航空機内の緊急事態

岐阜大学医学系研究科救急・災害医学分野
小倉 真治

1. 航空機の中の環境
 航空機は通常24,000~43,000フィート(約10,000m)の高度を飛行する。機内には与圧装置によって外気圧より高い圧がかかっている。しかしながら、機体の構造上の限界により、気圧が0.8気圧(富士山5合目と同程度)にしか上げられない。気圧に比例して,1気圧で150Torr程度だった動脈血酸素分圧は118Torrへ低下し,同時に肺胞気酸素分圧も下がることで,Hb酸素飽和度も99%から90%へ低下する。このように、健常人でも通常でも酸素飽和度は90%程度に下がるが、心拍数,心拍出量などを増加させることで身体が代償している。これに耐えられない基礎疾患を持つ患者は当然ハイリスクとなる。
ハイリスクと考えられる疾患群
a) 心疾患:低酸素血症があることで特に虚血性心疾患を増悪化させる。
b) 呼吸器疾患:低酸素血症を悪化させるが、在宅酸素療法患者はもちろん、顕在化していない呼吸器疾患患者も要注意である。
その他閉鎖空間であることなど、注意は必要となる。

2. 航空機の中の医療資源
 現在、航空機運航の指標となっている取り決めは、2000年1月28日制定(空時第11号、空航第62号)、運輸省航空局長名の「救急の用に供する医薬品及び医療用具について」である。
 救急用医薬品等は、航空機内で救急患者が発生した場合に、当該機に乗り合わせていた医師等が応急手当に用いるためのものであり、その取扱い等に当たっては、薬事法(昭和35年法律145号)、麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)等関係法令を遵守しなければならない。
 航空機内に装備しなければならない最小限の救急用医薬品等は、運航会社によって異なるが、典型例を表に示す。

3. 航空機からの搬出
 航空機を緊急に地上に着陸させるのは運行コストを考えると相当難しい決断を要する。筆者もかつて国際線を緊急着陸させた経験があるが、機内にある、薬剤および医療機器を熟知した上で、その範疇では治療できない場合を明確に機長に伝える必要がある。ただし、それを伝えたあとは意外なほど円滑に緊急着陸になったので医学的な必要があれば逡巡することは許されない。

小倉 真治