズムを組み込むことで、斜視の状態であっても、プリズムの力を借りて網膜の中心部に見たい像を持ってくることが出来ます。
  • ・プリズム度数が小さいと眼鏡に組み込むことが出来ますが、プリズム度数が大きいと、レンズに細かい線が入った膜プリズムというシートを眼鏡に貼る必要があります

このあたりの治療は患者さんとDr.の相談で決まります。

外斜視:恒常性外斜視、間歇性外斜視

外斜視には、いつも外斜視になっている恒常性外斜視と、時々外斜視になる間歇性外斜視があります。

治療としては以下の手順になります。

  • 1. 眼底に異常がないかをDr.が診察でチェック
  • 2. 屈折矯正(眼鏡装用)
  • 3. 恒常性外斜視なら手術またはプリズム眼鏡を検討。間歇性外斜視なら、抑制の有無を確認してトレーニングまたはプリズム装用、斜視の頻度によって手術検討

間歇性外斜視は斜視の中でも頻度が高いものです。
時々外斜視になることもあるが、まっすぐのこともあるという状態です。

まっすぐな状態の時間が長ければ長いほど、両方の目を使う働きが正常に育つので、まっすぐな時間をなるべく長くするよう目指します。

また、間歇性外斜視には程度が色々あり、黒目が外にずれているときに物が2つ見える(複視あり、抑制なし)の場合と、物が1つに見える(複視なし、抑制あり)の場合があります。

間歇性外斜視

幼少期に間歇性外斜視になると、物が2つ見えるのが不快なため、屋外などで片目つぶりをすることがあります。
この片目つぶりは、問診でも聞かれる間歇性外斜視の特有のサインとなりますので要チェックです。

2つ見えていることに本人が気づき、瞬きなどの刺激を加えて自分で目の位置を戻すことが出来る場合もあります。これを斜位の状態と言います。

  • 斜視…顕在性の目のずれ
  • 斜位…潜伏性の目のずれ

一方で、物が2つに見えない抑制がかかった状態になると、ずれていても2つに見えていないので本人が気づかず、ずれっぱなしのことが多くなります。

抑制がかかり、ずれている時間が長くなると、両眼視機能を獲得する可能性は一気に低くなります。
本来、目がずれていれば2つ見えるところを、脳の中で像を一つ消しているという状態です。脳ってとても賢いですよね。

像を一つ消しているというのはイメージが湧きにくいですが、抑制がかかっているイコール視力が悪いのではありません。
弱視でない場合は、抑制がかかっていてもそれぞれの目の視力は1.0以上出ます。
つまり、片目を隠して、それぞれの目で見ると視力は出るが、両目で見るとずれている方の目は使っていないということになります。

抑制がかかっている場合、ずれの角度が大きくない場合には、トレーニングが適応になることがあります。

まずは抑制を取るトレーニングで、自分が斜視になっている状態を知ることから始めます。
抑制除去トレーニングとは、斜視の状態のときに、網膜(目の奥の大事な膜)に光刺激を与えることで抑制を取る方法です。

まずは暗い部屋で強い光を見せたり隠したりしてフラッシングという方法を使います。
初めは一つだった光が、段々と2つ見えてくるということが多くの場合起こるのです。 これが抑制が外れてきた状態です。

フラッシング

暗い部屋の強い光が見えてきたら、薄暗い部屋、明るい部屋とレベルを上げていき、最終的には、明るい部屋で人形などの物が2つ見える状態を作ります。

こうなると、トレーニング以外の日常でも物が2つに見えるようになってきて、自分自身で斜視になっていることに気づくようになります。

斜視

物が2つ見えるようになったら、それらを重ね合わせるトレーニングに入ります。
瞬きなどにより、一瞬でも2つの物を重ね合わせられるポイントを見つけたら、そのポイントを足掛かりにして、その範囲を広げていきます。

1つに重ね合わせられる範囲が広がったら、今度はプリズムでわざと負荷をかけて、ずれにくい状態に鍛えていきます。

日常で斜視になり、物が2つに見えたらすぐに重ねるという行動を繰り返して、外斜視になる時間を減らすという方向性です。

ただし、トレーニングには適応があり、

  • ・両目の視力が1.0以上出ていること
  • ・斜視角が大きすぎないこと
  • ・年齢は小学生以上(理解度や協力度の問題)

