看護師の再就職を支援するための6つの方法

潜在看護師とは、看護師免許を持っているのにもかかわらず、現場で働いていない看護師のことをいいます。
平成24年厚生労働省の統計によると、全国の潜在看護師は約71万人いると報告されています。

結婚、出産、介護などのライフステージの変化によって潜在看護師が増えてきているようです。

いったん離職したものの、もういちど看護師として働いてみようかな、でも仕事を離れてブランクが長くて不安、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事ではまず、看護師が退職する理由と、再就職をするきっかけについて述べていきます。
そののち、離職をした看護師が再就職をしない6つの理由に対して、再就職を支援する方法をご紹介します。

1. 看護師が退職するおもな理由【7つ】

その1 体調不良によるもの
看護師の仕事はハードな勤務です。
夜勤による寝不足、人間関係からのストレス、過労による疲労蓄積、不規則なシフト。
人員不足や仕事の忙しい職場では満足に休みをもらえない場合もあり、無理をして勤務を続けていることも。
このようなことが原因で、自律神経失調症やうつ病、メニエール病などを引き起こすこともあります。
また、立ち仕事、重労働でもあるため慢性腰痛が悪化するケースも多く見られます。
こういった体調不良を理由に退職する看護師は少なくありません。

その2 職場環境がつらい
働いている職場の人間関係でのトラブル・悩みから退職する場合があります。
とくに看護師不足の職場では、看護師ひとりあたりの業務量が多く、十分な休憩時間、休息がとりにくいといった状況にもなりやすいのです。
そのため、心身ともに疲労がたまり、離職につながるケースも多くなっています。

その3 看護職への自信喪失(バーンアウト)
理想が高く、経験豊かな看護師に多いといわれるバーンアウト(燃え尽き症候群)。
無気力、達成感の欠如、対人関係が困難、疲労、不眠、頭痛などの症状が現れることもあります。
とくに中堅看護師は、看護の中核的な役割を果たすことが求められるだけでなく、新人・後輩の指導や委員会運営など、求められる能力が拡大していきます。
責任が重くなっていく負担や、多忙な業務の中で、「現場で求められる能力と自分の能力とのギャップ」「医療事故を起こさないか不安」「仕事が向いていないと思う」などの理由により退職するケースが多いようです。

その4 結婚、妊娠、出産などのライフスタイルの変化
近年は男性看護師も増えてきましたが、看護師は女性の占める割合の多い職種です。
そのため、多くの看護師が結婚・妊娠・出産というタイミングで退職していきます。
育児をしながらハードな勤務をこなすことが難しく離職していくケースもあります。
いったん退職しても、他の職種に比べると転職先が見つかりやすい看護師は、「子育てが落ち着いたら復職しようかな」という心理的な余裕を持ちやすいからです。

その5 家族の転勤や引っ越し、親の介護など
ご主人の転勤に伴う引っ越しを理由に、自らの意思ではなくやむなく退職をするケースもあるようです。
また、親の介護に専念したいという理由で退職する場合があります。

その6 キャリアアップのための進学
看護師は、自分自身のスキルアップやキャリアアップを目的として、転職や退職をする方がたくさんいます。
得意・専門分野に特化してスキルアップできる病院、管理職として活躍できる病院など、資格を活かして転職しやすい職業でもあるのです。
専門・認定看護師の学歴取得の勉強に専念するため、また、留学などを理由に職場を離れるケースも多くなってきています。

その7 転職
看護師として働きながらも、なんらかのきっかけで他の職種へ転職するケースがあります。

2. 潜在看護師が再就職をするきっかけ【7つ】

では、潜在看護師が再就職をする7つのきっかけについてお伝えします。

その1 もともと復帰する予定だった
いったん看護師を退職するとはいえ、復帰する時期を決めている場合があります。
たとえば、「若いうちしか経験できないような留学から帰国したら」「出産のために退職するが、育休期間が終わったら」といった場合などです。

