ウイルスと細菌の違い

感染症対策の基本!
「ウイルス」を知って正しい予防対策を!

日本の学校では、トイレや運動の後には「手洗い・うがいをしよう」と習った方が多いと思います。
それも「菌は汚いもの」というイメージが強いからでしょうか。
2020年2月以降、新型コロナウイルス(Covid-19)がパンデミックを引き起こし、菌に対する見方が変わった人もいるでしょう。
ただ、「ばい菌」「ウイルス」「細菌」「微生物」といった単語の違いをご存知でしょうか?
これらは生物学的に異なるものです。

本日は、「菌」について生存方法、人に感染した場合の病気の違いなどについてご紹介します。
正しい知識を吸収して、巷の情報に惑わされない感染症予防対策を講じるきっかけになればと思います。

【1】 微生物ってなに?

 人間を含む生物は「細胞」からできています。
人間は、約60兆の細胞から成り立っていると聞いたことがあるかもしれません。
そして、生物は2種類に大別され、「細胞核」のある「真核生物」と、「細胞核」を持たない「原核生物」と呼ばれます(例外もあります)。
いずれも遺伝情報を持った「核酸」を持っていますが、真核生物では核膜の中にあり、原核生物では細胞内にむき出しのまま存在します。
さて、「微生物」とは、一般的に「小さいサイズの生物」という意味で、寄生虫、カビ、酵母、細菌、ウイルスなど様々な種類があります。
カビ・酵母や寄生虫などは真核生物ですが、細菌は原核生物です。
一方、ウイルスはタンパク成分と核酸から構成され、自分の力だけでは増えることができないため、「無生物」と呼ばれています。

【2】 ウイルスと細菌の生物学的な違い

 感染症を引き起こすおもな病原体は、ウイルス、細菌、カビですが、今回はウイルスと細菌の違いを見ていきましょう。

図1:ウイルスと細菌の基本構造
図1:ウイルスと細菌の基本構造 ウイルスは他の微生物とは、細胞壁、細胞膜、細胞質、核などの構造を持ちません。ウイルスのDNAもしくはRNAは、カプシドという特殊なタンパクの殻に包まれています。また、エンベロープはウイルスの外膜で、ウイルス粒子が他の細胞へ付着するのに役立ちます。一方、細菌は1個の細胞から構成され、その中に遺伝情報である核酸や、いくつかのタンパク成分などが含まれています。
図2:ウイルスと細菌のサイズ比較
図2:ウイルスと細菌のサイズ比較 ウイルス粒子は、花粉や細菌よりもさらに小さくなるため、感染すると肺や体の奥深くまで侵入していきます。 大きさ

 ウイルスは1nm(ナノメートル)前後ですが、細菌はそれよりも約100倍大きく、1µm(マイクロメートル)前後になります。よって、細菌よりもウイルスの方が体の奥深くまで到達しやすく、症状の悪化が早まります。

基本的な構造

 ウイルスに特徴的なのは、本体の外側を覆っている「エンベロープ」と呼ばれる脂質膜。
その中には、「カプシド」というタンパク成分に包まれて、遺伝子情報である核酸が収納されています。
一方、細菌の本体は、細胞壁・細胞膜という二重膜で構成されており、その中に核酸やリボソームがむき出しで格納されています。

人間への感染形態

ウイルスは単体では成長することも増えることもできないため、人間の細胞へ侵入して成長・増殖します。細菌はウイルスと違って、栄養源があれば自ら成長したり、増えたりすることができます。
人間の体内に定着して自分で細胞分裂して人間の細胞に侵入する、もしくは、毒素を出して人間の細胞を攻撃します。

主な病気と病原体

ウイルスによる病気:インフルエンザ、かぜ症候群、麻疹、風疹、水痘、帯状疱疹、感染性胃腸炎、肝炎(A型、B型、C型など)、エイズなど

細菌による病気:外耳炎、中耳炎、感染性胃腸炎、腸管出血性大腸菌(O-157)感染症、破傷風、敗血症、結核など

【3】 「抗菌」=すべての菌に効くわけじゃない!

 日本のドラッグストアやCMを見ていると、「抗菌」という言葉が多く使用されています。
たとえば、トイレ、洗濯物、室内などの空間や、抗菌加工といった商品への工夫、そして抗菌薬などがありますね。
しかし、「抗菌」=すべての細菌・ウイルス対策に有効という意味ではありません。
抗菌薬の仕組みを例にとると、細菌の構造や増殖する仕組みのどこかを薬で邪魔して、病気の悪化を抑える作用があります。代表的な抗菌薬である「ペニシリン」は細菌の細胞壁の合成を邪魔します。
人間の細胞には細胞壁がないので、ペニシリンは細菌のみをターゲットとして、攻撃することができます。
一方、ウイルスは大きさや仕組みが細菌と違うため、抗菌薬(抗生剤や抗生物質)では撃退できないという厄介な問題があります。
ウイルスは細胞を持たないので、他の細胞に入り込んで生存します。人間の体にウイルスが侵入すると、人間の細胞に自分のコピーを作らせます。すると、細胞が破裂してたくさんのウイルスが飛び出し、さらに他の細胞へ侵入し続けます。
ウイルスはこうして増えていくのです。実際、抗ウイルス薬はまだ少数しかなく、多くは開発段階にあります。