などの条件を満たしている場合となります。

病院でのトレーニングだけではなく、家庭でも親御さんに協力してもらいながら行うことで、効果がより高まります。

また、トレーニングは手術と併用する場合も多く、手術前に抑制を取っておくと、術後の戻りも少なくなり、両眼視の発達の助けになります。

上下斜視:共同性上下斜視、非共同性上下斜視(分類は諸説あり)

上下斜視は、内斜視や外斜視と異なり、複雑な要素が絡むことがあります。

筋肉の特性から回旋ずれを伴うこともあり、プリズムだけでは対処できません。
回旋ずれを代償するために、頭を左右どちらかに傾けることもあり、幼少期には骨格の変形から顔面非対称を起こすこともあります。

上下斜視

このような理由から、上下斜視は手術を選択することが多い症例となります。

斜視を放置した場合に何が起こるか

斜視を放置した場合はどのようなことが起こるのでしょうか。

遠視・近視・乱視などの正しい屈折矯正(眼鏡装用)が出来ていない場合、弱視になる可能性があります。
屈折異常を伴う斜視は多く、普段見えにくそうにしていなくても、片目の視力が極端に悪い(不同視弱視)ということもあります。

片目の視力が見えていると、普段の行動に不自然さが出ないため、本人も周りも気づかないことがあります。

3歳児検診などで初めて視力検査をして視力が出ないことに気づく場合もありますが、片目の視力が不良なことに気づかれずにスルーされることもあります。

視力検査

両目の屈折異常が同程度の場合は、正しい度数の眼鏡をかけることで良好な視力が促されることが多いですが、片目のみ極端に屈折異常が強い場合は、眼鏡装用だけでは視力が育たない場合があります。

この場合は、視力が良好な方の目をアイパッチで隠して、視力が悪い方の目を意図的に使わせる弱視治療が行われます。

アイパッチ

アイパッチを嫌がるなど何らかの理由でアイパッチが出来ない場合は、視力がいい方の目にアトロピン点眼薬(調節麻痺剤)をさし、わざと見えにくい状態を作ることで、視力の悪い方の目を強制的に使わせます。

アイパッチの時間や期間、アトロピンの期間は視力の伸びや安定を確認するまで行われます。

視機能の発達は8歳までが臨界期と言われており、屈折異常に気付くのが早ければ早いほど弱視を防ぐことが出来ます。
また、斜視の状態が続くと、両眼視が育たない確率が高くなりますので注意が必要です。

両眼視機能は、以下の1、2、3の順番で高度になります。

  • 1. 同時視(両目で同時に物を見ること)
  • 2. 融像(両目で見た物を重ね合わせること)
  • 3. 立体視(重ね合わせて見た物を立体的に見ること)

立体視まで育たない場合、つまずきやすくなったり、ボールをキャッチするのが苦手というようなことが起こります。
このような症状を主訴に受診するお子さんもおられます。

いずれにしろ必要に応じた正しい眼鏡装用と、斜視の矯正による両眼視機能の獲得を目指すのが基本方針となります。

幼少期の斜視は正しい治療をすれば両眼視が獲得できる

幼少期の斜視は、親が気づくこともあれば、周りに気づかれることもあります。
最初はびっくりしますが、正しい治療を正しい時期に行えば、両眼視機能を獲得できる可能性は格段に上がります。

斜視治療の大まかな流れは以下のとおりでした。

  • ・視線のずれを感じたら眼科を受診する
  • ・眼底に異常がないかをDr.が診察でチェック
  • ・正しい屈折矯正(眼鏡装用)をする
  • ・屈折矯正の上、残った斜視角に対して手術やプリズム矯正、トレーニングを選択する
  • ・両眼視機能の獲得に努める

早期発見のもと、正しい治療を行った場合と行っていない場合の差は、将来とても大きなものになります。
お子さんの斜視に気づいたら、日ごろの様子をよく観察し、眼科を受診してくださいね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(藤川 真紀)

参考文献
  • 視能矯正マニュアル<改訂版> メディカル葵出版
  • 眼科MOOK 斜視・弱視 金原出版