その2 知り合いなどからの勧誘
もともと一緒に働いていた医師が開業するときに、一緒に働いて欲しいと声をかけられることがあります。
また、以前一緒に働いていた看護スタッフが、キャリアアップをして別の病院で看護師長や部長になった際、勧誘を受けたりすることも。
看護師としての働きを評価されているからこそ、知り合いからの勧誘は再就職のきっかけとして少なくはありません。

その3 子育てや介護がひと段落した
妊娠・出産・子育てを理由に退職をした場合、子どもがなんでも自分でできるようになり、親から手が離れるタイミングで再就職を考える看護師は多いといいます。
また、親の介護のために退職した場合も、介護がひと段落したタイミングが再就職のきっかけとなります。

その4 生活パターンに合う職場環境が見つかった
「夜勤がつらいけれど日勤常勤だけの職場が見つからない」
「子育てと両立できるような職場が見つからない」
などの理由で再就職できないケースは多くみられます。
しかし、生活パターンに合う職場環境が見つかれば、すぐにでも看護師は再就職できるのです。

その5 経済的な理由
出産や子育てのために退職をした看護師は、子どもが成長してきた段階で、塾や進学などの費用をまかなうために復職を考えることがあります。
また、看護師以外の仕事を経験してみて、改めて看護師の収入の高さを実感し、復職するケースもあります。

その6 将来への不安を感じるようになった
いったん看護師という仕事から離れ、看護師以外の資格もなく、他の仕事も自分に合わない…
この先自分はどういう人生を歩めばいいのか、と不安に感じるように。
将来の不安を感じ、看護師に復職する方も少なくはありません。

その7 やりがいを感じられる仕事につきたいと思うようになった
看護師は、ハードではありますが、その分やりがいもある職業です。
看護師の仕事から離れ、自分の好きなことや趣味に時間を費やしたり、他の仕事についてみたりした場合、やりがいのなさに物足りなさを感じることも。
やりがいを感じられる仕事につきたいと考え、看護師に復職する場合があるのです。

3. 潜在看護師が再就職をしない理由には2つのパターンがある【再就職を支援する方法もご紹介】

潜在看護師が再就職をしない理由には、以下の6つが挙げられます。

  • 1. 経済的に余裕がある
  • 2. 家事・育児に専念したい
  • 3. 他の仕事がある
  • 4. 自身の健康問題
  • 5. 子育てや介護をしながら働ける職場が見つからない
  • 6. ブランクが長く、現在の医療技術についていけないという不安がある

この6つの理由は、「いますぐ再就職をせまられていない」「いますぐ再就職をしたくてもできない」という2つのパターンに分けられます。
それぞれ6つの理由に対し、再就職を支援する方法をご紹介します。

パターン1:いますぐ再就職をせまられていない
【 その1 経済的に余裕がある 】
→「とどけるん」に登録

看護師として働いていた間の貯蓄がある、実家からの金銭的援助がある、結婚してご主人の稼ぎだけでも充分に生活できる、というように、経済的な余裕がある場合、いますぐ収入を得るために働く必要はないかもしれません。

研究によると、離職願望を持ちながら離職にいたらなかった理由の1位が「経済的理由」であることが明らかになっています。
このことは、経済的に余裕があれば、離職する看護師が多くなるともいえます。

いったん看護師という仕事を離れ、リフレッシュをしたとしても、いずれは貯蓄が減ってきたり、ご主人だけの収入では生活が難しくなってきたり、子どもが増えて養育費が必要になってきたりと、再就職のきっかけはさまざまです。

いますぐ再就職の必要性はないとしても、将来のためにまずは「とどけるん」に登録だけでもしておくことをおすすめします。

【 その2 家事、育児に専念したい 】
→「とどけるん」に登録

子育て後の女性の再就職に関する調査研究結果によると、働いている女性が結婚・妊娠・出産・育児の時期に退職した場合、直接の退職理由で最も多いのは「結婚のため」(45.8%)で、次が「出産のため」(30.4%)でした。
子育て後の再就職の時期については、退職してから3年未満にはほぼ半数(47.6%)が再就職しようと考えるようになっていた、との報告があります。