【4】 ウイルスの代表的な病気:かぜ

ここで、誰もが一度はかかりやすい「かぜ」がなぜ生じるのか解説します。

「かぜ」という病気について

 かぜ(風邪)は、医学用語では「かぜ症候群」と呼ばれ、一般的に上気道(鼻やのど)の急性の炎症の総称です。
ウイルスが粘膜から感染して体の中で炎症を起こし、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、喉(のど)の痛み、咳、痰(たん)、発熱、頭痛、筋肉痛などの症状が現れます。
また、かぜ症状群の原因微生物は、80~90%がウイルスと言われます。
主な原因ウイルスとしては、ライノウイルス、コロナウイルス※が多く、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルスなどが続きます。
ウイルス以外では、一般細菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミドフィラといった特殊な細菌も原因となります。
ただ、かぜウイルスの数は200種類以上もあるため、どのウイルスが原因で引いたのかは特定が難しいです。
また、同じウイルスであってもいくつもの「型」があり、それが年々変異しています。
そのため、一度感染したウイルスに対する免疫が出来たとしても、新たな季節や年になると、繰り返してかぜを引くことがあります。 ※新型コロナウイルスを除く。新型コロナウイルス(COVID-19)は、一般的なかぜウイルスとは症状や伝染力が異なります。また、インフルエンザウイルスも通常のかぜより重度の症状を引き起こすので注意が必要です。

鼻水、せきなどの症状はどうして起こる?

 鼻、喉(のど)、気管、気管支、肺などの「呼吸器系」は、呼気と吸気の通路になっており、空気中のウイルスに簡単に侵入されないような防御システムを備えています。
たとえば、口腔の唾液(よだれ)や、鼻の鼻水、のどの粘液などは、ウイルスなどの異物を絡めとって、外部に排出するシステムです。
この粘液では、異物による感染から体を守る「免疫防御」としての働きがあります。
体が異物と戦って炎症を起こしていると、異物を出そうとして鼻水、くしゃみ、咳、痰が出たり、鼻づまりや喉の痛み、頭痛といった症状が出たりします。
発熱は、異物の侵入により体に異変が起きているサインであると同時に、免疫の働きが活発になっている状態です。

【5】 ウイルスへの予防対策

 以上のように、ウイルスは細菌よりもサイズが小さく、人間の体の細部にまで侵入しやすく、さらには根本的な治療薬がほとんどないのが課題です。
よって、私たちが健康に生活するためには、ウイルスを感染させないことと、ウイルスなど異物に対する免疫力を高めておくことが重要になります。

ウイルスを感染させないために

 ウイルスの感染経路としては、咳やくしゃみなどによって出る「飛沫」によって拡散されたり、手に着いたウイルスなどが口や目などの粘膜を通して感染したり、あとは空気中をただよって感染するケースがあります。
手洗い、うがいは毎日きちんと行い、粘膜(目、鼻、口、喉など)に感染するリスクを最小限に抑えましょう。
また、咳が出る、体が熱っぽいあんど少しでも体に異常を感じたら、マスクをして外出するようにしましょう。

免疫力を高めるために

 免疫力とは、簡単に言うと「病気やストレスなどから体を守るために必要な自己防衛システム」です。
免疫力が低下すると、ウイルスなどの異物に対する攻撃力が弱まり、風邪を引きやすくなる、肌が荒れやすい、便秘・下痢になりやすい、疲れやすいといった不調が現れます。
免疫力の低下は、体にとって不健康な生活(例:栄養の偏った食事、運動不足による代謝の低下、睡眠不足、精神的なストレス)が続くことによって顕著になります。
健康的な生活を意識することは、ウイルスなどの病気にかからないようにするだけでなく、毎日の幸せに生きるためにも大切なのです。
 近年では、「腸活」というキーワードも作られているように、腸内環境を整えることが免疫力アップの秘訣とも考えられています。
腸内細菌を整えるためには、「善玉菌」を増やす食材を積極的に摂ることが大切です。
たとえば、発酵食品であるヨーグルト、チーズ、納豆、ぬか漬けなど。
また、食物繊維とオリゴ糖も善玉菌のエサとなります。体に成分が溶け込みやすい「水溶性食物繊維」を多く含む食品には、野菜類(ごぼう、にんじん、おくら、ブロッコリー、ほうれん草など)、豆類、いも類(さといも、こんにゃく)、海藻・きのこ類、果物があります。
そして、食生活の面でもバランスのいい食事を摂り、適度な運動と充分な睡眠時間を確保して、日ごろから体を若々しく保つようにしましょう。

(KOMEKO)

参考文献
  • 1. 大幸薬品「病原体:ウイルスと細菌と真菌(カビ)の違い」https://www.seirogan.co.jp/fun/infection-control/infection/dengerous_pathogen.html(2020年9月10日現在)
  • 2. 農林水産省HPより「細菌とは何ですか?」https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/bacteria.html(2020年9月10日現在)
  • 3. 「ウイルス粒子の構造と各部の機能」http://www.med.akita-u.ac.jp/~doubutu/kansensho/virus17/kouzou.html(2020年9月10日現在)
  • 4. 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンターHPより「感染症の基本」http://amr.ncgm.go.jp/(2020年9月10日現在)
  • 5. 日本呼吸器学会HPより「呼吸器の病気-かぜ症候群」https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=2(2020年9月10日現在)
  • 6. くすりと健康の情報局「風邪(かぜ)の原因」https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/symptom/01_kaze/(2020年9月10日現在)
  • 7. 茨城産業保健総合支援センターHP『免疫力は上げられます!』健康保健だより2020年5月号 https://ibarakis.johas.go.jp/archives/12275(2020年9月10日現在)
  • 8. ビオフェルミン製薬「腸内フローラを整える方法!腸活!」https://www.biofermin.co.jp/nyusankin/chonaiflora/adjust/(2020年9月10日現在)