結婚・妊娠・出産を経験し、家事や育児に専念したいと考えるのは女性側だけではありません。
ご主人から家事や育児に専念してほしいと言われ、退職するパターンもあります。

看護師という立場から、妻、母親という役割に変化します。
「子どもが小学校(中学校)に入るまでは育児に専念する」など、再就職のタイミングを決めている方もいらっしゃるでしょう。

ところが数年経過し、「専業主婦や子育てよりも、働くほうが自分には合っていた」「充分やり遂げた」「やっぱりやりがいのある看護師の仕事がしたい」「思っていたよりも子どもに手がかからなくなったから、早めに復帰しようかな」など、さまざまな理由で再就職を考え始めるケースも少なくありません。

再就職をしたい時期に向けて、前もって情報を集めておくに越したことはありません。
まずは「とどけるん」に登録をして、どういった働き方ができるのか、自分の状況に合った職場はあるのか、情報収集をしておくといいですね。

【 その3 他の仕事がある 】
→「とどけるん」に登録

看護師が他の仕事に転職した場合、「体力的に楽になった」「人間関係が楽しくなった」「命をあずかるプレッシャーから解放された」などのメリットがあるでしょう。

その反面、未経験分野への転職であれば、看護師以外の知識やスキル不足のため、ストレスを感じてしまうこともあります。
収入も大幅に減ることだってあります。

いったん他の仕事に転職したとしても、将来、経済的な理由や将来への不安を感じるようになった、また、やりがいを感じられる仕事につきたくなった際に情報を得やすくなります。
まずは「とどけるん」に登録しておきましょう。

パターン2:いますぐ再就職をしたくてもできない

【 その1 自身の健康問題 】
→「とどけるん」登録+ナースセンター利用

まずは「とどけるん」に登録し、ナースセンターを利用することで、ご自身の希望条件に合った職場を探しましょう。
無理のない範囲で働ける職場の情報を得やすくなります。

【 その2 子育てや介護をしながら働ける職場が見つからない 】
→「とどけるん」登録+ナースセンター利用+ハローワーク利用+看護師求人サイト登録

条件に合う職場はなかなか見つかりにくく、再就職を難しくしている理由に挙げられています。
まずは「とどけるん」に登録、ナースセンターやハローワーク、看護師給仕サイトに登録し、条件に合う職場を探してみましょう。
まめにチェックしていると、募集案件が出てくることがありますよ。

【 その3 ブランクが長く、現在の医療技術についていけないという不安がある 】
→「とどけるん」登録+ナースセンター利用+ハローワーク利用+病院や看護師求人サイトの復職支援研修+自己学習

看護師がブランクを経て、もういちど看護師の資格を活かして復職したいと考えるとき、以下のような不安があげられます。

  • ・フルタイムで勤務できるか不安
  • ・今まで経験したことのない看護は不安
  • ・電子カルテを使ったことがない
  • ・中途採用で4月採用者と同じような教育が受けられるのか
  • ・プリセプターがついてくれるのか
  • ・子育てをしながらでも勤務がしやすいか
  • ・看護技術が今までのようにできないのではないか

こういった不安を軽くするためにも、ナースセンターや病院が主宰している復職支援研修をうまく活用するのをおすすめします。

4. 看護師の再就職を支援するための方法【6つ】

では、看護師の再就職を支援するための方法を6つ、具体的にみていきましょう。

その1 離職届けを提出して再就職情報をうけとる【とどけるん】
「とどけるん」とは、2015年10月から施行されている「看護師などの届出制度」です。
保健師・助産師・看護師・准看護師の免許を持っていて離職している場合、「看護師等の人材確保の促進に関する法律」にもとづき、都道府県のナースセンターに届け出ることが努力義務になっています。

届け出たのち、マイページを開くと最寄りのナースセンターの最新情報を確認できるようになります。
そのほかにも以下の情報コンテンツが利用できるようになります。

  • ・ナースセンターの復職支援や職業紹介などのサービス紹介
  • ・離職していた看護師が復職するまでのインタビュー紹介
  • ・看護職の最前線情報
  • ・各都道府県別コンテンツ

【 届出のタイミング 】

  • ・病院等を離職した場合
  • ・保健師、助産師、看護師、准看護師の業に従事しなくなった場合
  • ・免許取得後、直ちに就業しない場合
  • ・現在、業務に従事していない場合

【 届出方法 】

まずは登録してみましょう。

その2 都道府県のナースセンターを利用する
「ナースセンター」は1992年に制定された「看護師等の人材確保の促進に関する法律」にもとづき設置されました。
「中央ナースセンター」は、日本看護協会が指定されています。 そのほか、47都道府県には必ずひとつ、都道府県ナースセンターがあります。

【 都道府県ナースセンターの主な事業 】

  • ・無料職業紹介事業
  • ・離職時等の届出受付
  • ・再就業支援研修

ブランクが心配な方は、最新の医療・看護に関する講習や技術演習、体験研修、看護職同士で交流ができる交流会などもおこなっています。
また、訪問看護、介護分野など新たな分野へチャレンジする方へは入門研修や施設見学などもおこなっています。
その他、スキルアップ研修やセカンドキャリア研修などもあります。

インターネット上で直接気になる求人情報にも応募ができるのも便利です。
ナースセンター:[ https://www.nurse-center.net/nccs/ ]
全国のナースセンター一覧表:[ https://www.nurse-center.net/nccs/scontents/eNursecenter/PrefNClist.pdf?20200901160000 ]

その3 自治体主催の復職研修を利用する
各都道府県ナースセンターでは、自治体主催の復職支援研修を提供しています。
復職に必要な最近の医療・看護の知識についてまなぶ機会を設けてあります。

たとえば神奈川県ナースセンターの研修には、

  • ・安全に行う採血の技術・静脈注射(血管確保)の知識・技術と輸液管理
  • ・急変時のフィジカルアセスメントと救急蘇生
  • ・安全に行う点滴管理と採血の技術
  • ・高齢者の摂食嚥下〜食べることは生きること/働く上で知っておきたい労働契約
  • ・現場で役立つ感染対策の知識と技術
  • ・事例を通して高齢者を理解しよう!

といったものがあります。
実践で役立ちそうなテーマばかりで心強いですね。

その4 病院などでおこなっている復職支援研修をうける
最近では病院でも復職支援研修をおこなっているところが増えています。
各都道府県ナースセンターのホームページからも検索できます。
希望している就職先に復職支援研修があるようであれば、ぜひ活用してみてください。

研修は、朝9時半くらいから15時くらいまで。
久しぶりの職場で緊張、疲労感はあるかと思います。
しかし、現場の空気に触れることは復職後のイメージづくりに最適です。
復職後に一緒にはたらくスタッフや、職場の雰囲気を感じられるメリットもあります。

その5 看護師求人サイトの復職支援サービスに登録する
復職支援研修を実施している病院を積極的に紹介してくれる、民間の看護師求人サイトに登録するのも一つの手です。

その6 最新の知識、技術を自分でまなぶ
復職前に勉強しておきたい方は、本やアプリを活用するのもおすすめです。
自分の空いている時間を使って、手軽に勉強できますね。

【 おすすめの本 】

  • ・潜在看護師復職支援テキスト
    看護専門学校の講師の方々が中心となり、復職をめざす看護師に向けて書かれています。

【 おすすめのアプリ 】

5. 段階に合わせた職場選びをしよう

ブランクが長ければ長いほど、大学病院や最先端の医療現場への再就職は「現在の医療技術についていけるのだろうか」「ママさんナースに理解があるのだろうか」「電子カルテの使い方が分からない」といった不安からのストレス源になりかねません。

まずはママさんナースが働きやすい職場選びをおすすめします。 以下は、おすすめの職場です。

  • A. クリニック
  • B. 訪問看護
  • C. 介護施設
  • D. 療養型病院
  • E. 個人病院

6. 状況に合わせた復職支援方法を利用しよう

長いブランクを経ても復職できるのが、看護師という資格の強みです。
再就職への不安を軽くするためにも、ご自身に合った復職支援の方法をうまく活用してみてくださいね。

(高橋 麻紀)